MOTTO, “MOT”!

あれから4年…月日は心を風化させるが、未だ多数残る避難民と福島第一は決して風化などして居ない。安倍政権は、一体この事をどう考えて居るのだろうか?

そして此方はと云うと、寒さも大分マシに為ったニューヨークに戻って来たが、クリスティーズでは「エルズワース・コレクション」セールズの下見会が愈々始まった。

稀代のディーラーR.H.エルズワース氏のこのコレクション・セールに関しては、前に此処に記したので詳しくは書かないが、彼の広大なアパートメントに飾られて居た中国・東南アジア美術を中心とする4000点に垂んとする作品群が、凡そ2000ロットに纏められて来週丸々1週間掛けて売却される、モンスター・セールなのだ。

そのコレクション中、日本美術は数は少ないが優品が有って、例えば曾我蕭白の六曲一双墨画屏風「中国山水図」や、氏の巨大アパートメントのリヴィング・ルームの壁に長く飾られていた桃山〜江戸初期の金地「厩図屏風」一双、玄関スペースの顔だった南北朝期「木造地蔵菩薩立像」等、どれも魅力的。

今年のニューヨーク、春の「エイジアン・アート・ウィーク」の超目玉、エルズワース・セールの売上や如何に?

なのだが、今日は日本を発つ直前に観た展覧会の事を記したい…それは今現在東京都現代美術館で開催中の展覧会の事で、即ちガブリエル・オロスコ展「内なる複数のサイクル」、菅木志雄「置かれた潜在性」、「未見の星座」、そして「コレクション・ビカミング」の4展覧会だ。

この4つの展覧会は、端的に云って仕舞えば全て見応え有る秀逸な物なのだが、その中でも今日僕が特筆したいのは、7人の男性作家に拠る「未見の星座」展と館蔵品展の「コレクション・ビカミング」展。

さてオークション出品作のみならず、如何なる美術品に取っても、作品の「来歴」は非常に重要で有る。その意味で都現美の収蔵品展で有る今回の「コレクション・ビカミング」は、作品の「裏側」をもガラス越しに展示して居るのが新しい。

どう云う事かと云うと、額装された絵の裏側にはそれがキャンバスで有れ、パネルで有れ、或いは額の裏板で有れ、其処には例えば作家のサイン、制作年代や作品タイトル、その作品の歴代の持ち主の住所やサイン、取り扱った画廊のステッカーやオークションハウスのロット・シール、額装した会社やシッパーの名前等の、その作品の過去を探る為の多くの情報が詰まって居るのだが、通常は絵は壁に掛けて展示されるので、額やキャンバスの裏等一般の人は観る機会が無いからだ。

また日本人は「綺麗好き」なので、バブル以前に日本に入って来た外国絵画では、額裏に有った筈の貴重なステッカー等は剥がされて仕舞ったり、重要な古い額が新しい物に取り替えられて仕舞って居るモノが多い為、作品来歴を知る事が難しい事が多い…が、今回の展示では美術品の「裏側」を敢えて展示する事で、一般的には知られていないその重要性を観者に知らせる。

そして当然本展には、都現美のコレクションに如何に重要な作品が有るかを知らしめる意味も有る訳だが、その極め付けは会場に入って真っ先に眼に飛び込んで来る、リキテンスタインの「ヘアリボンの少女」だろう!

この作品は、現細見美術館館長の細見良行氏の細見画廊に拠って開館前の都現美に売却されたが、約6億円とも云われたこの絵画の価格に関して、「あんな漫画みたいな絵に都民の血税を、然もそんな金額を!」と非難轟々だった事を記憶している人も多いに違いない。

が、今もしこの大名品を買おうとしたら、恐らくその8倍から10倍は出さねば買えないだろうから、僕としては今この作品が日本に在る事の悦びと共に、「先見の明」を称えたい…そんな事を思いながら名品達を観れるこの館蔵品展は、当に「Collection Becoming」の名に相応しい。

そして、もう1つの「未見の星座/コンステレーション」展…此方の展覧会タイトルは、古代人類が満点の星を眺め、自由に繋ぎ合わせて星座を創造して来た様に、或る人の心の状況と無関係に起きる外的な事件とが不意に結び付き、恰も星座の如く理解される事を、心理学上「コンステレーション」と呼ぶ事に因んで居る。

この展覧会では、世界に鏤められた様々な点と点の繋がりを発見し、新たな「星座」を捕まえようとする作家達の試みを紹介して居るのだが、出展された淺井裕介、伊藤久也、太田三郎、大崎のぶゆき、北川貴好、志村信裕、山本高之の7人の作家に拠る作品は、何れも個性的且つレヴェルの高い物で観る側も嬉しく、見応え十分。

が、その7人の中でも、特に志村信裕と淺井裕介の2人の作家の作品に僕の目は奪われた!

20 x 6 x 6.3mの巨大な展示室を縦横無尽に描き尽くした淺井の「泥絵」大壁画は、インド・スジャータ村、ソウル、ヒューストン、青森、熊本、そして現美の近隣で作家自身が取った「土」で作られた絵具で描かれて居て、プリミティヴ・アートの影響を強く感じさせる迫力満点な作品。

1本の線、或いは1つの点、そして世界の土地や人が無限に繋がり合って、淺井の作品は有機的に拡張して行く…日本の現代美術家には余り居ない、「これでもか!」な豪放磊落さに強く惹かれたのだが、そんな細胞的でアート原初感の強い本作は当に一見の価値が有る。

が、展覧会最終日には、何とこの壁画を消すイヴェントも企画されて居ると言う…この作品を遺さないなんて、都現美、勿体無さ過ぎるのでは無いか⁈(笑)

その淺井作品とは正反対に静謐な美しさが堪らないのが、志村の2つの作品「Dress」と「Fountains」。

2作共非常に良く出来たインスタレーションで、その美しさには感動を覚えざるを得ないが、特に「Dress」は小名木川隅田川が交わる場所の夕景を、暗闇の中で無数のリボンに投影すると云う幻想的な作品だが、リボンのドレープの両側に廻り、光を正面と背の両面で受ける事に因って、全く異なる感動を得られる名作だと思う。

都現美 a.k.a. MOTは、この様に素晴らしいラインナップの展覧会を開催している上に、ミュージアム・ショップも地下のカフェもかなり良い。なのに、残念ながら、何故か余り人が入って居ない気がするのは僕だけだろうか?

何れにせよ、現在MOTで開催中の4つの展覧会を見逃す手は無い…場所的不便さは否定出来ないが、一寸したお出掛けには良い距離だし、これだけ頑張っているMOTに我々はもっと足を運ぶべきでは無いか?

「もっと、MOTへ!」(笑)と個人的にお薦めをして、今日はお終い。