咽び泣く「ハーモニカ」:杉本博司展@クリスティーズ・ジャパン。

今日も「アート」では無く、いきなり「食」の話で恐縮だが(笑)、数日前、今年行った如何なるイタリア料理店の中でも、最も旨いイタリアンを食べた。そのレストランとは目黒に在る「M」…余りに小さい食堂の様な店なので、此処で教えて予約が取れなくなってしまうのが嫌だから、教えたくない(笑)。

この店、20年来の友人のフード・ライターで有る和田紀子さんに連れて行って貰ったのだが、「白子のフリット」や「ブリとビネガー・タマネギ」「ポートベロ・マッシュルーム・ソテー」「ハラミのステーキ・オリーヴオイル」「カラスミ・パスタ」に「イノシシのラグー」迄、パンチー且つサッパリとした料理の数々には、もう至福の一言。

ヒントは、今は閉店した某有名シェフの元で修行した「女性シェフ」…滞日中にカムバックせねば!

さて、今度こそ「アート」の話(笑)…丸の内に在る重要文化財建築「明治生命館」に移転したクリスティーズ・ジャパンで、現代美術家杉本博司氏の展覧会が始まった。

氏が内装を担当したこの新オフィス、前に比べるとギャラリー・スペースも広く皇居を臨む会議室等も有り、新たなる「日本に於けるアート発信・輸出入基地」としてのクリスティーズ・ジャパンの船出に相応しい、「和ミニマル」とでも呼ぶべき非常にスッキリとした、センスの良いスペースで有る。

水曜日、その新スペースに杉本氏と小柳敦子氏を始め、取材に来た写真家鈴木心氏、氏のステュディオやギャラリー小柳のメンバー、運送会社の方々等が集まり、インスタレーションが始まった。

開梱され設置された作品達は、展覧会の目玉、平安期の「十一面観音立像」に「海景」、19世紀のタルボットのリプリント作品、「皇帝用茹で卵容器」と呼びたく為る様な漢時代の宇宙的「鍍金鼎」、平安期行道面や大燈国師の墨跡等、そして本展の最大の「裏」目玉と云うべき(笑)、昭和期の「高価不用品買入」木製看板迄、全て杉本テイスト一色。

そして、味の有る「床の間」風エントランスからギャラリーを抜けた、皇居を見渡す素晴らしいヴューの角部屋に設えられた杉本デザインの黒松材大テーブル(数式モデル曲線の足付)の上には、ロンドン・ギャラリーの「家元」田島充氏に活けられた、御舟の絵の如き椿が法隆寺伝来の巨大な青銅升から伸びる。

そう、現代&古美術が展示され、信じられない位に引き締まった空間と為ったクリスティーズ・ジャパンは、もう「オフィス」ではない…「ギャラリー」で有る!

そうして迎えた昨日、80名程の招待客を迎えてのオープニング・レセプションが開催された。

アートに関心の深い、某化粧品会社会長や建設会社会長、有名旅館主人等のコレクター達、有名美術館館長達や美術史家達、茶道家元や有名女優(美しきSさん)、クリエイター迄豪華なメンバーが揃ったパーティーは、ジャパン社長の挨拶の後、杉本氏の本オフィスのデザイン施工に関する建築的「早い・安い・上手い」と云う「吉野家」的挨拶(笑)を経て、杉本氏ご指名のクラシック・ギタリスト村治奏一君に拠る、素晴らしいパフォーマンス。

しかし、この夜の「真の」メイン・イヴェントはその後突然に始まり、それは歓談中、杉本氏が壇上に上がって突然始めた「ハーモニカ」と歌の独演で有った!

演奏された曲は、クリスマスが近いと云う事で「Amazing Grace」と「Silent Night」…窓の外に見える、冬風に舞う黄色い銀杏の葉と丸の内の夜景を臨みながら、咽び泣く杉本氏のハーモニカと歌声は、当初招待客達をビックリさせ一寸引かせたが(笑)、最終的には「Silent Night」を皆がハミングする程に、会場は暖かな雰囲気に包まれたので有った。

パーティー後は、杉本氏を囲んで少人数での打ち上げ食事会をし、「杉本展@クリスティーズ・ジャパン」のオープニングは無事終了。

そして記念すべきこの一日が終わって、筆者が一番ホッとした2つの事は何かと云うと、それはここ数年、氏の重要なイヴェント開催日の天候が、毎回大雪や台風等で酷かったにも関わらず、昨晩は何故か全く問題が無かったと云う事と、氏の唄が「一億総火の玉」で無かった事で有る(笑)。

素晴らしい内装と作品とコレクション、そして咽び泣くハーモニカ…現代美術家杉本博司の、才能全開な夜でした!