謹賀新年、或いは「龍安寺」に里帰りした襖絵。

新年明けまして、お目出度う御座りまする。本年も宜しくお願い奉り候。


気が付けばこのダイアリー、何と2ヶ月半も更新せず…僕に取って、こんなに長い期間の非更新は初めてなのだが、これは単に10月に起こった青天の霹靂の人事異動の所為で有る。

なので、新年を迎えた今日は、昨年のラスト2ヶ月の総括を。

先ずは11月のニューヨーク・セール…大物では唯一ゴッホが売れなかったが、ホッパーとホックニーに其々「アメリカ絵画」と「現存作家」の世界新記録価格が出たりして、メインセール・ウィークの売り上げは競合他社との差も歴然。そして相変わらず世界のアート界に漂う、マネーの多さを証明した。

続く香港セールでは、アジアで売られた最も高額(約67億6千万円)なアートと為った、宋時代の詩人蘇軾作の「木石図」が有ったが、その反面アジア現代美術は苦戦。然し日本人顧客に関して云えば、買い手・売り手とも活発で、東洋美術マーケットに於ける日本の重要性は増して来て居るし、一点で5、60億円の作品が存在する以上、一昨年の藤田美術館セールを鑑みても、東洋美術のアート市場は現代美術や印象派と比べても、決して引けを取らないマーケットに為って来て居ると思う。

だが、僕個人の今年最後の仕事として特筆すべきは、矢張り123年振りに襖絵9枚(芭蕉図)を、プライヴェート・セールで京都の古刹龍安寺に戻した事だろう(→https://www.sankei.com/photo/story/news/181221/sty1812210010-n1.html:記事には「持ち主が持ちかけ」と有るが、実際は僕がお寺に戻したいから売ってくれと頼んだのだけれど…)。

実は僕は2010年のオークションで、別の襖絵6面(群仙図・唐子図)を龍安寺さんに買って頂いて居るのだが(拙ダイアリー:「里帰りする『襖絵』」参照)、人生で2回も同じお寺さんから流出した襖絵を戻すなんて、もう「ご縁」としか思えない。

さてこの計15面を含む龍安寺の襖絵は、仏教美術品に良く有る様に、明治期の廃仏毀釈時に流出し、その時は九州の炭鉱王が引き取ったのだが、その後海外に流出、現在も数点がメトロポリタン美術館やシアトル美術館に収蔵されて居る。

そして今回のこの「芭蕉図」も長く英国に有り、前からそれを知って居た僕は、何とか元の場所に戻したいと思って居たが、一寸油断をした隙に何時の間にか日本在住コレクターの元に移って仕舞って居て、が、それから持ち主との数年間の交渉の末、漸く売って頂ける事と為ったので有る。

今回の仕事はお寺さんにも大層お喜び頂いたのと、僕自身も偶々京都での大学の講義日程と合った事も有って、今回襖絵が132年振りにお寺に里帰りする「その日」に立ち会う事が出来て、本当に嬉しかった!

最近新しい職務に可成りウンザリして居た僕としては、今迄遣って来たこの様な仕事に未だ携わるチャンスが有る事だけが救いなのだが、「美術品とその『美術史に触れる』と云う仕事だけが、僕に取って最も遣り甲斐の有る仕事なのだ…」と改めて、そして熟く思う新年なので有った(笑)。


ではでは、この辺で此処2ヶ月半の「藝活」状況を箇条書きで記して置こう。


ー展覧会ー
・「ルーベンス展ーバロックの誕生」@国立西洋美術館
・「フィリップス・コレクション展」@三菱一号館美術館
・市村しげの「Resonance」@Cassina Ixc.
・「新素材研究所ー新素材 x 旧素材ー」@建築倉庫ミュージアム
舘鼻則孝「Beyond the Vanishing Point」@Kosaku Kanechika
・Stefan Bruggemann「Ha ha what does this represent? WHat do you represent?」@Kotaro Nukaga
森村泰昌「『私』の年代記 1985-2018」@ShugoArts
・リチャード・タトル「8, or Hachi」@小山登美夫ギャラリー
・「新・桃山の茶陶」@根津美術館
・「雅展」第十回「みやび」@瀬津雅陶堂
・齋木克裕「朝食の前に夢を語るように」@Sprout Curation
・「中国近代絵画の巨匠 斉白石」@東博
・「高麗青磁ーヒスイのきらめき」@大阪市立東洋陶磁美術館
・「Michael Borremans / Mark Manders」@ギャラリー小柳
・「田根剛 未来の記憶」@ギャラリー間
・「Sadamasa Motonaga」@Fergus McCafrey, NYC
・「Alexander Archipenko: Space Encircled」@Eykyn Maclean, NYC
・多田圭佑「エデンの東」@Maho Kubota Gallery
Chim↑Pom「グランドオープン」@Anomaly
・「Love & Peace:ロバート・インディアナ追悼展@ヒルサイドフォーラム
・川島秀明「Youth」@小山登美夫ギャラリー
・「桑山忠明」@Taka Ishii gallery
・小野祐次「逆も真なりー絵画頌」@ShugoArts
・「コレクション展」@京都国立近代美術館
・「バブル・ラップ」@熊本市現代美術館
・「扇の国、日本」@サントリー美術館


ー映画ー
・「ボヘミアン・ラプソディー
・「わたしはマリア・カラス
・「名探偵登場


ーCDー
横山幸雄・黒木雪音・藤田真央「パデレフスキ:ピアノ名曲集」
・平井麻奈美「願い」
村治佳織「Cinema」
・ヴィキングル・オラフソン「フィリップ・グラス:ピアノ・ワークス」


ーアートフェア・オークションー
・「蒐集衆商」@スパイラル
・「Harajuku Auction: Pop-life / Pop-ism」@The Flat
・「目白コレクション」


ー音楽会・舞台ー
・ヴィクトリア・ムローヴァすみだトリフォニーホール
マウリツィオ・ポリーニサントリー・ホール
・能「利休ー江之浦」@江之浦測候所・石舞台
・能「天正遣欧使節」@MOA美術館・能楽堂
・「Mugen∞能」@観世能楽堂
・「歌舞伎座百三十年 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部(法界坊)」@歌舞伎座
・「豊饒の海」@紀伊国屋サザンシアター
マリインスキー・バレエ東京文化会館
・イーヴォ・ポゴレリッチ@サントリー・ホール
・浜松シティ・フィルハーモニー「第8回定期演奏会エルガー「チェロ協奏曲」)@浜松福祉交流センター
・「Skylight」@新国立劇場
・「貴信の會」@観世能楽堂
・「十二月大歌舞伎 夜の部(阿古屋)」@歌舞伎座


ー茶会ー
・千宗屋「南蛮茶会」@MOA美術館・一白庵
・随縁茶会@武者小路千家東京道場
森万里子「現代茶人の茶席」@根津美術館


ーレクチャー・授業ー
・「ラ・ココット」講演会@エノテカ・ピンキオーリ名古屋
・京都造形芸術大美術工芸学科基礎美術コース、1・2年生授業@京都造形芸術大学


いやぁ、やっと更新できました(笑)…が、各藝術の内容や感想に関しては、少しずつアップして行く予定なので、次回のダイアリーがアップされた後も、偶に気にして見直して頂ければ幸甚で有る。

然し、今年の年末は忙しかった…クリスマスは昨年程は嫌いじゃなかったが(笑)、恒例の作家・写真家・ジャズ評論家との忘年会「男4人会」や、アート関係者が集う「玉蘭会」も盛況、そして現代美術家S氏とは連夜の熱唱、何時もの様に除夜の鐘も「Z」で。

正月休み明けからは直ぐ海外出張が待っているので、確り休みまする。


ーお知らせー
*1月19日(土)、朝日新聞「be」の「フロントランナー」(→https://www.asahi.com/articles/DA3S13852214.html)に、取材して頂きました。ご一読下さい。

*雑誌「pen」468号(2月15日号)「今こそ知りたい!アートの値段。」(→https://www.pen-online.jp/magazine/pen/468-art)にインタビューが掲載されて居ます。ご一読下さい。

*3月2日(土)18:30〜20:00、朝日カルチャーセンター新宿にて「『奇想の絵師』とプライス・コレクションー奇想の系譜展によせて」と題されたレクチャーを開催します。詳しくは以下参照下さい(→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/266a6245-940d-c189-3223-5bc5c54de32e)。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)!

*日本美術専門誌「國華」の会員誌、「國華 清話会会報」第三十二号に、僕と小林忠先生の対談が掲載されて居ます。ご一読下さい。

*「目の眼」第508号に、僕のインタビューが掲載されています。ご笑覧下さい(→https://menomeonline.com/about/latest/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。