「Dark Knight tragedy(『ダーク・ナイト』の悲劇)」。

コロラド州オーロラの映画館で昨日深夜行われた、超話題新作映画「Dark Knight Rises」の先行試写会で銃の乱射事件が有り、超満員300人の観客の内12人が死亡、59人の観客が負傷した。

ライフルとショットガン、拳銃2丁を持ち込んでこの事件を起こしたのは、神経科学専攻の24歳の白人学生。ニュースに拠ると、犯人は拘束され黙秘しているらしいが、事件当時犯人は、黒い服とガスマスクを付けて劇場内に登場、多くの観客は上映前のアトラクションと思ったらしい。

まるで上映される映画の劇中でこそ発生すべき、全く以て恐ろしい事件だが、アメリカ各地で繰り返される銃の乱射事件の発生を聞かされる度に、本当に憂鬱に為る。

何故なら、24歳の普段大人しい医学生が、ライフルとショットガン、拳銃2丁をいとも簡単に手に入れ、その上実行後自室に調べに来るで有ろう警官を殺害する為の、「ブービー・トラップ」を仕掛けられる程の、謂わば「一人軍隊」とも云える武装が出来ると云う、「憲法修正第2条」に端を発する銃規制の問題と共に、今回の様に、映画やゲームのストーリーやその描写が犯罪者に与える、強い影響を考えざるを得ないからだ。

アートの表現は自由で有るべきだが、しかし商業的目的の強い「マス」にリーチする分野や、それを目的とする作品を制作アーティストは、自身の作品がバイオレンスやエロ、差別等に於いて世間に悪影響を与える可能性の有無を、一度は考える必要が有るかも知れない…云う迄も無く、刺激的・過激な方向だけが、アートの進むべき道では無い筈だからだ。

そしてもう1点、特に地方に住むアメリカ人は、時に「劇性」を好むと云う事が有る。

ニューヨークの様な所に住んでいると、色々な意味で日々エキサイティングな事が身の回りに起こる可能性も有るが、アメリカと云う国の大部分を占める、共和党的な、平穏且つ退屈な土地の人々は、心の何処かで「刺激」を求めて居る…余談だが、筆者は日本の「イジメ」も、「退屈」から生じているのではと思うのだが、如何だろう?

つまり「ハリウッド映画」の最大顧客とは、刺激的で劇的なモノを必要としているアメリカの一大マジョリティな訳で、ハリウッド映画に「芸術性」を求める方が、基本的に間違っているのだ。

さて今回の犯人は、単位が取れなかったか、試験に落ちたかして、今回の凶行に及んだらしいが、日頃大人しい犯人が超満員の「バットマン映画」のプレミアで、恰も「ジョーカー」の如く振る舞い、観客にもそう勘違いさせ、「Dark Knight Rises」以上の劇的なる恐怖を自分が与えたと云う事を考えれば、彼の「劇性」への憧憬は、十二分に充たされたと云って良いだろう…4ヶ月の幼児から59歳迄の、死傷者71人を出してしまった事を除けば、だが。

アートを作る者、そしてディストリビュートする者は、今一度この事を真剣に考えた方が良いと思う。アートの持つ力は、それ程に強いからだ。

事件発生後、一晩経ったニューヨークのキー局やケーブル各局では、「Dark Knight」を初めとする「バットマン」シリーズの映画を、「これでもか」と云う程放映していた事を最後に付け加えておく。