「青銅饕餮文方罍」と「日本人の眼」の行方。

寒さもやっと一息吐いたニューヨークでは、春の「Asian Art Week」が始まった。

そんな中、各ギャラリーが開催する特別展示や、レセプションを廻るのも仕事の内。日本美術ディーラーSebastian Izzard Asian Artでは、状態も素晴らしい初期浮世絵から春信等の錦絵、肉筆浮世絵等の展示を堪能…然も、大体売れて居る処が凄い。

Mika Galleryでは木造女神像や、金沢21世紀美で展覧会をされたと云う現代書家、柿沼康二氏の力有る作品を拝見し、日本クラブでは金工や七宝等の「明治工芸」の展覧会を観る。

また金曜の夜は、ニューヨークでの日本美術展覧会の一つの目玉、「JADA(Japanese Art Dealers Association)」のレセプションへ。

大勢の人で賑わって居たが、何時も使用して居るウクライナ・インスティテュートの1階のギャラリーには作品が無く、バー・カウンターのみ。また上階に展示された作品も、例年に比べると今ひとつ迫力に欠ける感じで、昨今の作品不足を目の当たりにした気がする。

そしてクリスティーズでも、「Asian Art Week」の下見会が先週金曜から始まった。土曜に開催した日本クラブ主催の下見会ツアーも無事終了し(参加頂いた皆さん、有難うございました!)、昨晩開催されたレセプションは此処数年では最も混雑し、「買う気」が伺える熱気溢れるレセプションで有った。

さて今回のクリスティーズ「Asia Art Week」の目玉は、セールでは前回此処に記した宗教美術セール「The Sublime and the Beautiful」だが、「単品」で云えば此れはもう疑い無く、20日の中国美術セールに出品される商〜西周前期の「青銅饕餮文方罍」(→http://www.christies.com/lotfinder/lot/a-magnificent-and-highly-important-massive-bronze-5779409-details.aspx?from=salesummary&intObjectID=5779409&sid=3ffdff5c-24c8-4e6c-a271-e418bb61a2bd)だ!

この「エスティメイト・オン・リクエスト」(大体1500万ドル:15億円位と云われる)だが、落札予想は4000万ドルとも云われる美しくも力強いこの青銅器は、2001年クリスティーズ・ニューヨークの中国美術セールで、個人コレクターに凡そ9億円で売却。この値段は、その後伝運慶作「木造大日如来坐像」が2008年に14億3千万円で売れる迄、如何なるアジア美術の中でもレコード・プライスで有った。

そしてその後13年の時を経て、今回この作品の価格は、中国経済と美術市場の恐るべき発展拡大と共に、何と「5倍」の予想と共にマーケットに戻って来たので有る。

「13年」と云う年月は、世の中が激変するのに十分で有る。また、アート・マーケットの「予知」とは本当に難しい物で、例えば都現美が1994年にリキテンスタインの「ヘアリボンの少女」を、確か6億円程で購入した際、マスコミや人々は「都があんなマンガみたいな絵に、6億円も…」と非難轟々だった。

が、現在のコンテンポラリー・アート・マーケットを見よ!リキテンのあの作品は、恐らく今ではその5倍払っても買えないのでは無いか。その意味で今回の青銅器の価格にしても、2001年当時は「そんなにするのか…」と思った人が殆どだったろうから、市場の発展が不可欠で有るにしても、物凄い成功投機だったも云える。

さてこの「青銅饕餮文方罍」は、一時日本のコレクター浅野梅吉の元に在った事が有る。

そして、昨年如何なる美術品としてもオークション世界最高価格を記録した、フランシス・ベーコンの「ルシアン・フロイドの3つの習作」の内の1枚も、嘗て日本に在った。

「日本来歴ブランド」は時折オークション・シーンで重要な位置を占めるが、贋作犇めく中国古美術マーケットでの信頼性は、非常に高い。それは要は、嘗ての日本人の眼がそれ程信用されて居る訳だが、我々の眼が単に「過去の眼」としてだけ尊重されるだけでは余りに淋しい。

日本人の「今の眼」を証明する日が、近い将来必ず来る事を切に願いつつ、この「青銅饕餮文方罍」のセール結果に注目したい。

この「青銅饕餮文方罍」のオークションは20日、「The Sublime and the Beautiful」セールの終了直後に行われる…5000万ドル超え為るか、乞うご期待!