「中国青銅器」の寄贈と、新たなる「Sublime & Beautiful」の誕生。

先ずはトップ・ニュース。

昨日オークションで売却される筈だった、商〜西周前期の「青銅饕餮文方罍」は、急遽オークションが中止された。

そしてこの「青銅饕餮文方罍」は、「生まれ故郷」と思われる湖南省プライヴェート・コレクター有志に拠って「プライヴェート・セール」で買い取られた末、その「蓋」(と云われる)の有る湖南博物館に寄贈される事と為ったので有る。

確かにこの「青銅饕餮文方罍」には、「4000万ドルに達するのでは?」「ニュー・オークション・レコードを作るのでは?」との大きな期待も有ったのだが、この「プライヴェート・セール→寄贈」と云う結果は、結局売り手と買い手、博物館、そしてクリスティーズを含めた全関係者がハッピーに為る結末、また納まる処に納まった形と為り、本当に良かった様に思う。

さて筆者はと云えば、この大事な時期に「座骨神経痛」に為って仕舞った(涙)。

唯でさえ下見会は立ちっぱなしで、且つ歩く時間・距離も何時もより多く為るのだが、今回の臀部から足の裏筋に掛けての痛みは、立って居る時は良いのだが、座って立ち上がった後に酷く痛んで、立った後暫くは痛くて足を引き摺る程。

50を過ぎると、こんな事も起きて来るのが悲しい。今週を乗り越えたら、本格的に治さねば…。

そんな中クリスティーズ・ニューヨークでは、火曜日から春のアジア美術オークション・ウィークが始まった。

初日の午前中に開催された、筆者担当の「日本・韓国美術セール」はそれなりの好成績で、ヴァリューで73%、ロット・ベースでは71%を売り、売り上げ総額は313万9125ドル(約3億2000万円)。

セールのトップ・ロットは、「李朝染付鳥飾文壺」の84万5000ドル(約8600万円)で、次点が江戸期明珍信正作「龍自在置物」の42万5000ドル(約4330万円)で有った。

午後開催は、西海岸の有名韓国美術業者&コレクターのボブ・ムーア氏のコレクション・セール。此方は162万3563ドル(約1億6500万円)を売り、ヴァリューでは94%、ロットでは90%ソールドの大成功のセールと為った。

セールを振り返ると、日本美術では何故か絵画が全く売れず、版画と明治美術は爆発的に売れる。世界的に見れば、日本美術コレクターは明らかに「デコラティヴ」の方向へと向かって居り、それは決して悪い事では無いのだが、日本美術各分野のコレクター層の薄さを露呈して居ると云える。

さてこの日のセール後の夜は、アジア宗教美術セール「The Sublime and the Beautiful: Asian Masterpieces of Deviotion」を記念しての「トップ・クライアント・ディナー」。

このディナーはアジア美術3部門の、中国本土からの顧客を含めた世界のトップ・クライアント35名程を招待しての物で、某世界的有名ホテル・チェーンの御曹司等から高名なる学者迄が揃ったディナーだったが、本業や国籍、年齢が異なる者同士でも「美術品」を介すれば忽ち打ち解けてしまうと云う「マジック」を改めて感じさせて呉れる、素晴らしい一夜と為った。

そして昨日の朝は、その大注目の「The Sublime and the Beautiful: Asian Masterpieces of Devotion」セールを開催。

この「Sublime」セールには計33点の出品が有ったが、結果はと云うとヴァリューで83.3%、ロットで63.6%を売り、総額約1913万ドル(約19億5000万円)を売り上げての大成功を収めた!

このセールでも中国美術の勢いは止まらず、トップロットは中国明時代永楽年間製の「金銅薬師如来坐像」。この作品は、今の中国人の好みの「ストライクド真ん中」的作品で、200万ー300万ドルのエスティメイトに対し、554万1000ドル(約5億6500万円)と大ブレークした。

以下トップ3迄はピカピカの中国金銅仏が占めたが、日本美術では興福寺旧蔵の国宝十大弟子の「ツレ」で有る乾漆像が66万5千ドル(約6780万円)で最高額、次点が鎌倉期の金銅阿弥陀如来坐像の54万5000万ドル(約5560万円)で有った。

また今回特別に出品された最終ロット、現代美術家杉本博司氏のユニーク・インスタレーション「Sea of Buddha」も22万1000ドル(約2255万円)で売れ、この特別セールのフィナーレを飾った!

この杉本氏の作品を落札したのは、ヨーロッパの高名な東洋古美術関係者だったのだが、この人に拠って本作品が買われたと云う事実は、この「Sublime」セールに杉本氏の作品を出品した意味が有った事を証明した形に為ったと思う。

そしてこのバイヤーが、長年東洋古美術の「トップ・オブ・トップ」クオリティ作品を観続けて来た人だったと云う事実は、世界に2つと無い今回の「Sea of Buddha」が、未来の「The Sublime & the Beautiful」作品に為ると云う証しの様に、筆者には感じられたにで有る。

何れにしろ、筆者が関わった今春のオークションはこれで無事終了…ヤレヤレである。