バーグマン夫妻が愛した「箱」。

やっと春が訪れたニューヨーク…最近は個人的イヴェントが目白押しだった。

前回のダイアリーでも触れたが、先週の金曜日は、我等地獄夫婦の10回目の結婚記念日(「アルミ婚」と云うらしい…未だ未だ安っぽい感じがする)。「10年」と云う年月はアッと云う間だったが、バツイチのワタクシがこの10年を何とか過ごせた大きな理由と云えば、勿論マヨンセのお陰も有るが、結婚生活とは「プラクティカル」だと云う事と、「妥協の賜物」だと云う事を学んだからだと思う。

その4月18日と云う日は、我々を初めて会わせて呉れた元裏千家ニューヨーク出張所所長の故山田尚先生の命日でも有るので、朝は亡き先生と亡き父親に感謝の祈りを捧げ、義父の美しい「初咲盌」で一服点てて2人の霊前に献茶後頂き、マヨンセにはささやかなプレゼントとカードを渡す。

出社して1日仕事をした後、10年間の相方と「アニヴァーサリー・ディナー」に向かったのは、アッパー・イーストサイドのホテルに在るレストラン「C」。アペタイザーから始まり、もう「人生最高」と云っても良い程美味かった鴨胸肉と帆立、そして店からの「お祝いデザート」+名物の小さなマドレーヌ迄頂き、大満足。

その後はその日7番街に開店したばかりの、チェルシーの行き付けイタリアン「B」の2号店のワインバー「B」にお祝いに駆け付けて一杯遣るが、其処でも「エビフライ・ワサビソース」や「スモール・ピッツァ」を食べてしまふ…いとをかし。

1日置いて、これ以上無いと云う位の「花見日和」に為った日曜は、午後から毎年恒例、写真家G氏主催のセントラルパークでの花見会へ。

宴は1時開始と聞いて居たので、スペアリヴを持って1時半過ぎに指定の場所へ行ったら、もう既に若い人達が3-40人来て居て、吃驚。「皆、早いなぁ」と思いつつその団体に近付いて行ったら、顔見知りが誰も居らず、向こうも此方を完全無視状態。何かオカシイと思って居たら何のその、隣に4-5人の小さなグループが居て、其処にG氏の姿を見つける…聞くと隣は「日米交流」の団体の若者達だとの事。これからはG氏に朝から場所取りを御願いせねば為るまい(笑)。

花見会は1歳未満から50代(若しかしたら筆者が一番年長だったか…)迄、アーティストやミュージシャン等の30名近い人が来て盛り上がったが、筆者は夜のディナーの為に早めに失礼し、夜は筆者も学生時代友人に「英語」の勉強に為ると誘われ、何ヶ月か東京支社でバイトをした世界最大のモデル・エージェンシーのファウンダーの従兄弟夫妻と、ユニオン・スクエアでタイ料理を頂く。

が、呑み足らないマヨンセと食い足らない筆者はチェルシーの「B」に向かい、再び「菜の花のペペロンチーノ」を食す…かやうにて、食のあやまちはするぞかし。

昨晩は昨晩で、友人の作曲家AちゃんとミュージシャンMさん(+アーキテクトJ君)のバースデー・ディナーを、美味しいアップタウンのフレンチ・ヴィエトナミーズの「L」で。此方は、総勢8名でのこじんまりとした会…最後はケーキとハッピー・バースデーの合唱でお祝いは締め括られたが、何と云うか、非常に良い会でした。

さて此処からが本題…現在クリスティーズ・ニューヨークの「Private sale gallery」では、来月開催の現代美術セールに出品される「The Bergman Collection」の展覧会が開催されて居る。

このコレクションの主で有るエドウィン&リンディ・バーグマン夫妻は、現在現代美術カテゴリーに於いて世界でも最も重要な都市で有るシカゴの、戦後のアート・シーンの牽引的役割を果たしたコレクター。特にエドウィンは、シカゴ美術館やシカゴ現代美術館のファウンダーの1人で有り、またプレジデントを務め、シカゴ大学のトラスティーとして「Bergman Gallery」の開設に貢献した重要人物。

そして今回売却される彼等のコレクションは、ピカソやマッタから始まり、カルダーやチャック・クローズ、ティーボー、オルデンバーグ、ボテロ、デュビュフェやダイン、そしてディエゴ・ジャコメッティやブガッティの家具迄バラエティに富んでいるが、何よりも重要なのは「箱」のアーティスト、ジョセフ・コーネルのコレクションだ。

ジョセフ・コーネル(1903-1972)は、母親と弟と共にマサチューセッツの古い木造の自宅で、略その人生の全てを費やした、シュール・レアリスムの影響下に有る作家。彼の人生は非常にプライヴェートで、それには脳性麻痺の弟や母親の世話をして居た事や、自身の臆病な性格がかなり影響していると思うが、その強い内向性が彼を「箱」に向かわせた事は想像に難くない。

筆者も大好きな、コーネル自身の「蒐集」に因って集められた「過去の美しい物」を利用した彼の「宝箱」的作品は、非常に詩的で、その箱を覗く度に彼の心の奥底を覗いて居る気分に為って来るのだが、そんな力を持つ彼の作品は文学者にも多大な影響を与えて居て、アメリカの詩人チャールズ・シミックの「コーネルの箱」(拙ダイアリー:「ニューヨークで、現代日本文学を」参照)や、高橋睦郎の詩「この世あるいは箱の人」はその最たる物だろうと思う。

さて、この「バーグマン・コレクション」に含まれるコーネル作品は計20点。その中でも筆者が最も素晴らしいと思うのは、「Medici Princess」(→http://www.christies.com/lotfinder/sculptures-statues-figures/joseph-cornell-medici-princess-5792508-details.aspx?from=salesummary&intObjectID=5792508&sid=f0f4bc5c-a1e7-4304-9ee2-790d3ec5c6be)と、「Medici Slot Machine」(→http://www.christies.com/lotfinder/sculptures-statues-figures/joseph-cornell-medici-slot-machine-5792505-details.aspx?from=salesummary&intObjectID=5792505&sid=f0f4bc5c-a1e7-4304-9ee2-790d3ec5c6be)の2作品。各250万ー300万ドルのエスティメイトだが、これはペア的に両方とも欲しいっ!

が、では「最も重要な作品は?」と問われれば、「Untitled(Penny Arcade Portrait of Lauren Bacall) with Dossier」(エスティメイト:400−600万ドル→http://www.christies.com/lotfinder/sculptures-statues-figures/joseph-cornell-untitled-5792503-details.aspx?from=salesummary&intObjectID=5792503&sid=396d6335-8cba-4a0e-8c8a-a4ea3a4780e9)と答えざるを得ない。

それは何故なら、本作品に登場する名女優ローレン・バコールに、コーネルが恋をして居たから…対人恐怖症のコーネルはこの「箱」や映像作品に、バコールやエミリー・ディッキンソン、ジェニファー・ジョーンズ等への、謂わば無言のラブ・レターを託して居た訳だが、況してやこの作品は、後年バコール本人に「私が欲しかった!」と云わしめた作品なのだ。

この3点が掛かる注目のオークションは、5月13日の「現代美術イヴニング・セール」…バーグマン夫妻が愛した「箱」達は、一体何処へ行くのだろう?