面目と続行。

今年も後2週間で終わり…と云う事は、今年の「栗スイーツ」ももう終わり。

で、今年の「マロンちゃん」の食べ納めはと云うと、例えば洋菓子店アンテノールの「栗のガトー和栗&イタリア栗」や、銀座カフェみゆき館の「プレミアム・モンブラン」、二条若狭屋「焼きくり」や新幹線の中で食べた「甘栗むいちゃいました」、スタイルズ・ケイクスの「焼き和栗パイ&和栗モンブラン・タルト」、成城石井の「渋皮栗のモンブランプリン」と「イタリア産マロンのモンブランパフェ」、そして再びの文明堂「日之影栗のプリン」でトドメを刺す。

さて僕が溺愛するこれ等栗のスイーツは、その「『栗』エイティヴィティ」(笑)と多様性を見ても判る様に、四季の有る日本ならではの物だろう。が然し、秋冬の高気温で駄目に為って仕舞った今年の京都の紅葉を見たりすると、日本を亜熱帯化する地球温暖化は紛れも無い事実に違い無い。

そして四季が徐々に無くなり、自然の厳しさとヴァラエティが失くなる事に因って、食文化や芸術を代表とする日本人独特の文化と感受性が亡くなるのは必須…世界の何処を見ても、メリハリの無い温暖過ぎる気候の土地に、厳しく高品質なアートや著しい経済の発展は見られないからだ。

自然と人間はいつも連鎖する…日本の文化芸術・経済+日本人は一体どうなって行くのだろう?その為にも、早急に地球温暖化を防止せねばならない。

さて本題。祇園の割烹「A」で舌鼓を打った先週の関西出張中も含めて、最近美術展を幾つか観たが、先ずはMIHO MUSEUMで開催中の「ジョン・C・ウェバー・コレクション」展(MIHO一館だけの開催と云うのもスゴいが…)。

ウェバー氏はコーネル大学X線と解剖学を教えて居た医学者だが、引退後東洋美術品収集と共に熱中したのがアイアンマン・レースで、今では年代年齢別チャンピオンに為る程のアスリート…彼のそのユニフォームやメダルから始まる本展は、土偶仏教美術、染色や陶磁器と続き、江戸期の絵画、下階では既にMETに寄贈された中国器物へと進む。

その中でも特に肉筆浮世絵のセクションには師宣や春章の名品が並ぶが、旧麻布美術館や萬野美術館旧蔵の名品等クリスティーズから行った物も多い。また川瀬巴水猪熊弦一郎安井曾太郎等の日本近代絵画、或いは柿右衛門等の陶磁器も…上野の森美術館で開催中のウェストン・コレクションもそうだが、自分が関わった作品を展覧会で観るのは嬉しい。

また東京では、三井記念美術館の「三井家伝世の至宝」を観る。国宝・重文も多い本展で眼を奪われたのは、奥高麗茶碗「深山路」や蓮池水禽図、そして能面三面…則ち龍右衛門の「花の小面」と日氷の「老女」、そして孫次郎の「オモカゲ」だ。

特に女面の白眉「オモカゲ」は金剛座大夫の亡き妻の「俤」を写したと云われるが、左右の眼の位置が微妙に異なる所が観る者にリアルな不安を感じさせながらも、気品有るセクシーな魅力を醸し出して居て、何度見ても震える程に素晴らしい…然し僕なんかが現実にこんな女性に会ったら、深みにハマる恐怖に怯えながらも、一発で恋に落ちて仕舞うのでは無かろうか(笑)。

もう1つ極めてインプレッシヴだったのが、旧細川侯爵邸の「和敬塾」本館で2日間だけ開催された展覧会、「舘鼻則孝:面目と続行」だ!

本展はレディ・ガガやダフネ・ギネスが愛した「ヒールレス・シューズ」の開発者として知られる舘鼻の最新作を中心とするアート作品展だが、その内容は多彩で、日本金工の粋を用いて舘鼻自身の骨格を真鍮で造られた「Traces of a Continuing History」から始まる本展は、その類い稀なる洋風建築空間に極めてマッチしたモノだった。

その後展覧会には、螺鈿や蒔絵、木彫、彫金等の古典的日本工芸技術の熟練者と舘鼻に拠って、謂わば「コラボレーション」的に現代美術へと転化された作品群が、舘鼻自身が蒐集した藤原・鎌倉期の日本古美術品と共に展示され、観る者の眼を奪う。

さて、「Traces of a Continuing History」 を観た時にも感じたのだが、自分の「死」を真に意識した者は、その時点で生きながらの即身成仏を為す…と云う意味で、今回のこの展覧会は日本伝統工芸の伝統と日本現代美術の未来、そしてファッション、クラフト、アートの融合、或いは歴史とのコラボを目指した物で有ると同時に、今迄の舘鼻則孝と云うアーティストの死と新生を意味すると思う。

そして図録内のインタビューで舘鼻自身がメンションして居る様に、今でもオークションで売られた日本美術品の世界最高額を記録し、数年前に重要文化財と為った真如苑蔵伝運慶作「大日如来像」の胎内に遺された水晶五輪塔や「心月輪」の様に、舘鼻のアート内に隠された日本工芸の「オリジン」や「価値観」、そしてその分野の「未来」は、「四季」を失いつつ有る日本の「有るべき将来」をも予言して居る様に感じられた。

「面目と続行」…これは今の日本人全てに必要な、日本人らしく生きる為、そして日本的芸術文化の未来への通行手形なのかも知れない。

来年春、舘鼻がパリ・カルティエ財団での文楽公演を企画して居るとの噂を聞いた…日本の伝統文化を徹底的に咀嚼して現代美術へと昇華させる、未だ30歳のアーティストに更なる期待をしたい。


ーお知らせー
*Gift社刊雑誌「Dress」にて「アートの深層」連載中。12/1発売の1月号は、世界的日本人「コスモポリタン」、「ヨーコ・オノ」に就て。