「邯鄲」的動向。

4月27日(水)
15:30 NH009便にて来日。東京に着くと、毎度の如く神田明神に参拝。そろそろ結果の出そうな大仕事の勝利を祈願する。

19:00 その重要な競合仕事の結果の電話(或いはメール)を待ちながら、駿河台下の弟の店「I」で食事。結局連絡は来ず、失意の侭帰宅。

2:00 風呂に入ってもベッドに入っても連絡が来なかった為、落ち着かず眠れない。心を和ませる為に再読中の平野啓一郎著「マチネの終わりに」を読むが、この「3度」読む予定の小説は罪深い程に素晴らしい…感想は何れ此処に誌さねば。その後深夜2時頃、顧客からやっとポジティヴなメールが来て、ベッドの中で1人狂喜乱舞する。


4月28日(木)
12:00 前日の日本到着に因る時差ボケ+睡眠不足を圧しながら、母親と代官山「O」でランチ。今回は自費での休暇を兼ねての来日なのだが、実際は色々と働かねば為らない。その意味で人生そう甘くはないが、「表面張力」を利用した超美味な「大盛りポタージュ+絶品クルトン」で可なり癒される。

14:00 土曜日に行うレクチャーの為に、ラップトップを東京オフィスに借りに行く。時計担当の新顔の男性社員が居て、ビックリ…頑張って貰いたい。

16:00 渋谷の「C」ホテルのロビーで、古典芸能関係の顧客と幾つかのビジネスに関しての打ち合わせ。最近古典芸能付いているなぁ。

18:00 大岩オスカール「世界は光に満ちている」展レセプションの為、アートフロント・ギャラリーへ。 某美大T学長を紹介されたり、相変わらず飄々として居るオスカールに、金箔や銀を使った新作や、サンパウロ・東京・ニューヨーク跨ぐファンタジックな絵画の説明を聞いたり。オスカールの男木島のインスタレーション「部屋の中の部屋」の「モデル」が欲し過ぎる…。

19:30 西麻布の和食「W」で、田中一村の親戚のご夫人と食事。知られざる一村の話が、異常に興味深かった。


4月29日(金:昭和天皇誕生日)
8:30 某公共放送のご好意で、都美館で開催中の「生誕300年記念 若冲展」を開館前に拝見。館に入った時点で既に長蛇の列だったのに、開館時間の9:30少し前に館を出る頃には、その列は幾重かに蟠を巻き、図録の巻頭文で辻先生が祈られて居た「加熱し過ぎない様に」と云う願いは、儚くも打ち砕かれて居た…若冲人気恐るべし。図録販売の方も絶好調で、来館者の4人に1人が買って帰ると聞くが、その図録に佐藤康宏先生が一切寄稿されて居ない事に気付く…これは「鳥獣花木図屏風」を巡る、他の先生方との意見対立の所為だろうか?若しそうだったら残念至極だが、意見の異なる先生方双方には、個人的には是非「公の場」で論争して欲しい。そうすれば、そこで第三者が見つける事も有るだろうと思う。展覧会の方は、ワシントン・ナショナル・ギャラリー以来拝見の「動植綵絵」全幅展示が何しろ圧巻だが、再会したMIHO MUSEUMの「白梅錦鶏図」も矢張り可なり素晴らしい。唯一の疑問は、今判って居る若冲唯一の水墨絵巻「水墨游」が出て居ない事。確か韓国に在る筈だが…何故だろう?

9:30 東博に移動し、「生誕150年 黒田清輝展ー日本近代絵画の巨匠」展を観る。ロンドン・クリスティーズ印象派イヴニング・セールで売られた、パリ万博出品の「木陰」が懐かしい…が、誰が何と云っても、 僕に取って最も素晴らしい作品は、ポーラ所蔵の「野辺」だ!

11:30 上野を後にして、今度は表参道の舘鼻則孝氏のアトリエへ行き、革製品の展示会を観る。素晴らしいパスポート・ケースを購入。

19:00 表参道「T」で、友人とステーキ・ディナー。タルタルやシーザーサラダ等も注文するが、「ダイエット中だから」とか云って、メインのステーキが2人で250gだけなんて、足りる訳無いぢゃ無いか!


4月30日(土)
12:00 重要顧客と赤坂「C」ホテル内の「O」でランチをし、極めて重要なビジネスの打ち合わせ。お互いその晩のディナーが重そうだったので、軽めに済ますが、これこそ「中年の知恵」と云う奴では無いか?(笑)

15:30 朝日カルチャー・センター新宿にて、「江戸絵画の美を探る:若冲国芳・海外から見た奇想絵師たち」と題されたレクチャーを行う。海外コレクター所有の作品や、クリスティーズで売却した両作家の作品を提示しながら、数十名の熱心な生徒さん達との掛け合いを含めての、90分間の講義。若冲の絵師としての2つの「弱点」を提示しながら、世間の声に惑わされず、辻先生の様に「アートを見る時に、自分に取っての『奇想』を『発見』する重要性」を強調…小林秀雄も「美とは発見で有る」と云って居るでは無いか!受講して頂いた皆さん、有難う御座いました!

20:30 某地方公立美術館の学芸員に会い、行き付けの新橋の寿司屋「S」で食事。公立美術館ならではの問題点を聞き、驚愕頻り。日本の美術館は公立私立共、即時「開国」が必要だ。


5月1日(日)
15:30 国立能楽堂で、「舞台生活50周年記念 第十二回櫻間右陣之會」を観る。今回の右陣師の舞台は、大好きな「邯鄲」(拙ダイアリー:「げに何事も一炊の夢」参照)で、「50年間の治世や栄華等、飯が炊ける迄のほんの『一炊の夢』」と云うお能。この「邯鄲」を僕が前回観たのは、46才だった2009年だったから、今回「50年」を超えた右陣師の華麗な舞と渋い謡は、同じく50年以上を既に生きた僕の心と強烈にシンクロし、感動を呼ぶ。公演後は右陣師のご厚意で、使用したばかりの「邯鄲男」の面を拝見。江戸中期作の、代々家に伝わると聞く素晴らしい作行きの面だったが、右陣師がつい先程迄掛けて居たが故の、此処まで生々しく未だ熱を保って居る面を拝見したのは生まれて初めてで、大興奮。矢張り日本美術品の殆どは、使われてこそ精彩を放つ事が多い。 そして能面と茶碗は、その最たる物…当に眼福で有った。

19:30 久し振りに会う、舞台俳優の友人Eと銀座の「T」で寿司を摘む。この日「大駱駝艦」を観て来たと云うEとは芸術、特に映画と舞台の趣味が合うので、日本で会うのが何時も楽しみ。今回も大将の握る赤酢の江戸前寿司に舌鼓を打ちながらの、芸術談義に花を咲かせた美しい至福のひと時でした。


長かったGWも「一炊の夢」…そして世間はGW後半戦へ。アメリカよりこれだけ連休の多い日本が羨ましいが、日本人が働き過ぎ、と云うのは実際大嘘だと思う(笑)。