「凶悪」。

「Date Painting」の河原温氏の死去が、所属画廊のツヴィルナーに拠って確認された。

ニューヨークを拠点に長年活動し(が、今でも氏の私生活は「謎」に包まれて居て、筆者もお会いした事が無い)、例えばクリスティーズの現代美術オークションでも、恐らくは日本人で史上初めて「イヴ二ング・セール」に作品が出た作家だと思う。

河原氏は芸術性と市場の両方で世界を振り向かせた、偉大なる「魁」の日本人現代美術作家で有った。河原氏のご冥福を祈りたい…が、未だ氏の亡くなった日時、原因等が公表されて居ない。亡くなっても尚、ミステリアスなアーティストで有る。

そしてもう1つ心配なニュース…坂本龍一氏が、咽頭癌に罹患して居る事を発表した。

世界に認知され、通用する数少ない日本人アーティストの1人で有る坂本氏の存在は、例えば東京オリンピック等でも活躍が期待されるだけに、マヨンセも大変お世話に為った氏の1日も早い回復を、心よりお祈りしたい。

さて一昨日金曜日の夜は、日本美術関係者との飲み会を、ミッドタウンの居酒屋「S」で。

参加者は有名アメリカ美術館の元館長E先生、コロンビア大学のM先生、アーティストT氏、T大のT先生のお弟子さんで、現在ニューヨーク留学中&バーネット・ニューマン財団に勤めているY氏、そして筆者の計5人。

豆腐や焼鳥、蕎麦等を摘まみながら、E先生やM先生とは、今筆者が関わって居る重要な日本美術個人コレクションの話等の情報交換等、またT氏とY氏とは筆者を真ん中に挟んで「誕生日」が連続している事から、「バースデー飲み会」の打ち合わせも…サッパリとした、楽しい会でした!

続く昨日土曜日は、午後少し仕事をした後、友人のU君と夕方からジャパン・ソサエティーへ…「Japan Cuts」中の1作、「Devil's Path」(邦題:「凶悪」)を観る為だった。

昨年製作された本作の監督は、若松孝二の下で学んだ弱冠40歳の白石和彌監督で、本作が監督作品2本目。原作は実話を基にしたノンフィクション・ノヴェルで、雑誌「新潮45」が殺人事件の真相を暴き、首謀者逮捕迄を描いたベストセラー犯罪ドキュメントを記した「凶悪ーある死刑囚の告発」で有る。

俳優陣も主演のスクープ雑誌記者を山田孝之、元暴力団組長の死刑囚をピエール瀧、「先生」と呼ばれる不動産ブローカーで首謀者役をリリー・フランキーが演じて居て、その他にも白川和子や九十九一(懐かしい!)と云った個性的な顔触れが揃い、期待を持たせる。

話は藤井(山田)の勤めるスクープ誌に、収監中の死刑囚須藤(瀧)から1通の手紙が届く処から始まる。山田は拘置所で、須藤から警察の知らない3件の余罪と共に、その首謀者木村(フランキー)の存在を明かされる。調べて行く内に須藤の告発が真実と分かると、藤井は認知症の母親や、その世話をする妻との軋轢等の家庭問題を抱えながら、取り憑かれた様に取材調査を続けて行くが…と云った話だ。

そして結果から云えば、この映画は非常に重厚で見応えの有る、素晴らしい作品だった!

で、何が素晴らしいかと云うと、先ずは白石監督の「若松仕込み」らしき「これでもか」的な重厚なドキュメント・タッチの演出と、過去と現在を繋ぐ見事なカット割。

またそれと共に、何と云っても俳優陣、特にピエール瀧の演技が超素晴らしい!この人は、云う迄も無くテクノバンド「電気グルーヴ」のミュージシャンだが、筆者が瀧の役者としての演技を観たのは、我らが優ちゃん主演の「百万円と苦虫女」での桃農家の長男役以来…。

だが、今回の瀧のヤクザ演技は本当に凄くて、凶悪で直情型、短絡的だが子分には情に厚い処が有り、その上悪人独特の狡猾さも持ち合わせる、と云う役柄を見事に演じて居て、正に「本物」らしい…実にリアルだった。

その上この作品は、「人の『罪』を追求する者は、自分の『罪』も追及される」と云う事実、「その行使の形は、例えば目に見える見えない、自分の手を汚すか汚さないか等様々だが、人間は『凶悪性』を必ず持って居る」と云う事、そして「物事の『追及』は、或る時には『逃避』の役割をも持つ」、と云う事を教えてくれる。

要は「何かを追い掛ける」事は、「何かから逃げる」際には却って好都合だ、と云う事で、云い換えれば「何かから逃げたい時」に、「別の何かを必死に追い求める」事で「逃げている」事実を隠す事が出来得る、と云う事で有る。

「凶悪/Devil's Path」…自分の中の「凶悪」はどんな時に萌芽し、どう顕現して行くのか?

考えるだに末恐ろしく為る、秀逸な作品で有った。


PS:滋賀知事選で、官房長官や幹事長を送り込んだ自民が、それでも敗北した。国政と県政は違う、と云う人も居るだろうが、この選挙の直前に安倍政権が行った「集団自衛権」に関する憲法違反的(日本国憲法前文:「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」)且つ拙速な閣議決定、そして原発再稼働政策が、この選挙に一向に有利に働かなかった結果で有る事は明白。上に記したが、「凶悪」は弱さの証でも有る…そして国民は、安倍政権のそれを知りつつ有る。