Provenance: Japan.

何と今年も後2ヶ月…。

そして吸血鬼や魔女、「ジェイソン」や「ブギーマン」達が街中に溢れた昨晩のハロウィンも終わり(然し、ブギーマンのゴム・マスクは、顔全体を隠して仕舞うので、中に本物の狂人が居ても分からない所が他のコスプレと違って、未だに怖ろしい…)、ニューヨークも冬時間に突入(これで日本との時差は14時間なので、ご注意を!)。

そんなニューヨークで今開催されて居る、2つの必見展覧会+レクチャーを見聞して来た。

先ずレクチャーは、アッパー・イースト・サイドに在る「Taka Ishii Gallery」で開催された、Japan Society主催の「Private Tour of Tatsuo Kawaguchi "Land and Sea 1970"」と題されたモノ。

このレクチャーは、現在ジャパン・ソサエティとグレイ・アート・センターで開催中の戦後日本写真の展覧会「For a New World Come」の関連イヴェントで、ヒューストン美術館のキュレーター中森康文氏が、Taka Ishiiで展示中の河口龍夫の1970年制作の連作作品「陸と海」を通して、戦後現代日本写真を語ると云う企画だ。

「陸と海」は、3枚の板を浜辺の波打ち際に置き、1日の潮の満ち引きに拠って変わるその光景を、日の出から日没迄時間毎に連作写真に収めた作品で、時の流れと物質、そしてそれを追体験する観覧者自身がテーマ…発表時の本作は、観者が時間の流れを繰り返し体感出来る様に円形の部屋に展示された事(実際、作品のマージンには日付と時間が記されて居るらしいのだが、本展ではマットで隠されて見えない…重要だと思うのだが、何故見せないのだろう?)や、野村仁作品との対照等非常に勉強に為った。

展覧会の方はと云うと、先ずはMOMAで開催中の「Picasso Sculpture」…文字通りピカソの彫刻作品を集めた展覧会だが、木彫・石膏・ブロンズ・紙、そして「廃材」迄素材やテーマもバラエティに富み、然も須くクオリティの高い作品揃いで、何だかんだ云いながら「やっぱりピカソはスゴい…」と、彼の天才に溜息が出る。

そしてもう1つは、グッゲンハイムで開催中の「Alberto Burri: The Trauma of Painting」で、此方もピカソに負けない超ハイ・クオリティな展覧会だ!

開催前は「Burriは地味だから、集客もどうかなぁ?」なんて声も聞こえて来て居たが何のその、作品自体が素晴らしいから当然客も入る…此処が「アートの聖地」ニューヨークの素晴らしい所なのだが、「具体」や「もの派」がトレンディな今だからこそ、ブッリを通して「アンフォルメル」と「アルテ・ポーヴェラ」をも再考出来る、実に素晴らしいショウで有る。

一方アート・ビジネス界の方には、愈々秋のメイン・セール・ウィークがやって来た。

今回もオークション・ハウスの近現代絵画のラインナップは豪華で、先ずはサザビーズの「Alfred Taubman Collection」。サザビーズの嘗てのオーナーのこのコレクションには近現代の名品が集まって居て、トップ・ロットのモディリアーニ「ポーレット・ジュルダン」を始め、ピカソ、ロスコ、デ・クーニング、ドガ等の逸品が揃う。

で、対するクリスティーズは「The Artist's Muse」と名付けられた、キュレイテッド・セールが今秋の目玉…このセールには、こちらもモディリアーニの「横たわる裸婦」(巷の噂では$100M!)を筆頭に、リキテンスタインクールベ、フロイド、バルテュスピカソ奈良美智迄、古今のアーティスト達が描いた「女神」達が勢揃いして居る。

このセールでの僕のお薦めは、フロイド「Naked Portrait on a Red Sofa」やバルテュス「Lady Abdy」(この作品は、マジ素晴らしい!)、デ・クーニング「Woman」とロートレックAu Lit: Le Baiser」等だが、価格も然る事ながらクオリティが素晴らしいので、是非下見会(10/31から11/9のお昼まで)に足を運んで頂きたい!

そしてフィリップスでは、「Provenance: Japan」と題された一連の日本戦後美術・写真作品6点が、「20世紀・現代美術イヴニング・セール」の中で売却される。

この「Provenance: Japan」は、Taka Ishii NYのディレクターで有るアリソン・ブラッドリーに拠ってキュレーションされた、荒木経惟堂本尚郎今井俊満吉原治良・白髪一雄・斎藤義重・河口龍夫・李禹煥・菅井汲・工藤哲巳元永定正・山口長男・東松照明・川田喜久治・深瀬昌久石内都森山大道の17名の作家・計24点が出品されて居る。

フィリップスとは云え、ニューヨークのオークションハウスの「イヴニング&デイ・セール」で、これだけの日本戦後美術・写真作品を観れるとは夢の様だが、僕のキャリアの中で云えば、1994年にブランシェット・ロックフェラーが蒐集した戦後日本美術のコレクション・セールが有って、某ハリウッド有名俳優に買われた斎藤義重の赤のドリル作品を始め、長谷川三郎・流政之・山口長男・猪熊弦一郎川端実・オノサトトシノブ・イサムノグチ等の名品が出品された事が有ったが、ニューヨークでは恐らくそれ以来では無いか?

何れにせよ、グッゲンハイムでの具体展や李禹煥展、Blum & PoeでのMONOHA展やMOMAのTOKYO展、白髪を筆頭とする具体作品の世界的価格高騰等に拠って、コンテンポラリー・アート・マーケットの「寵児」と為って居る「Post-War Japanese Art & photograph」が再評価されて居る事は誠に慶ばしく、それは僕の巨大本棚の一角で寝て居たこの分野の図録や文献達が、粗20年ぶりに陽の目を見る機会を得たからだ!(笑)

国力も衰え、政治も有らぬ方向へ進んで居る日本だが、この「Japan Provenance」が世界の美術市場を席巻するのを見るのは楽しい。

そしてこの現象が一時的で無い事を祈りながら、日本人現代美術作家達にも「過去」なんかに負けない様奮起して欲しい、と切に願う孫一なのでした。

追記: フィリップスの下見会を観に行ったのだが、分断された展示と地下の菅井汲の扱いが悲しい…折角プロモートしてるのに、勿体無い。


ーお知らせー
*Gift社刊雑誌「Dress」にて「アートの深層」連載中。11/1発売の12月号は、恐ろしくも甘美な「趣味」、貴方を魔の道に誘う「蒐集」に就て。