「オールド・マスター」の復権。

ニューヨークの気温も一昨日は13度、昨日はマイナス7度と乱高下しながら、今年も早やひと月が過ぎ、気が付けばもう2月。

そんな中昨日のニューヨーク株式市場は、ダウが5年4ヶ月振りに終値1万4000ドル台、そして為替市場ではドルが92円97銭を付け景気の回復を垣間見たが、クリスティーズはと云うと、先週「オールド・マスター・ウィーク」を終了した。

そして株価の復活と共に驚くべきは、そのオールド・マスター「5つのセール」の出品作品のクオリティの高さと、素晴らしいセール結果で有った!

先ず先月29日に開催された、「Albrecht Dürer – Masterpieces from a Private Collection」。

このセールはご存知デューラー版画の「個人コレクション・セール」で、62点の出品中47点が売れ、総額600万2750ドル(約5億4000万円)を売り上げた。

トップ・ロットは、アメリカの個人コレクターが落札した木版画「犀」で、86万6500ドル(約7800万円:エスティメイトは10-15万ドル)…これはデューラー版画の世界新記録。そして何しろ名品揃いのこのセール、筆者が愛して止まない作品「アダムとイヴ」(拙ダイアリー:「アダムとイヴ」参照)は高額落札第3位の66万2500ドル、そして「メランコリアI」は4位の53万500ドル。今回の「アダムとイヴ」もマジに素晴らしく、欲しくても欲しくても、出るのは溜息ばかり…(嘆)。

翌30日には「Old Master Paintings Part 1」セールが開催され、此方は41点中30点が売却、売上総額は1994万4750ドル(約17億9500万円)。このセールでは3つのアーティスト・レコードが出たが、トップ・ロット且つその内の1点だったのが、最近三菱一号館美術館で展覧会が催されたジャン・バプティスト・シメオン・シャルダンの「縫う女」で、売却額は400万2500ドル(約3億6000万円)。以下トップ10には、カラッチやパオロ・パニーニ、ワトーやヴァン・ダイク、ヤン・ブリューゲル(父)等の順当なメンバーが入った。

そして3つ目のセールは、同日開催されたこの週の「真打」スペシャル・セール、「Renaissance」。これがまた凄いセールで、トップ10中の5作品がアーティスト・レコードを記録し、たった33点で何と4264万6850ドル(約38億3800万円)を売り上げたのだ(→http://m.christies.com/sale/list/id/23950/type/past/sp/1/?KSID=590e4d891d5b72c35353ad75a313d51a)!

トップ・ロットは、1296万2500ドル(約11億6800万円)で売れたフラ・バルトロメオの「聖母子像」で、第2位は「ロックフェラー・マドンナ」としても知られる、ボッティチェリの「聖母子と若き聖ヨハネ」(→http://m.christies.com/sale/lot/sale/23950/lot/5649717/p/1/enlarge/1?KSID=abbcf0fe44c08d4e61913879bf1759f5)…この作品はロックフェラー家に伝わった後、一時は日本のコレクターI氏の元にも有った大名品で、見ていて涙が出る程の、本当に本当に素晴らしい作品で有る。

この2点は双方ともアーティスト・レコードを記録したのだが、こうなると落札額や当社の儲けはさて置き、何しろこのセールの下見会場に佇んだが最期、もう至福の一言で、これだけクオリティの高い作品を、これだけ間近で、その上人が居ない所で穴が開く程見る事が出来、その空気を感じる事が出来るのは、何と云っても当社社員の特権だろう…ウーム、この会社に入って居て本当に良かった(笑)。

さて翌31日は、4つ目のセール「Old Master & Early British Drawings & Watercolors」。このセールも1654万4625ドル(約14億9000万円)を売り、ニューヨークでの「オールド・マスター素描セール」の売り上げ新記録を打ち立てた。此方のトップ10にも、大好きなアングルの作品が「紙作品」としてのアーティスト・レコードを記録した他、ティエポロやゲインズボロの素描にも「紙作品」としてのアーティスト・レコードが輩出、ヴァリューで97%を売ったホットなセールと為った。

そして最後の「Old Master Paintings Part 2」の売り上げ、328万8675ドル(約3億円)を加えると、先週のクリスティーズの「オールド・マスター・ウィーク」は、何と8842万7650ドル(約79億6千万円)を売り上げ、ニューヨークでは2006年以来の「モスト・ヴァリュアブル」なウィークと為ったので有る!

しかし上にも記したが、お金の話は兎も角、この度のオールドマスターの下見会は、特に「ルネッサンス」(「ひげ男爵」では無い:笑)セールに出品されていた美しい「聖母子像」の数々を目の当たりにし、その透徹さと美しさに嘗て無い程のヘヴンリーな感動を覚えた。

何も現代美術や印象派作品に品が無い、と云う訳では無い。が、今回の様に格調高いオールド・マスターの名品に囲まれた時の至福感と云うか重厚感、そして何より気品有る雰囲気は何とも云えない。

これは自分が年を取った所為なのかも知れないが、しかし日本の古美術でもそうだが、作品が過ごして来た歴史とその作品に携わって来た人間達、それを現在に至る迄遺して来た者達の「眼」が、観る者に畏敬の念を持たせるからなのだろう。

以前此処にも書いた様に(拙ダイアリー:「去年、最も売れたのは…?」参照)、クオリティの高いアンティークの底力は凄い。

その意味でも、先週のクリスティーズの「オールド・マスター・ウィーク」は、当に「オールド・マスターの『復権』」とでも云いたい、嬉しい結果を残してくれたのでした!


−筆者に拠るレクチャーの開催告知−

日時:2013年2月9日(土)午後3時半-5時

場所:朝日カルチャーセンター新宿

講演タイトル:「渋谷の『白隠』と海を渡った『白隠』」

講座サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=188251&userflg=0
展覧会サイト:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_hakuin.html

皆さん、奮ってご参加下さい!