結界と境界。

最近、一寸「センスの良さ」を感じる2つの事を知った。

1つ目は、僕が子供の頃に見ていたアニメ「秘密のアッコちゃん」で、アッコちゃんが魔法のコンパクトを使って変身する時に唱える呪文、「テクマクマヤコンテクマクマヤコン、…になーれ!」と、元に戻る時に唱える「ラミパス・ラミパス、ルルルルルー」と云う呪文の「語源」に関する事だ。

この語源の話が本当かどうか、未だ確認が出来て居ない…が、先ず「テクマクマヤコン」は、何と「テクニカル・マジック・マイ・コンパクト」の略だそうで、「ラミパス」は「スーパーミラー」を逆から読んで略したらしい…これが若し事実なら、考えた人のセンスは中々だと思う。

そしてもう一つは、「ダメよー、ダメダメ」(笑)。つい数日前に祇園のカラオケ・バーで知ったこの言葉、ニューヨーク在住の身に取っては、去年の「じぇじぇじぇ」位意味が分からなかったのだが、バーのママも女の子も他の客も、何か云うと爆笑しながら高目の一本調子の声で「ダメよー、ダメダメ!」と答えて居るでは無いか。

そして女の子にスマホで見せて貰った、この台詞を云う女性2人組の漫才コンビ日本エレキテル連合」(何と素晴らしい名前なのだろう!:笑)のコントを、ホテルに帰った後深夜迄何回見た事だろう!

この「ダッチワイフと注文したオヤジ」を演ずるコント・シリーズには、「未亡人朱美ちゃん3号」(ダメよー、ダメダメ)と「仮出所中妻さゆりちゃん」(スミマセン、モウシマセン)の2篇が有るらしいのだが、このコンビのお笑いは何と云うかシュールでアングラ、「舞踏」的(?)で、非常にキレとセンスが良い…知らない人は是非一見して頂きたい。

と、云う事で、此処からが今日のダイアリー。関西から帰った翌土曜は、鎌倉東慶寺での朝茶会に出席…武者小路千家千宗屋若宗匠主宰の第5回「随縁茶会」で有る。

朝10時の回に入れて頂いた僕は、東京から車で憂国同志K氏と連れ立ち、高速を飛ばして鎌倉へと、いざ!因みにK氏は、今回が何と生まれて初めての茶会だそうで、ビックリ!そしてK氏には、例えば扇子には「結界」を作る役割が有ると云う事や、濃茶(茶会初体験から濃茶!)は「回し飲み」をすると云う事等の、基本的知識をお教えする…誰にも「最初」は有るのだから。

さて今回の随縁茶会は、東慶寺寺庭の井上米輝子氏が寒雲亭で濃茶席を、古美術商雅陶堂瀬津勲氏が白蓮舎で薄茶席を持たれた。

雨も上がり、夏の茶会にしては奇跡的に穏やかな気温の中、先ずは主菓子を頂き、その後移動して、素晴らしい佇まいの寒雲亭へ。時折戦ぐ風の涼しさや、蝉や烏の声を耳にしながら、此方では床に鈴木大拙「無心」軸、変わった形の備前水指、黒楽の主茶碗に目を奪われながら、お濃茶を頂く。

濃茶が終わると、今度は白蓮舎へ…此方は有難い事に立礼席と為って居て、床には原三渓の蓮池軸と、息を飲む程美しい唐招提寺伝来の仏手と仏足、主茶碗は井戸平。そして僕が大層気に入ったのは、松永耳庵旧蔵の竹蓋置で、ぐにゃっとひしゃげて居て「耳」の如し…モノは人を顕す、とは良く云った物だ。

晩夏の自然の中での、肩の凝らない、サッパリとした気分に為るお茶会で有った。

そして昨日日曜日は、午後から渋谷に出掛けて、シアター・オーブでの「BABEL(WORDS)」を観る。初めて行ったこの劇場では、杉本博司氏等多くの知人にも遭遇したが、何しろ思ったよりも広い劇場は超満員で、本作への期待が窺える。

この「バベル」は、現在最も影響力と才能の溢れる振付師シディ・ラルビ・シェルカウイとダミアン・ジャレに拠る最新作で、この日本公演が初演。そして本作は、札幌国際芸術祭のゲスト・ディレクターで現在闘病中の坂本龍一氏が自ら選んだ作品で、今回の3日間の東京公演は札幌からの巡回公演で有る。

さてタイトルと為って居る「バベル」とは、旧約聖書中の「バベルの塔」を由来として居て、この作品で提出される地球上の凡ゆる言語・民族・テリトリー・文化・アイデンティティ等の問題は、10カ国以上からのダンサーやミュージシャン達に拠って2時間に渡り、時に鋭く、時に可笑しく描かれる。

そして「バベル」には、この壮大なテーマの他にもう2つ特筆すべき事が有る。

先ずはアントニー・ゴームリーに拠るこの舞台「唯一」の装置で、5つの異なるサイズの大きな3次元直方体フレームが、パフォーマーの登場する場面場面で位置を変えたり、重なったり、反転させられたりしてフォーメーションを変え、其の事に拠って「境界」を作り続ける。

この「境界」こそが本舞台のテーマで、ゴームリーに拠る「『境界』の移動」に拠って暗示される「集団」への帰属と脱出、或いは公と私、個と集団等の闘争と融和、対立、混乱等を、政治的・文化的・身体的に差異化するのだ。

またもう1つは、この舞台の魅力を倍増させる音楽だ!ダンサー達の技術も然る事ながら、バックで生で演奏された素晴らしく美しい音楽と声楽は、地球上の幾つもの文化を網羅しながら観劇者を恍惚とさせる…シンプル極まりない舞台美術と共に、こんな演出は単一民族で島国に住む日本人には中々出来無いに違い無い。

「境界」を主題とした現代舞踊「バベル」と、「結界」を備えた伝統文化の茶会。

この世には、取り外したり変えて仕舞った方が良い「境界」と、決して外さない方が良い「結界」が有るのではと考えさせられた、伝統と現代の行き来を満喫した素晴らしい週末でした!