「パイクの夜」と、クリスティーズ上半期の成績。

ワールド・カップ・サッカーは、予想通りドイツが優勝した。何と詰まらん結果なのだろう…(嘆)。

南米サッカーファンとしては忸怩たる思いだが、最近別の事で「負けて嬉しかった」事も有って、其れは滋賀知事選での自民党の事。彼らはこの敗北を都議会での「野次」の所為にして居る様だが、全く以ってお目出度い連中で有る。

さて、やっと猛暑+湿気も一息吐いたニューヨーク…昨日はマヨンセを伴って、ロウワー・イーストサイドの「Shin Gallery」で始まったナム・ジュン・パイクの展覧会、「Nam June Paik: The Legacy of Nam June Paik in the Post-Digital Age」のオープ二ングへ。

今回のオープニングには、友人のドイツ人現代美術家インゴ・ギュンターを誘ったのだが、それには理由が有って、それはインゴが学生の頃、嘗てパイクのアシスタント&ドライヴァーをして居た事が有るからだった。

そしてギャラリーに着き、展示して有るパイクの素晴らしい大作「Big Shoulder, 1998」をオーナーのシン氏と観て居ると(シン氏は作品の「配線」を自分でやったらしいのだが、7時間以上掛かったとの事!)、インゴが到着…そのインゴもまた友達を連れて来たのだが、聞くと嘗て彼もパイクのアシスタントで、今はパイクが嘗て住んで居たアパートに住み、何とパイク作品の修復もやっていると云う。

パイクの親戚で、ソウルでギャラリーを運営して居ると云う女性ギャラリストも含めて、まるでパイクの霊が自分に関わりの有る人々をニューヨークの片隅に引き寄せたかの様な、楽しい一夜と為った。序でにニューヨークのアジア・ソサエティーでは、今秋パイクの回顧展を企画して居る…今から楽しみだ!

さて、此処からが今日の本題…クリスティーズが、本年1月〜6月の上半期の業績発表をした。

結果から云うと、クリスティーズはこの6ヶ月間で約27億英ポンド(約45億ドル、約4705億円)を売り上げ、前年に比べて12%(ドル・ベースでは22%)のアップ…創業以来の「半期売上最高新記録」を記録した上に、全バイヤーの24%がクリスティーズに取って全くの新規顧客だった事が特筆される。

その好調な売り上げの要因は幾つか有るが、先ず挙げねば為らないのが現代美術マーケットの一種異様とも云える伸び方で、当社戦後・現代美術部門の半期売り上げも新記録を達成。また、この半期で1000万ドル以上で売れた作品が全分野で51点有ったのだが、その高額売却トップ10の内の9点が戦後・現代美術作品で有った。

最高売却額作品は、5月の戦後・現代美術イヴニング・セールに出品されたバーネット・ニューマンの「Black Fire I」で、8416万5000ドル(約85億円)。以下は拙ダイアリー「速報:今晩の『現代美術トップ10』」を参照頂き、そのリストの2位と3位の間に、2月のロンドンで売れたベーコンの「ジョージ・ダイヤーの話している肖像」」(4219万4500英ポンド:この作品は、ヨーロッパで開催されたオークションで最も高く売れた戦後・現代美術作品だ)を入れ、4位と5位の間にロンドン2月の印象派セールで売れたホアン・グリの「チェックのテーブルクロスの静物」(3480万2500英ポンド)を、そして7位と8位の間にリヒターの「Abstraktes Bild」(2月ロンドン:1957万500英ポンド)を入れれば、この上半期「Top 10リスト」が出来上がる。

また好業績のもう1つの大きなコアが、「オンライン・セール」だ。

この業界に20年以上居る筆者としては、ライヴ・オークションも下見会も全く開催しない「オンライン・オークション」が、此処迄新規顧客を呼び込み、然も高額商品を売る様に為るとは、正直想像だにして居なかった。

が、その事実は、「オンライン・セール」の売り上げが前年比71%(ドル・ベースでは87%)も伸びた事と、この「オンライン・セール」では、全バイヤーの27%を占めた新規顧客が170カ国を超える国々からセールに参加している、と云う事実が証明するだろう。

その「オンライン・セール」で売れた作品で最も高額だったのは、リチャード・セラの絵画「Pamuk」で、何と90万5000ドル…オンライン「オンリー」で此処迄買えるのは凄い、と思うのは筆者だけだろうか?

また分野別で云うと、アジア美術が15%ダウンした反面、印象派・近代絵画やラグジュアリー(宝石・時計・ワイン)部門がかなりの伸びを見せて居て、地理的に云えば、新規顧客の20%がアジアからの顧客、且つアジア在住顧客への売り上げは28%も伸び、中国本土からの買いは売上全体の24%にも及んで居る事から、これは中国人の中国美術購買の勢いが落ち着き、他分野で買い始めて居る証と考えられる。

と云った具合で、全体の成績はかなり良いが、不安材料が無い訳では無い。「現代美術市場は、一体何時迄持つのか?」…この疑問だけは、数日毎に起きて居るDOW平均株価の記録更新と共に、どんなに「今を楽しもう」と享楽的に振る舞おうが、確りと持ち続けねば為らない。

下半期や如何に?