ロマンティックな、余りにもロマンティックな、ジェイムズ・ボンド。

今年も残り後ひと月…マジに責任者に出て来て貰いたい(嘆)。

そんな中、未だホテルの屋外プールで朝から泳ぐ人が見える、暖かい香港に出張して来た。

この秋のクリスティーズ香港の中国美術のセール…先ずアジア現代美術は引き続き好調で、その中でも田中敦子や白髪、奈良や村上等の日本人作家作品が1億円を超えて落札され、具体作家も軒並み高額で売却された。

その反面、古美術のセール結果は正直云って余り良くなく、特に器物は3億8277万1250香港ドル(約60億8600万円)を売り上げたが、ロットで52.7%、ヴァリューでも55%と半分位、仏教美術セールも14点中4点しか売れず不調。

が、今回のセールで僕が最も驚いたのは、例えばエスケナージやマーチャント(息子達は来て居たが)、ヘネシー&リトルトン等の世界の大物中国美術ディーラーが来て居なかった事で、こんな事は僕が香港セールに来始めてから初めての事だったからだ。

理由は数多有るだろうが、中国景気の後退とその様子見状態、高過ぎるエスティメイト、多すぎる高額商品…数点に人気が集中し、ピッキーなマーケットに為って来て居るので、これからは値付けに相当気を付けねば為らないだろう。

そして、相変わらず「L」の「ミル貝しゃぶしゃぶスープ」や「クリスピー・チャーシュー」、イタ飯屋「P」のトリュフ等を堪能した香港からの帰国翌日の今日、美しい富士山を横目に既に関西へと向かったのだが、話はこの前の日曜日に遡る。

その日僕は、ワタリウムパルコキノシタと云う名の昭和40年会アーティストを紹介されたり、前回体験出来なかったJRの恐るべき「Walking in NYC」に挑戦したり…が、この4D「メイキング・フィルム」は僕の様な⚫️所⚫️怖症な人には要注意な作品で、正直僕等観終わった時に僕の足はガクガク震えて居た(涙)。また神宮前の「P」の美味いクレープや、西麻布「O」のこれまた美味なコース・イタリアンを友人カップルと食べたりもしたが、それよりも後悔したのは、その前に食べたポップコーンのバター掛け…そう、今日のテーマは映画で有る。

然し、そのポップコーンMサイズを完食出来なかった位観入って仕舞ったのが、先行ロードショウ中の「007 スペクター」だった!

通常のハリウッド映画なら「Specter」と綴りたく為るで有ろう、ブリティッシュ・イングリッシュっぽい綴りの「Spectre」(最近では「theatre」や「centre」等と綴ると、直される場合が多い。合ってるのに…:涙)は、実は「SPecial Executive for Counter-intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion」の頭文字なので、実は綴り云々は元々関係無い(笑)…そんな本作はサム・メンデス監督に為ってから2作目、クレイグ・ボンド4作目、そして通算24作目の007作品だ。

さて「スペクター」と云えば「ブロフェルド」…僕の様に007シリーズを全作品観て居る者としては(序でにジョン・ヒューストン監督、デヴィッド・ニーヴンが007を演じた「カジノ・ロワイヤル」も、当然観ている)、例えば白猫を撫でる顔に傷の有るドナルド・プレゼンスなんかを思い出すが、本作ではアカデミー賞俳優クリストフ・ヴァルツが宿敵ブロフェルドを演ずる。

このブロフェルドとボンドの幼少期からの関係性、そしてクレイグ・ボンド1作目の「カジノ・ロワイヤル」からのストーリーの踏襲をメンデスは非常に上手く纏めて居るが、僕が最も驚いたのは女の「為に」生きる事を決め、最後にその女の「所為」でブロフェルドを殺さなかった事だ。

ボンドがブロフェルドを殺さなかったのは当然次作への前フリだろうが、レア・セドゥを大事にし過ぎている感にはチョット違和感も有る。そしてトム・フォードのタイト過ぎるスーツを着たボンドは、今回もスーツを一枚も破らぬ侭(笑)、「ロマンティック過ぎる男」と化して仕舞った。

が、気怠いモニカ・ベルッチが登場する葬式のシーンは息を呑む程美しいし、大好きなQ役のベン・ウィショーサム・スミスの主題歌もイケてるし、「ロシアより愛を込めて」を髣髴とさせる列車内の格闘や、冒頭の「ガンバレル・シークエンス」の復活も嬉しい…そして我らがヒーロー007は、メンデスに拠ってどんどん人間的に為り、血も涙も有る男に為って来たので有る。

これが良いか悪いかは分からないが、我々007ファンにはそんなボンドを静かに見守る術しか無い。

何故なら007を愛して止まず、ボンド・フィルムを観た後、劇場から出て来る時にカフスの位置を直し、慎重に辺りを見渡してしまう男達こそ(拙ダイアリー:「憧れの人」参照)、そもそも皆これ以上無い程のロマンティストなのだから。


ーお知らせー
*Gift社刊雑誌「Dress」にて「アートの深層」連載中。12/1発売の1月号は、世界的日本人「コスモポリタン」、「ヨーコ・オノ」に就て。