紫色の雨の下、プリンスの死を悼む。

ニューヨークでの大統領予備選は、トランプとヒラリーが圧勝した。

矢張り、と云って仕舞えば元も子も無いが、バーニーは年を取り過ぎて居るし、結果は見えて居たかも知れない…にしても、此の儘行けばトランプが過半数を取り、共和党の代表に為る可能性も大。党内の誰かが、本気で止めに来るのでは無いかとも思う。

そんな中仕事の合間を縫って、今月8日からジャパン・ソサエティで開催して居た「Japan Sings! The Japanese Musical Film」シリーズの中から、2本を拝見…大島渚監督1967年作品「日本春歌考」と、2001年度三池崇史監督作品「カタクリ家の幸福」だ。

先ずは「日本春歌考」…相変わらずの大島節が唸られて居る作品だが、御茶ノ水界隈で生まれ育った僕には、冒頭近くで映されて居た当時の駿河台や聖橋が異様に懐かしい。

思えば70年安保の時には、御茶ノ水の明大前の大通りでは全共闘が機動隊と夜毎闘い、闘争の翌朝の通りは文字通り「兵どもが夢の跡」で、道には血糊がこびり付き、割れた火炎瓶の破片、ゲバ棒や「安保粉砕」と書かれたヘルメット等が散乱して居て、それを弟と拾って被っては意味も分からず「安保粉砕、春闘勝利!」とか叫んで遊んだものだ(何と云う「左」な子供だったのだろう!:笑)。

そんな時代背景の中で、「春歌」を下敷きに「妄想」と「現実」を行き来するこの作品には、若き日の荒木一郎伊丹十三宮本信子吉田日出子等が出て居て、青春映画の体裁を取りながらも「右とか左とか、体制なんかどうでも良いじゃないか!」的な、大島の思想が色濃く反映された佳作で有った。

一方「カタクリ家の幸福」の方は、沢田研二松坂慶子、そして忌野清志郎遠藤憲一丹波哲郎竹中直人等の怪優達が脇を締める、思ったよりも面白い爆笑コメディ・ミュージカル作品。

特に清志郎演じる超ナンセンスなリチャード佐川と、丹波演ずる祖父仁平の2役がサイコーで、この作品をよりコミカルに仕立てて居る…そしてジュリー(この作品で、彼の愛称「ジュリー」が「ジュリー・アンドリューズ」から取られたモノだと初めて知った!)も大熱演で、その歌唱力に改めて感心させられた。

然し、全く関係無いが、この沢田研二と云う人には妙な色気と云うか魅力が有って、それは「悪魔のようなあいつ」や「太陽を盗んだ男」、「魔界転生」等でもとっくに証明済みなのだが、何と云っても僕が愛する田中裕子を妻にした所が、一番尊敬出来る(笑)。「あの」田中裕子が惚れる位なのだから、さぞ本人自身も魅力的なのだろう、と思う。

と云う事で、此処からが今日の本題…「クイーン」(エリザベス女王)のバースデーに、「プリンス」が急死して仕舞った。57歳だった。

余りにも急なニュースだったので、ニュース速報を携帯で受けたニューヨークの街の誰もが「何処かの国の『王子』」が死んだのかと思った程で、直ぐには信じられず、その状況は僕にマイケル・ジャクソンが亡くなった時の事を思い出させた(拙ダイアリー:「『マイケルは本当に死んだのか』、或いは『商業舞台の終焉』」参照)。

プリンスは前の週に自家用機内で具合が悪くなり、緊急着陸して病院に搬送された後は直ぐに退院して「風邪(Flu)だ」とのコメントが発表されて居たが、その後の公演は数回キャンセルされて居た。此方の友人に拠ると、彼は「エホバの証人」のメンバーだったと云う情報も有り、それも今回の急逝と何か関係が有るやも知れない。

また余り知られて居ないかも知れないが、MJとマドンナ、そしてこのプリンスは同じ年の生まれで、これでポップ界のトップ3の内の2人が死んで仕舞って、残るはマドンナだけ。今年は大物ミュージシャンの死が本当に多いが(これも僕自身が年を取った所為だろう…)、その中でもプリンスはプロデューサーとしても有能で、彼の「オンナ達」だったヴァニティ、シーラ・Eやアポロニア、或いはThe Time等を世に出した功績も大きい。

そして僕のプリンスとの出会いは1979年の「I Wanna Be Your Lover」(→http://www.dailymotion.com/video/x15zj5c_prince-i-wanna-be-your-lover-official-video_music)で、その曲の入ったアルバム「For You」には、後にチャカ・カーンがカヴァーして大ヒットと為った「I Feel for You」も入って居たりする名盤なのだが、彼の音楽的名声を不動の物にしたのは、新聞などで書かれて居る様に私小説的な「Purple Rain」では無く(確かに「Purple Rain」は泣けるが)、その前の「1999」だと思う。

僕のディスコ全盛時代には、その1つ前のアルバム「Contraversy」から、タイトル曲や「Let's Work」と云う曲が良く掛かって居て、アルバム「1999」が出た時もそのタイトル・チューン「1999」がディスコで多用されては居たが、実際彼の音楽がロック色を徐々に強めて行くに連れ、R&Bや「ブラコン」(Black Contemporary…懐かしい名称だ!)・ファンが離れて行ったのも事実だ。

が、武満徹やダリル・ジョーンズも敬愛したプリンスの音楽の偉大さは、その「特異さ」と「新しさ」、そして「詩」にこそ有るのだが、その辺の事は以前此処で詳しく書いたので繰り返さない(→拙ダイアリー:「小さな巨人」:PRINCE@M.S.G.」参照)。

今ニューヨークの映画館は急遽「パープル・レイン」を上映し、ケーブル・チャンネルでも繰り返し放映され、アポロ・シアター等でもトリビュート・ライヴが開催されて居る…R&B、ロック等のカテゴリーを超えた彼の人気が偲ばれるだろう。

此処に彼への敬意を表して、1983年にジェームズ・ブラウンのコンサートに来て居て、JBにステージに上げられたマイケルとプリンスの珍しいスリー・ショット・ライヴ映像を添付して置く(→https://m.youtube.com/watch?v=Yy9L4ft7EGk)。

"I only wanted to see you in laughing in the purple rain," and "I just want your extra time and your... kiss."

大大大好きな「Kiss」を聴きながら、僕も"Great Artist Formerly Known As Prince"の冥福を祈ろう。


*お知らせ
来る4/30(土)PM3:30-5:00、朝日カルチャーセンター新宿にて、「江戸絵画の美を探る:若冲国芳・海外から見た奇想絵師たち」と云う講座を担当します。詳しくは→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/92fef51d-63d5-3c42-13b6-56b41d9fab74迄。