西野達大博覧会@ナント。

最近夏バテも有って心身共に疲労が激しかったので、タイミングバッチリだった独立記念日の連休を使い、パリでの超重要な仕事に絡めてフランスはロレーヌ地方の街、ナントにやって来た。

西洋史を満足にやって居ない為、「ナントの勅令」でしか聞き覚えの無いこの街に僕がやって来た理由は、天才アーティスト西野達がナント市の芸術祭「Le Voyage」の今年のメイン・アーティストに選ばれ、市内3カ所で新作展を開催する事に為ったからだ!

ニューヨークからアムステルダム経由(因みに達っつあんから、「今、アムスでも展示してるんだ」と後で聞いた…あんた、何で先に云わないねん:笑)で着いたこのナントと云う街は、ロワール河が大西洋に注ぐ河口近くの街で、元はブルターニュ公国の首都。街の中心にはブルターニュ大公城が聳え、石畳の街にはトラムが走る、小さいが魅力的な街。

そしてこの街の大きな特徴は、驚くべき事に市の年間全予算の15%を「アート」に費やして居る事で、今回達っつあんが呼ばれた芸術祭を世界から観に来る人も多い…因みに来年は、川俣正氏も呼ばれるとの事で有る。

さて、その城の近くの安宿に到着した午後は、時差ボケと疲れの為ホテルで休み、夜は達っつあんとギャラリストUさんと待ち合わせて、達っつあんのご家族や残りの友人達のアーティストK氏やA女史等の日本からの到着組を、一緒にTGVのナント駅へ迎えに行く。

久し振りに会った達っつあんは、制作・展覧会準備為のナント滞在が70日を超えても元気そうだったが、僕が来た前日の雷雨に因る停電で2日後にオープンする展覧会の準備が非常に遅れ、その上新作をもう1点急遽作る事に為った為てんやわんやだと云う…然し、この人程「てんやわんや」と云う言葉が似合う人も珍しい(笑)。

そしてその晩は、日本からの到着組が一度チェックインした後、夜中迄若者達で賑わう飲み屋街のピザ屋で食事をして夜中過ぎに解散。2日目は朝ゆっくり起きて街を散策し、お城内部の美術館に入ろうとした所で「代官山の『前のめり』ベルナール」からナント到着の連絡を受け、ランチを共にする。

食事後はトラムに乗って、ベルナール・ド・ヌーヴ様と「レ・マシーン・ド・リル」を観に…この「マシーン」は横浜トリエンナーレでも紹介された、嘗て工業都市ナントの中心だったナント島の造船所が閉鎖され、その荒廃した地区の活性化の為に生まれたアート・プロジェクトだ。

機械仕掛けの、一寸「ギーガー」が入って居る色々な動物や昆虫が所狭しと展示されるが、見ものは重さ40トン・高さ12Mの「マシーン・ジャクチュー・チョージューカボク」的な巨大な象で(笑)、これが子供達に水を吹き掛けながら人を乗せて歩くのがスゴい。

「マシーン」を観終わった後は、今度は「ブルターニュ大公城」へと向かい、此の地に君臨した王に想いを馳せる。

この城は1532年にブルターニュ公国がフランに併合されて以来フランス王の城と為り、上にも記した様に1598年にアンリ4世が「信仰の自由」を認めた「ナントの勅令」が公布された事で有名だが、自分が人生で一度足りとも「王」の様に扱われた事の無い事実に、情けない様なホッとする様な気分に為る。

その晩は達っつあん組が全員集合し、19世紀末創業で建物自体が文化遺産に指定されている「C」と云うレストランで食事。コレクター、ギャラリスト、アーティスト、家族等で楽しい食事をし、その後も有志でワイン・セラーの直売バーで夜中迄呑み続けたが、然し此の時期のナントの日没は結構遅く、夜10時でも未だ夕方気分…唯でさえ呑兵衛な友人達のワインも進む訳だ(笑)。

そしてナント3日目は皆で早朝集合し、楽しみにして居たマイクロ・バスを貸し切ってのモン・サン=ミッシェルへの小旅行…そしてこの日の天気は素晴らしく、最高の1日と為った!

待ち合わせ時間が6:45AMだったにも関わらず、僕が起きたのが6:44AM(!)だった事から始まり、行きがてら某メンバーがトイレ行きたいのに「S」なドライバーに「放置プレイされる」事件(笑)も有ったが、ナントから走る事2時間半、モン・サン=ミッシェルが見えてきた時の感動は大きかった。

ご存知モン・サン=ミッシェルの長い歴史は、708年に始まる。そもそもは大天使ミカエルを祀る聖堂だったが、その後重要な巡礼地の1つに為り、が、英国との100年戦争の時に不落の強さを見せた事から、軍事施設とも見做されフランスの誇りと為ったが、フランス革命時に修道会が解散してからは、暫く監獄として使われたらしい…そして今は当然世界遺産指定。

堅牢でゴシック+ロマネスクな造りは素晴らしく、中は迷宮の様。今でも20数人が住んでいるらしいが、午前中干潮時のモン・サン=ミッシェルはそれ程混んで居らず、もう素晴らしいの一語!

モン・サン=ミッシェル見学後はその対岸迄バスを走らせ、ミシュラン2ツ星のレストランで鯛のタルタルやココア・ロブスター等の素晴らしく旨いランチを楽しんだ後は、もう一箇所一寸江ノ島チックな海辺の街に寄りナントに戻ったのが夜の7時。

一旦ホテルに戻り、お城の脇のレストランで4人で食事を始めると、アート祭のイヴェントが始まり、城のお堀では5人の音楽隊がカラフルな浮き輪で浮き水に浮きながら演奏を始め、大喝采を浴びる。

そして驚いたのは、「鏡貼り」のベスパに2人乗りした、達っつあん考案のアート・キャラ「ミラーボールマン」が「ブルターニュ大公城」門前に突然出現した事…「ミラーボールマン」達は達っつあんの「Solo Group Show」の展覧会情報が乗ったチラシを配り、大勢の地元・観光客写真をせがまれて大人気…流石西野達、もとい、Tatsuro Atzuだ!(達っつあんは、プロジェクト毎にアーティスト名を変えるので、今回の展覧会には「1人の作家の6つの名前」に拠るアートが展示されるのだ!)

さてその達っつあんの展示だが、先ずは第3会場の「ブルターニュ大公城美術館」に設置された作品は、サーフィン好きの人が住んでいるらしき日常の部屋の壁に、場違いな館所蔵のオールドマスター絵画が掛かっていると云うお得意のインスタレーションで、そのオトボケ感が絶妙(→http://www.chateaunantes.fr/fr/evenement/taturo-atzu)。

続いて第2会場と為った、「海底二万哩」や「80日間世界一周」で有名なナント出身のSF作家の美術館「ジュール・ヴェルヌ美術館」(→http://www.levoyageanantes.fr/etapes/taturo-atzu/)での展示は、素晴らしいコラージュ作品やドローイングに混じって、中央に置かれたのはそのジュール・ヴェルヌの「立像」彫刻。

実はこのジュール・ヴェルヌ像は、元来半身像だった「胸像」にガンダムの様な下半身を足して発泡スチロールで固めた作品で、そこを削り出したり台座を付けたりしての、謂わば「ジュールの『ヴィーナス』」的作品。

ドローイングと云い彫刻と云い、バカバカしさとユーモア、そして想像力たっぷりな達っつあんの作品は、フランス人達にどう受け止められるのか?…僕なんかに聞かずに、こう云う人にこそ「情熱大陸」や「ザ・ノンフィクション」は取材をすべきで無いか?

そして大トリの第1会場、ロワール河岸のHAB Galerieで開催された「Solo Group Show」(→http://www.levoyageanantes.fr/etapes/solo-group-show/)はと云うと、オープニング会場には大勢のアートファンが溢れ返り、大成功の様子。

作品もミュージアム・ピースな「車が電柱に串刺しに為って居る」巨大インスタレーション彫刻や、「彫像自動車噴水」お馴染みの「寝室」インスタレーション、「男女公開トイレ」や写真作品迄、もう西野達、もとい、Tatsuro Atzu他「6人格に拠る作品」の本領発揮で、もう素晴らしいの一言だ!

またオープニング・レセプションでは、達っつあんを10年間追い続けたフランス人キュレーターのD氏を紹介されて色々な事を話したが、達っつあんの近い将来の「ナント、ナント、ナナナント!」なプロジェクトに関する素晴らしいニュースをD氏から聞かされ、我々も大興奮…此処で詳しく言えないのが残念だが、待ち切れません!

大成功のオープニング後は、D氏やプロジェクト・マネジャーのMさんが主催した、夏の間だけ開店するメニューの1つしかない海の家的「オーガニック・チキン・レストラン」(笑)での打ち上げ食事会に参加。

其処でもD氏等と、改めて西野達と云うアーティストが中々日本に居ないタイプのダイナミズムを持って居る事、そして世界のアートファンを虜にする実力の有る事を確認し、ロワール河畔の夜は笑顔と乾杯を重ねながら更けて行ったのでした。

最後に、フランス最大の新聞「ル・モンド」のアート欄に出た達っつあんを添付して、今日はお仕舞い(→http://www.lemonde.fr/arts/article/2015/07/03/voyage-en-absurdie-avec-taturo-atzu_4668929_1655012.html)。


PS:展覧会2日目の夕方、HAB Galerieを再訪したらもう凄い人出で、「寝室」インスタレーションには行列が出来、観覧者達は笑顔一杯で達っつあんの作品を観ていた。これだけフランスで、いや世界で評判に為ってる日本人アーティストを、日本のメディアが何故報道しないのか「謎」で有る。