Vive la France !!

七夕の日、ニューヨーク在住の1人の老ピアニストがこの世を去った…「プーさん」こと、菊地雅章氏で有る。75歳だった。

プーさんの事はこのダイアリーにも何回か書いたので(拙ダイアリー:「老ジャズ・ピアニストのバースデー」「Incurably romantic」「プーさんとどら焼き」参照)もう書かないが、唯々もう一度だけきちんとしたステージでの「ソロ」演奏を聴きたかった。

僕の大好きなプーさんのプレイ「In Love in Vain」(→https://m.youtube.com/watch?v=c1iL1vA0pxs)を聴きながら、プーさんのご冥福を心よりお祈りしたい。

さて、楽しかったナントでの最後の1日は、大天使ミカエル、もとい大天使ガブリヨリ(笑)とロワール地方の古城巡りをする事に。

「古城巡り」と云っても、ナントからの距離と達っつあんとの「ナント最後の晩餐」迄に帰って来ると云う時間的制約を考えると、自ずと行ける場所も数も限られて来る…ので、観光1番人気らしいがナントから230キロも離れて居る「シュノンソー城」と、ロワールの古城の内最も西に在る「アンジェ城」を廻る事にした。

カンボジアから亡命し、フランスにもう30年住んで居ると云う、一寸格好の良い「浅黒い二谷英明」風のドライヴァーのタクシーをハイヤーし、朝8時出発で先ず向かったのはメーヌ河畔の「アンジェ城」…ナントから約90分のドライヴの末着いたアンジェの街は小さく可愛いかったが、其処で起きた問題は城の開門が10時だった事だ。

仕方が無いので、曇天の下大天使、運転手と共に街を漫ろ歩くと、閉鎖された通りが有り、良く見るとどうもこれから蚤の市が始まるらしい。そうなるとプロたる僕に向けられた大天使の眼は当然キラリと光り、骨董授業を兼ねて3人で観てみる事に…結果、大天使は見事にシルバーの貝用スプーンセットをゲットした。

そしてアンジェ城が開門すると、黙示録を題材としたフランス最古の素晴らしいタペストリーや壁画を堪能したが、序でに僕が壁画に夢中に為って踏んづけて仕舞った、綺麗な小鳥の死骸を城内の花壇に丁寧に埋葬したりもした。

アンジェを後にし、再び90分程走って僕等が向かったのはシュノンソー城だったが、その前に前日仏人キュレーターD氏に推奨された、城の直ぐ近くに在るミシュラン星付きオーベルジュ・レストランの「L」でランチをする事に。

僕等が評判の高い「L」のレストランに入った直後、空が俄かに暗く為って雷雨が始まり、大粒の雨が庭を叩いて心配したが、食事中にはすっかり晴れ上がり、流石大天使の御加護と基督教男女子高出身者らしく賛美歌を捧げた甲斐も有って(笑)、食事も最高に美味しく、特にラム肉、そしてクッキー地に載ったストロベリーとヴァニラアイスをレイヤーにし、それをメレンゲでコーティングした、世にも稀なる美味いデザートを堪能した。

食後はお待たせ、「5人の王妃」の部屋で名高いシュノンソー城へ向かい、城内、河や森も楽しんだが、余りにも観光客が多過ぎで興醒めして仕舞う。そして気が付けばもう3時…連日の疲れも有ってナントへと帰る事にし、東京ー名古屋間をぶっ飛ばす感じで戻ったナントでの最後の晩餐は、達っつあん、ギャラリストUさん、大天使と僕の4人で「石焼肉」を頂きながら、乾杯を重ねて夜半に終了。

そうしてナントに別れを告げ、僕は久々のパリへとやって来た訳だが、花の都は人から聞いて居たよりも思いの外涼しくて、拍子抜けする位の素晴らしい天候だった。

トロカデロ近辺のこじんまりとしたホテルにチェックインし、その晩はノンビリすると、翌朝からいざ活動開始…先ずは画廊が並ぶマティニョン街に在る、クリスティーズのパリ・オフィスへ。

僕はパリ・オフィスを訪ねるのが何時も楽しみで、それは、こんな事を云っては何だが、クリスティーズのパリのオフィスには、ニューヨークに比べて遥かに「美女」が多いからなのだ(笑)。その理由は、矢張り「大陸」各所から両家の子女がこぞってパリに働きに来て居るからだと思うが、もう1つは彼女達がフェミニンで、個性的な「お洒落」だからでは無いだろうか?

その「美女の園」に顔を出し、オフィスにあるマシンで淹れたエスプレッソを飲みながら(ウーン、この辺がパリなのです!)メールをチェックしたりした後は、某顧客とオフィス近くのビストロで大好物の「サーモン・タルタル」の昼食を取り、アポの時間を縫いながら、今度は改装後初めてのピカソ美術館へと足を運んだ。

幼少期、青の時代からネオ古典、キュビズム等のピカソの生涯作品が揃うこの美術館に来ると、毎回そうなのだが、この画家が矢張り只者で無い事を思い知らされて、彼の絵の「金額」の事を忘れる事が出来る。

特に今回は、5月に「アルジェの女たち」がオークション世界新記録を打ち立てたばかりだった事も有り(拙ダイアリー:「ピカソの『才色兼備な女たち』が作った『世界新記録』」参照)、見る絵見る絵が「金」に見えて仕舞わないかと心配だったが、そんな事は無く、彼の才能迸る「作品」にしか僕の眼は行かなかった…その意味でピカソは、矢張り稀なる芸術家なのだと思う。

そしてピカソ美術館を出ると、少し歩いて近所のギャルリー・ペロタンにペロッと寄り(笑)、現在開催中の韓国人アーティストChung Chang-Supの展覧会「Meditation」を観る。

パリのペロタンのギャラリーは、通りから奥まった所に在る静かなタウンハウスを改造した、クラシック且つコンテンポラリーな空間。展示されたChungのモノクロームな作品は、韓国現代美術の例えば鄭相和や李禹煥等のコリアン・ミニマリズムの流れを汲む作家らしく、その静謐さがギャラリーに凄く合って居て、中々良い展覧会で有った。

その帰りにはギャラリーのブック・ショップに寄り、村上隆の最新図録「円相」を買って見てみると、テキストを何と橋本麻里女史が書いて居てビックリ!…その上、気が付けば序でに或る人へのお土産として「フリスク」も幾つか買って仕舞って居て、思いっ切り「乗せられた」自分に涙する(笑)。

そしてその晩は、楽しみにして居たパリ在住写真家S氏とのディナー…S氏が予約してくれたのは、常連だと云うサン・ジェルマンに近い某所で日本人シェフが腕を振るう、フュージョン・フレンチ・キュイジーヌの「T」と云う店だった。

フランスの「ヴォーグ」等で長年活躍するS氏だが、彼とも恐らくは2年振り位の再会だった為、お互いの近況報告にも驚く事が多かったのだが、カウンターに座った僕等に出てきた素晴らしい料理の数々、例えば「フォアグラの昆布〆」や「トウモロコシのソルベ」、「蟹真薯コンソメ」や「オマール海老味噌風味のカレー」等、これ又驚きの連続で、流石S氏のご推奨の超ウマ・ディナーで有った!

さてパリは美しく、美味しい。が、残念ながら、仕事もせねば為らない(涙)。

と云う事で、翌朝は「今年最も重要」と云っても良いミーティングの為パリ市内某所を訪ねたのだが、彼方の秘書が日を1日間違えてダイアリーに記録して居た為、30分待っても当人に会えず、ガックリ…が、結局夕方に再訪出来る事に為って、一安心(汗)。

だったので、取り敢えず国立ギメ東洋美術館で「能からマタハリまでーアジアの劇場の2000年」展を観覧し、その後はこれ又超重要な個人コレクターとのランチの為に、オルセー美術館の裏に在るビストロ「B」に向かう。

其処では美味い「ビーフ・タルタル」と付け合せのスピナッチやストリング・ビーンズを食べ、顧客と某重要作品の交渉をしながら2時間程を過ごすと、元の場所に戻り、今度こそ「今年最重要」なミーティングを4人掛かりで確りと熟したが、果たしてこのミーティングの結果は如何に?

そんなこんなで、パリ最終日は残念ながら時間がかなり押して予定が狂い、可也り評判が良かった「Palais de Tokyo」でのJesper JustやTianzhuo Chen等の現代美術展も行けず仕舞い。が、頑張って「此処」だけは行きました…「Fondation Louis Vuitton」だ!

フランク・ゲーリー設計のこのヴィトンの現代美術館は、外観が本当にカッコ良い。そして何人かに「列ぶよ」と云われて居た券売所も、突然の雨も有った夕方遅かった所為か、列んで居た人は全く居らず、館内も疎らな人影で見放題。そして内部空間も贅沢その物で素晴らしかったのだが、如何せん展示作品が…感がどうしても拭えなかったのは、僕だけだろうか?

が、案内所の人等はとても親切で、タクシーを呼ぶ様に頼んでも早く正確で、例えばその受付番号を一人一人別々に伝えると云った非常に機能的なシステムを採って居て、あれなら雨の日自分の呼んだタクシーを他人に盗られる心配も無い…流石「ラグジュアリー・ブランド」と関心至極。

こうして僕のパリ滞在、そしてナントを含めたフランスの旅は幕を閉じたのだが、今回の旅行で改めて「俺って、やっぱフランスが好きだなぁ…」と思わせて呉れたのは、実は「フランス語」で有った。

幼稚園、小中高とフランス語の授業を取り、大学受験もフランス語で受験した僕でも、大学卒業以来殆どフランス語を使わずに英国の会社に20年以上も務めて居る今、今回ナントに着いた時も殆ど話せなかった。

然し、ナント滞在の3日目位から少しずつ相手の云って居る事が理解出来、そして此方も話せる様に為って来て、パリ最終日には、タクシーの運転手と簡単な世間話や冗談もフランス語で出来る様に為って居た…「三つ子の魂百迄」とは良く云った物で有る。

…と終わればカッコ良いのだが、本当の事を云えば、エコノミーの中でも広い非常口の所の席に席を移して呉れた、アメリカでは考えられない位優しく美しいUnited航空のカウンターの女性や、ウインクを何度もしてSaleだった上に特別割引をして呉れたBOSSの女性店員、ナントのトラムに乗って居た大変な美少女やモン・サン=ミッシェルの可愛いガイドさん達の、美しきフランス女性と、素材と趣向に拘った美味しいフレンチ・キュイジーヌへの愛は大きい。

が、今回眼にした達っつあんの作品やピカソルイ・ヴィトンで観たシュッテ、ギメで観た能面や文楽人形、ロワールの古城迄、この国が古今東西の「アートと文化」を心から大事にして居る事こそが、僕がフランスを愛する最大の理由なのです。

Vive La France !!