温故知新な美術館。

ここ最近、映画好きな僕に取ってショックな事が3つ有った。

先ずは高倉健の死…凄いファンと云う訳では無かったし、後年の「いい人」の映画では無く、「網走番外地」等の東映ヤクザ映画時代の方が好きだった者としては、健さんの死は、僕の時代でも有る「昭和の終焉」を意味する。

健さん御茶ノ水に在る明治大学を出て居て、駿河台で生まれ育った僕は、健さんが有名に為った後でも学生時代から洋服を作っていた近所のテーラーSさんやIさんの所に、律儀にスーツを作りに来ていたのを、何度か見た事が有る…「律儀」と云う言葉が似合う最後の「映画スター」では無かろうか(後は菅原文太さん位だろうか?)。

そして次に、マイク・ニコルズ監督の死。「卒業」や「愛の狩人」が知られ、そして史上9人しか居ないアカデミー、エミー、トニー、グラミー各賞の全てを受賞したアメリカン・ニューシネマの旗手の1人で、繊細な作風の監督で有った。

が、もう1点忘れられないのは、一時期彼が僕の大好きな作家バルテュスの知る人ぞ知る「封印された作品」、「The Guitar Lesson」(拙ダイアリー:「『禁断の絵画』、或いは『封印された絵画』」参照)のオーナーだった事だ。

そして3つ目は、フランス映画社の倒産…僕の青春時代は、この会社の配給する映画無くては有り得なかった!ゴダールやエリセ、ヴェンダースアンゲロプロスやジャーミッシュ等、アート系作品を地道に日本に紹介してくれた功績は何物にも代え難い。誰かこの会社を助けて呉れる人は居ないのだろうか?…残念極まりないニュースで有る(涙)。

さて、此処からが今日の本題。然し日本は連休が多くて羨ましい!で、当然来日中の間だけ僕はその連休の恩恵に預かる事が出来る訳だが、先週末の連休もアート三昧で有った。

先ずはギャラリー小柳へ…先週木曜日に始まったばかりの、チョット変わった展覧会「Unsold」の出展作家は杉本博司、ソフィー・カル、そして青柳龍太(骨董商)で有る。

オープニングを逃して仕舞った為、ギャラリーに居らした小柳さんの説明を受けながら拝見したのだが、その展示作品とは驚くべき物で、先ずこの3人が、杉本氏が足繁く通う靖国神社の骨董市に露店を出し、自分テイストの不用品を売る。そしてその時「売れ残ったモノ」を展示して訳だが、それ自体をインスタレーションとして居るのだ。

その上、その「売れ残ったモノ(Unsold)」と云うのが、これまた奇妙なモノだったり可笑しモノだったりして、特に杉本氏の「Unsold」には「サマセット・モームの『湯たんぽ』」やら「爆撃機搭載の時計」等、「ホンマかいな?」な「来歴」の怪しげな作品も並ぶ。

然しそのモノに付いている写真付きの「商品カード」(こちらを販売して居るのだが、写真は杉本氏の撮影作品では無い…念の為)に記される商品説明文の後には、「鴨」の朱文方印が押され、これは「サマセット・モームの湯たんぽ『かも』(知れない)」と云う、骨董市独特の複雑怪奇な「アトリビューション」を示して居るので有る(笑)。

何とも杉本氏らしい洒落の効いた企画だったが、その翌日には、杉本氏が係わった、もう一つのプロジェクトを観に行く…つい最近「新館」を伴ってリニューアル・オープンした、目黒の東京都庭園美術館だ。

ご存知旧朝香宮邸だった本館は、その後吉田茂に拠る外務大臣公邸、迎賓館、西武に拠る所有等の役割等を経て、現在の東京都庭園庭園美術館と為った訳だが、この秋ホワイト・キューブ・ルックなスペースを持つ新館が、内藤礼の展覧会「信の感情」を以ってデビューと為った。

本館から三保谷硝子製の美しいスロープを通って訪れる新館は、非常にシンプル。そして天井高の高い展示室はミニマルで、アール・デコをフィーチャーし捲った本館との対照も楽しい。

そしてもう1点特記すべきは、新しいカフェ、音楽会や上映会等も開催出来るホールを擁するこの新館建設に当たって、美術館側からアドヴァイザーとしての依頼されたのが、上記杉本博司氏だと云う事で有る。

「Art Annual Online」に拠ると、美術館側は杉本氏の起用に就て、

「氏は世界でも著名な写真家・現代美術家で有ると共に、日本の古代からの美術・建築・文学等に対する造詣も深い方。朝香宮邸時代から続く価値の保存と、美術館の庭園としてより適した姿に生まれ変わるための庭園改修のコンセプトに合致すると思われ、アドバイザーをお願いした」

との事。

朝香宮様がパリで交通事故に遭い、ご夫妻が長期滞在を余儀無くされた事に因って知った、嘗て世界の最先端アートだった「アール・デコ」でマッシヴに彩られた本館と、現代美術家杉本博司がアドヴァイスした、ミニマルで透明感溢れる新館を持つ事に為った東京都庭園美術館

近所の蕎麦屋「利庵」で美味しい蕎麦と蕨餅を食べ、腹ごなしに自然教育園でマイナス・イオン一杯の散策をした後、隣の庭園美術館に移り、最先端アートを建築の「温故知新」と共に愉しむ。

紅葉盛りのこの秋、必訪の美術館だと思うので、是非。