時空を越える「明石城の襖」。

カタログの編集も酣の昨日は、本当に久々の休み。

そんな日曜日の昼下がり、現在「ルイ・ヴィトン」で限定発売中の超カワイイ「草間本」のデザインをした友人のタイワニーズ&ジャパニーズ・カップルの音頭で、友達達総勢6人でフラッシングへ繰り出し、本格台湾料理を遅目のランチに頂いた。

店内に軍服姿の兵士達や戦闘機の写真等が所狭しと貼られている、訳すと「退役軍人レストラン」と云う名前の一風変わった店だったが(笑)、味は本当に素晴らしく、「ミミガー」から「冷製蒸し鴨」、鳥や豚、野菜や蟹の揚げ物炒め物迄、もう何を食っても本当に旨い!その上、持ち帰りのお土産の代金を入れても、一人20ドルちょっと…この「悪魔のドア」を開け、筆者の背中を押したカップルには、感謝と恨みで一杯で涙が出そうで有る(笑)。

食事後、もう一組友人カップルが加わり、人種は日本・台湾・インドネシア・イタリアと増え、今度は「デザート」を食べに「台湾デパ地下」へ。

当に「此処、マジにニューヨーク?」と云う雰囲気の「台湾デパ地下」は、友達に「この間、一寸台北に行って来たんだけどね…」と云って、此処で撮った写真を見せても決して誰も疑わない事間違い無しの、もう完璧なる混沌とした「ジ・エイジア」だ。

此処でも我ら8人は、優ちゃん好みの台湾風「マンゴー・かき氷」や豚マン等を頂き、もうマゴイチ大満足の休日。旨過ぎる「悪魔の『フラッシング』」、毎週来ない様にせねば…(笑)。

話は変わり、先週の或る晩、友人の現代美術史家冨井玲子女史がキュレートする現代美術の展覧会レセプションに出席の為、チェルシーのhpgrp Galleryへ行ってきた。

この展覧会は「Views of Life」と題され、北出健次郎、斉木克裕、林亨、堀崎剛志、篠原乃り子5人のニューヨーク在住日本人アーティスト、そして日本在住の山下耕平、中尾ひろ子、大石貴子をフィーチャーし、作家が個人的、社会的、そして歴史的に緊張感を持った「生活」への視点を探る試みの企画である。

レセプションも盛会の中、玲子さんや友人達に挨拶しながら、ギャラリーに展示された各作家のユニークな作品を見て廻ったが、まるでブロンズ作品の様に見える、「原爆雲に乗った羊の雷神」チックな北出君の陶磁器彫刻作品「Every Cloud Has a Silver Lining」や、斉木君のベルリンのテレビ塔を撮影したミニマルな美しい作品「Split #3」等が、個人的には気に為った。

そして「ニューヨークの台湾」、現代美術と来て、此処からがやっと今日の本題…話が急に「現代」から「17世紀」へと逆行するので、「時間酔い」に為らない様に(笑)。

さて現在カタログ編集奮闘中の、次回の筆者担当「日本・韓国美術オークション」は、約200点の出品、ニューヨーカーに取って「忘れられない日」に開催される。が、作品ラインナップの方は中々充実していて、その「スニーク・プレビュー」は追って此処で詳しく記そうと思うが、今日はその中から目玉の1点、「歴史」と「美術品の流転」を具現する重要作品を紹介しよう。

その9月のオークションの大目玉と為っているのが、「重要『江戸絵画』プライヴェート・コレクション」…クリスティーズは、これから3回のオークションに分けてこのコレクションを売却するのだが、今日紹介する作品はそのコレクション中の白眉、旧「明石城襖絵」二曲屏風三隻で有る。

この紙本金地著色、旧襖六面の「雪景水禽図」を描いたのは、生没年不詳ながら、17世紀初頭に活躍したと思われる絵師、長谷川等仁。また、この襖が嘗て存在した明石城は、元和4年(1618)に小笠原忠真に拠って築城、そして本丸の豪華な3階建て藩主の館に在り、恐らくは24面存在したと思われるこの襖絵群には、春夏秋冬の花鳥図が描かれていたと云われて居る。

しかしこの館は寛永5年(1628)に焼失、その時現存する「冬から春」に掛けての12面のみが救い出され、幕末迄蔵屋敷にて保管されて居たが、明治7年(1874)に明石城は廃城、明治16年(1883)当時の記録に拠ると、この12面の襖絵は先ず「六曲一双屏風」に体裁を変え、その後「十二幅対の掛幅」に、最後は小笠原家家臣で有った平井惇麿に拠って「二曲六隻」の屏風へと仕立て直されたらしい。

そしてこの六隻の屏風が売りに出された昭和34年(1959)、このダイアリーにも度々登場する伝説の古美術商薮本宗四郎は、その内の一隻を東京在住のフランス人コレクターに、そして二隻をこれも東京在住のアメリカ人コレクターに売却、残りの三隻は米国人ディーラーを介して、ワシントンDCのフリア美術館に売却し、現在もフリア美術館がその三隻を所蔵している(フリアのその三隻とは、今回売却される三隻の右に位置する一隻と、左に位置する二隻…つまり今回売却される部分が「中央部」に位置する)。

さて、今回筆者が扱う三隻は、上記の通り当時東京在住の仏・米人コレクターの所蔵に為った物で、その三隻は時代を経てそれぞれ所蔵者の故国で有るフランスとアメリカに移動し、分蔵されていた。しかし1996年、サザビーズ・ニューヨークのオークションに別々の2ロットとして一度に登場、現所有者が両ロットを落札し現在に至るが、今またマーケットにその美しい姿を現したと云う訳だ。

落札予想価格は、三隻纏めて25万−30万ドル(約1950万−2400万円)…400年間に及ぶ「日本史」と「流転史」を考えれば、「歴史の代金」としても決して高くは無いと思うが、如何だろう?

以前、旧龍安寺襖絵をオークションに掛けた時は、龍安寺がそれを買い戻した。はてさて今回は、一体誰が「5世紀に跨る『歴史』」の新しい所有者に為るのだろう…その答えは「9・11」に明らかになる。