NYC-JPN-HGKな近況。

11月12日(土)
16:00 美しい女性を連れて当社現代美術セールの下見会を訪れた、近頃話題のビッグ・バイヤーと会う。このコレクター氏は、最近茶碗や仏像等の日本美術品にもご興味が有ると聞き及んで居たので、同じく現代美術の大コレクターで有ったパワーズ夫妻コレクション中の仏像をお勧めする。

20:00 自宅でノンビリとDVD観賞…今夜の映画は横溝正史原作、篠田正浩監督の1981年度角川映画悪霊島」。最近何故か再び、横溝正史江戸川乱歩が少年時代以来のマイ・ブームと為って居て、おどろおどろしく、淫靡でノスタルジックな昭和初期的な物に憧れて居る。このDVDを観て驚いたのは、劇中使用されて居る「Let It Be」と「Get Back」の両曲が、昔観た時にはビートルズのオリジナル楽曲だったのに、このDVDでは別のアーティストの歌に変わって居た事。著作権の問題だろうか?然し、岩下志麻は何と美しいのだろう!…そして映画監督(特に篠田正浩吉田喜重、序でに大島渚)とは、何と幸せな職業なのだろう!


11月13日(日)
14:00 NY在住の多摩美卒業生達に、印象派・近代絵画と現代美術の下見会ツアーをする。その後はアイリッシュ・バーで懇親会。

18:00 昨晩に続き、家で横溝正史ナイト(笑)…今晩は「悪魔が来たりて笛を吹く」。この作品は珍しく角川映画では無く、1979年に角川春樹本人が東映でプロデュースした作品。本作では金田一耕助を西田敏之が演じるが、石坂浩二に慣れて居ると、どうしても違和感が有る(「八つ墓村」での渥美清豊川悦司も、「本陣殺人事件」の中尾彬も同じだ)。当時映画館で見た時は、何しろ怖かった覚えが有って、それは悪魔のフィギュアの所為だった。が今見ると、ちゃんちゃら可笑しい。逆に、当時何とも思わなかった二木てる美が可愛くて驚く。


11月14日(月)
14:30 パーク・アヴェニュー・アーモリーで開催中のアート・フェア、「The Salon Art + Design」へ。日本美術を含めた世界のデコラティブ作品が並ぶ中で、複数の顔見知りディーラー達と懇談する。


11月15日(火)
8:30 来年3月の藤田美術館セールに関する電話会議。若しかしたら、エスティメイトの変更が有るかも。

19:00 ジャパン・ソサエティにて、アーティストの友人I氏と、最近ハマって居る角川映画の「野獣死すべし」を観る。1980年村川透監督の本作は松田優作の代表作と云えると思うが、「太陽にほえろ」での「何じゃ、こりゃぁ…」と共に、本作での「わかるか?お前にわかるか?」と云う松田のセリフを、高校生だった僕は何度も真似した物だ(笑)。また当時大好きだった小林麻美も懐かしかったが、今観ると可成り面長で其れ程美人でも無く、役柄も少々奇妙。また松田が住んで居る設定の部屋のインテリアも当時の最新オサレ部屋の典型だし、「元戦場カメラマン」と云う役柄もカッコイイが、松田のキャラ自体は大藪春彦の原作のイメージとは程遠い…何れも角川春樹の個人的趣味なのでは無いか?

21:00 映画後は、近所の日本居酒屋「R」でI氏と食事。「いつ永久帰国をするべきか?」は、長くNYに住んだ者の永遠のテーマ。


11月16日(水)
17:00 ANA109便に搭乗し、羽田へ…10月末から始まった、全日空JFKー羽田便に乗るのは初めてだ。機内では碌な映画が無く、仕方無くもう10回以上は観て居て、台詞も殆ど覚えて仕舞った「ノッティングヒルの恋人」を観るが、相変わらずラストの記者会見のシーンでジュリア・ロバーツが「Indefinitely…」と答えると、不覚にも涙して仕舞ふ。その後は懐かしのドラマ「救命病棟24時」を見続け、出演者の演技の巧さ故感動頻り。


11月17日(木)
21:30 到着が遅れても、羽田なら流石に余り気に為らない…羽田便は矢張り便利。某局ディレクターの出迎えを受け、恒例の神田明神詣後、神保町の自宅に帰還。


11月18日(金)
13:30 六本木の古美術店を訪問後、その隣に出来たアート複合ビル「六本木アート・コンプレックス」で開催中の展覧会、タカ・イシイ「Inaugural Exhibition: MOVED」、小山登美夫ギャラリー蜷川実花 Lights of」、シュウゴ・アーツ「小林正人 Thrice Upon a Time」を見学。

18:00 代官山で始まった、内田鋼一展「いろいろ」のオープニング・レセプションへ…氏の多彩な才能に耽溺する。展示品は焼物を始め当に「色々」だったが、今回驚いたのは「バー・カウンター」。内田さんご自身の為の制作ではなかろうか(笑)。

22:00 自宅で新藤兼人監督・津川雅彦主演の「濹東綺譚」を観る。本作はATG最後の作品。女郎屋の女将役の乙羽信子(新藤夫人)が中々良いが、乙羽は1960年の同作品にも出て居るらしい…流石だ。それに付けても、お雪役の墨田ユキは一体何処に行って仕舞ったのだらう?


11月19日(土)
9:00 新幹線に乗り大阪へ。車中、12/16にワタリウムでコメンテーターとして話す、宗徧流八代目家元山田寅次郎に就ての本、「山田寅次郎宗有」を勉強の為に読む。この男は実業家・民間外交官・茶道家元の顔を持つ本当に面白い人で、謂わば「近代の冒険王」。

15:00 3月にニューヨークで売り立てをする藤田美術館にて、打ち合わせ。台湾での下見会の様子等の報告する。下見会の評判は上々で、中国のトップ・コレクター達も大注目。青銅器もそうだが絵画も大人気で、乾隆帝所持の「六龍図巻」等は恐らくは中国絵画のオークション・レコードを出すのでは無いか…期待が高まる。

20:00 僕主催の、翌日結婚するニューヨークの友人J君の為の「バチェラー・ディナー」を、六本木「M」で。出席者はJ君を含めた建築家、写真家、ジュエリー・デザイナー(この3人は独身だ!)、そして僕の全員ニューヨークからの男5名で、「肉尽くし」ディナーでお祝いをする。そしてその後は…内緒(笑)。


11月20日(日)
12:30 「これぞ結婚式日和!」な素晴らしい天候の下、明治神宮に赴き、J君&Aちゃんの神前結婚式に参列。明治神宮での式に出るのは初めてで、余りの人の多さに驚きながら外人観光客の撮影の嵐の中を、神殿へと僕らは列を成して進む。髭を蓄えた紋付袴姿のJ君は、まるで明治の元勲の様。白無垢・綿帽子のAちゃんと共に、日本の結婚式此処に在り、な荘厳な式でした。

14:30 明治記念館に移り、披露宴…此処は緑が美しい。開宴すると、これもニューヨークから馳せ参じた「ニセ・マルコビッチ」ことSの乾杯に続き、「ニセ・ケン」こと僕のスピーチ。スピーチは何と僕だけと云うプレッシャーの中、「心の金継ぎ」の話をするが(拙ダイアリー:「『再生』、或いは『呼び継ぎ』の心」参照)、僕が今迄披露宴でスピーチをした10組程のカップルは誰1人離婚して居ないので、ラッキーと信じたい。J君&Aちゃん、本当に御目出度う!

19:00 渋谷のバーで二次会。今は帰国した嘗てのニューヨークの友人等との、久し振りの再会も楽しい。誠に幸福な1日だった。


11月21日(月)
16:00 表参道のギャラリー・セゾンで開催中の「クリスチャン・アヴァ Beyond the Palettes」を観る。重層の絵具をカットした作品。


11月22日(火)
14:30 トルコ大使館で開催された「ティー・パーティー」に(別に共和党支持者の集まりでは無い)。これは山田寅次郎著「土耳古畫考」の再出版を記念するパーティー。会場では和多利一家の皆さんや、学校の後輩でも有る当代宗徧流家元、イスラム美術の専門家、大使館文化担当官等と談笑。そんな中、偶々隣に立って居た日本人女性と話して居て、僕が古美術関係者だと知ると、その方が「あら、では私の父をご存知かしら?」と仰る。「お父様は何と云う方ですか?」と聞くと、その名は勿論お会いした事の有る某有名茶道具商Y氏で有った…世間は狭い。

18:30 友人と「ブリジット・ジョーンズの日記:ダメな私の最後のモテ期」を観る。このシリーズは1作目しか見て居ないが、イギリスっぽさは大分薄れた様に思う。然しコリン・ファースはシブく、良い年の取り方をして居る。そして劇中、飛行機事故で死亡したとしてヒュー・グラントの葬式が営まれるが、映画の最後に新聞記事で彼の生存が確認されると云うオチ有り…其処は如何にもブリティッシュ


11月23日(水:勤労感謝の日
8:00 朝起きて、僕には誰も「勤労」を感謝して呉れない事に気付き、自分の脳と身体に「いつも働いて呉れて、有難う」と呟く。その後お抹茶を頂きながら、DVDで「江戸川乱歩の陰獣」を観賞。あおい輝彦香山美子の演技も良く、昭和初期の雰囲気が良く出て居た。

12:30 一緒に結婚式に出席した写真家G君と、九段下の蕎麦屋「I」でランチ。

14:30 G君を伴い、サントリー美術館で開催中の「小田野直武と秋田蘭画」展を観る。31歳の若さで亡くなった直武の作品は少ないが、実に面白い。直武以外にも佐竹曙山・義躬、司馬江漢等も出て居て、遠近法や陰影法等、秋田蘭画と近世洋風画の「苦闘」が偲ばれる、非常に良い展覧会だ。

17:00 G君と共通の友人で現代和菓子職人のSさんを呼び出して、六本木「T」でコーヒー・タイム…序でにマロン・ショートを頂く。然し今年の「マロンちゃん」はイマイチ…もう終わっちゃうし、残念。


11月24日(木)
7:30 朝起きると、外は何と雪!11月の初雪は54年振りだそうで、これは明日が杉本博司演出の朗読劇「肉声」の、初日だからか?(笑)杉本氏は、鎌倉期の木彫「雷神像」を購入してから「天気の神」に祟られる事が多く、例えばニューヨークの茶室の披きの日は、10月なのに50数年振りの初雪猛吹雪、「三番叟」日本公演初日は激烈台風で多くの人が来場出来ず、「杉本文楽」は東日本大震災で中止…そして明日が「肉声」初日…だからに相違ない!

12:00 写真家&ペインターと、銀座の「T」で鯛茶ランチ。久し振りの鯛茶は本当に美味い。

19:00 友人と食事の為、麻布十番のすき焼き屋「K」に行くが、予約が入ってないと云われ立ち往生。困って、何とか席が無いかと交渉して居たら、直ぐ其処に座って居た白髭の老人が僕を見上げ、「あれ、若しかして孫一さん?」と聞くでは無いか!良く見たらその老人は、何とニューヨークを数年前に引き払い帰国したSさんで、嘗てニューヨークで店をやって居たと云う店主とは長年の付き合いだと云う。そのSさんの声掛けで同席させて貰い、美味しいすき焼きを堪能した後は、近所のこれ又元ニューヨーカーが経営するジャズ・バー「T」へ行き、再会を祝した。いやぁ、世界は本当に狭い!


11月25日(金)
15:30 三井記念美術館で始まった、「特別展 日本の伝統芸能展」のオープニング・レセプションへ。本展は国立劇場開場50周年を記念した物で、雅楽能楽・歌舞伎・文楽・演芸・民族芸能を網羅し、 日本の芸能の真髄に迫る。「観能図」等屏風に良い物が出て居たが、最近マーケットでは風俗画の人気が低いのが残念。

19:00 朗読劇「肉声」を観る為に、青山の草月ホールへ。本作はジャン・コクトー原作、杉本博司演出・美術、平野啓一郎翻案・脚本、庄司紗矢香音楽・演奏、寺島しのぶ出演と云う、豪華且つマニアックな舞台で、第二次大戦前夜、ル・コルビジェ風の館に浮世絵春画収集家(渋井清氏だろう)に拠って囲われた女の、男との電話での会話のみが語られる。その満員の会場には、森美術館理事長・館長や原美術館館長、永青文庫副館長等の美術界の大物達の顔も見えたが、笑いを誘ったのは杉本氏本人に拠る開演前の「携帯アナウンス」…流石ヒッチコック並みの杉本氏、タダでは済まない(笑)。そして本を手にした寺島の演技も(恐らくは、本を手にするが故に難しく為るに違いないが…)、庄司のヴァイオリン演奏も素晴らしかったのだが、個人的に惜しむらくは、庄司のヴァイオリンが劇前、劇中のインターバル、そして最後と、寺島のセリフと一切被る事が無かった事で、電話のベル音以外全く音の無い台詞劇を長時間観るが少々辛かった。然し平野の脚本は、エロティックな表現が多いにも関わらず(事前に知らされ、想像して居た程はエロく無かった)、文学的且つ高貴で、当初から依頼されて居た「三島風」を実現して居たと思うし、背後のスクリーンに写し出された杉本作品も、視覚効果抜群で有ったと思う。最近偶々「陰獣」や「濹東綺譚」を観て居た所為か、戦前の昭和日本を容易くイメージ出来た事も手伝って、才能溢れる両氏を僭越ながら出会わせた結果の本作、嬉しく拝見しました!


そして今僕は香港…来年3月に開催される、藤田美術館所蔵品オークションの下見会が開催中。物凄い人気なので、3月が待ち遠し過ぎる。


−お知らせ−
*12月14日(水)19:00より、青山の岡本太郎記念館にて開催される「舘鼻則孝 呪力の美学」展のアーティスト・トークに登壇します。詳しくは→http://www.taro-okamoto.or.jp/event/index.html

*12月16日(金)19:00-20:30、ワタリウム美術館での「2016 山田寅次郎研究会4:山田寅次郎著『土耳古画考』の再考」 に、ゲスト・コメンテーターとして登壇します。詳しくは→http://www.watarium.co.jp/lec_trajirou/Torajiro2016-SideAB_outline.pdf

*僕がエクゼクティヴ・プロデューサーを務め、「インドネシア世界人権映画祭」にて国際優秀賞とストーリー賞を受賞した映画、渡辺真也監督作品「Soul Oddysey–ユーラシアを探して」(→http://www.shinyawatanabe.net/soulodyssey/ja/)が、好評の為、来年1月21・24・30日の3日間、渋谷のアップリンクにてリヴァイヴァル上映されます。奮ってご来場下さい。