「夜桜能」@靖国神社。

何と、ザハ・ハディドが急逝して仕舞った。

これで新国立競技場建設は、より上手く行かなく為るに相違ない。ザハの「念」がそれを許さないだろうし、オリンピック自体にその波及効果は及ぶ。物事とはそう云った物で、これだけケチがついたら、もう唯では済まないのは自明…責任者達(居れば、の話だが)は覚悟した方が良い。何にせよ、天才建築家ハディド氏のご冥福を心より祈る。

さて、来日中の展覧会サーフの方も相変わらずで、先週末金曜日はかいちやうと伺ったのは、アーティスト清川あさみさんの個展「itotoito」@渋谷ヒカリエ。会場には所狭しと新作が並べられて居たが、特にインスタグラムを使った作品に興味を覚える。

その後はプラント・ハンターN氏&某有名番組プロデューサー氏との4人で、代官山に在る行きつけの料理店「A」での食事と為り、久し振りのKシェフの料理に舌鼓。其処で得た最新情報では、東急が数寄屋橋に建てた新しいコンプレックス・ビルの1階に、Kシェフの超ウマ高級クレープ店「P」が入ったとの事…皆さん、是非行ってみて下さい!

翌土曜日は久し振りに実家を訪れ、続く日曜日は目黒川へ花見に行こうと云って居た友人からのお誘いで、花見前にアピチャッポン(然し何故「ザハ」の様に、アピチャッポンも「名」で呼ぶのだろう?彼の「姓」は「ウィーラセタクン」だ!)の新作映画を観る事に為った。

そしてその序でに時差ボケの力を借り、11時からの上映前の時間を使って、「丁度良いじゃん!」と「アップリンク」から徒歩数分のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中の展覧会、「ボストン美術館蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」を観る。

会場は驚く事に朝から大混雑で、「何時から国芳・国貞がこんなにメジャーに為ったのか?」と訝るばかりだが、それに付けても展覧会タイトルが少々意味不明…一昔前なら同じ初代豊国の弟子の中でも、広重に比べたらマイナー扱いだったこの2人の絵師が、此処までフィーチャーされる様に為ったのは時代の流れだろう。

観覧後、急いでBunkamuraを出てアピチャッポンを観る為に「アップリンク」に向かい、10分前に着くと、何故か上映時間が11時では無く14時50分と為って居て、「何だよ、時間間違えてるんじゃん?」と少々ムッとしながら待って居たが、11時に為っても友人は来ず…どうしたかと思い電話してみると、向こうもとっくに着いて居ると云う。

「おっかしいなぁ?」と辺りを見渡しながら友人に聞いてみると、何と会うべき上映館は「アップリンク」では無く、「イメージ・フォーラム」で有った!ウーム、こんなマイナーな両館でアピチャッポンの異なる2作品(ULは「世紀の光」、IFは「光の墓」)を上映して居るなんて…時差ボケで無い皆さんも、映画を観る時は監督名だけで無く、作品名をきちんと確認しましょう(涙)。

そんなこんなで、タクシーを飛ばして何とか上映に間に合ったアピチャッポンの新作「光の墓」は、「古い霊」と「眠り病」がテーマのスピリチュアルな作品。古い王宮跡に建って居る病院で施される、「光」に拠る「眠り病」の治療は観て居る僕をも癒したが、序でに時差ボケに拠る唐突な眠りをも頻発させた(笑)。

さて、「古い霊」繋がりと云う訳でも無いが、僕に取っての今週のハイライトは、靖国神社での「夜桜能」。

三晩に渡る「夜桜能」の内、僕が観能したのは二晩目だったが、朝からの霧雨模様も夕方にはすっかり止み、晴れ男の面目躍如。そしてこの晩の番組は舞囃子「経政」と狂言佐渡狐」、そして梅若玄祥師の能「一角仙人」だ。

満開の桜と雨の上がった夜空の下、少々寒いが風も無い絶好の「夜桜能」日和と為り、風情満点の宵。境内内の会場も超満員で、紋付袴姿のお偉方に拠る火入れの儀式が始まると、嫌が上にも幽玄な期待が高まるが、一々お偉方の「肩書き」を放送した事にウンザリし、そのヴォルテージも下がり捲る。

が、舞囃子狂言を終え迎えた「一角仙人」では、松田弘之師の笛と舞台に静々と現れた美しき「旋陀夫人」の登場に因り、僕は一気に金春禅鳳と太平記の世界に引き込まれる。

この「一角仙人」は歌舞伎「鳴神」の原曲とされる様に、強力な力を持つ者が女性の色香に惑い、失敗すると云う筋書の、天竺を舞台とする物語。鹿から生まれた一角仙人は龍神と闘い、龍神達を岩屋に閉じ込めた為、国中に雨が全く降らなく為って仕舞う。

その為、帝は絶世の美女「旋陀夫人」を送り込んで仙人を籠絡させようと企むが、仙人はまんまとその策にはまり、酔いつぶれて眠って仕舞う。そして人間と交わった為に弱く為った仙人の呪力は破れ、岩屋から解き放たれた龍神達は雨を降らせて去って行く、と云う話で有る。

作り物が多く派手な曲だが、シテの玄祥師の舞は本当に素晴らしい。特に、夫人と仙人が一緒に舞う相舞「楽」での「男女の駆け引き」感や、夫人に触れたかと思うとパッと離れる瞬間等は流石の一言だったが、玄祥師が余りに上手過ぎたので、妙に身につまされたのが玉に瑕(笑)。篝火に照らされた狂おしい程に咲き馨る桜と、幽玄の調べ…最高の舞台で有った。

終演後は囃子方の出演者お二方と、神楽坂の弟の店「来経」で食事。駄洒落を交えての歴史談義と、日本の某庁副長官の余りの教養の無さの話(挨拶で「お能を初めて見た」「お能は今回が最初で最後」等の、「恥ずかしがるべき話」を、衆目の前で偉そうに演説したらしい…国辱物の恥を知れ、で有る)で美味しい料理を頂いた、何ともエデュケーショナルなディナーと為った。

いや然し、一角仙人の気持ちも判る…今昔物語の時代から男は弱し、で有る(笑)。


*お知らせ
来る4/30(土)PM3:30-5:00、朝日カルチャーセンター新宿にて、「江戸絵画の美を探る:若冲国芳・海外から見た奇想絵師たち」と云う講座を担当します。詳しくは→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/92fef51d-63d5-3c42-13b6-56b41d9fab74迄。