「白い巨塔」的動向。

5月23日(火)
12:00 母親と代官山「O」でランチ。暑さの為かもう始まった「パリソワ」を、表面張力を利用した大盛りで頂く。この一杯の為なら死ね…はしないが、大概の事は我慢出来るのではと思う。

16:00 訪ねたMaho Kubota Galleryで、最近お気に入りのアーティスト多田圭介君を紹介され、話をする。彼の「捏造的創作古典絵画」とでも呼ぶべき作品は、観る者に過去と未来へのタイムスリップを体験させるのだが、その中で一点気に入った「塔」が描かれた風景画が有り、それがトム・クルーズ主演映画「オブリビオン」から来て居ると知り、驚く…それは、僕が劇中登場する建物や家具がモダンな「近未来映画」好きで、この「オブリビオン」やユアン・マクレガーの「アイランド」、イーサン・ホークの「ガタカ」等を愛して止まないから。

19:00 友人と広尾の和食店「O」でディナー。学生時代からの友人の、高名なるスタイリストに教えて貰ったこの店は、若いシェフオススメの「オマール海老の炊き込みご飯」が美味い。又来たい店だ。


5月24日(水)
9:00 かいちやうとお母様との朝食の為、都内某ホテルへ…バイキングは超危険だが仕方ない(笑)。成る可く糖質を避けた積もりだったが、結局最後に朝食ブッフェには珍しい「讃岐うどん」を見つけ、食べて仕舞う。無念だ…(涙)。

15:30 在アメリカの某日本美術コレクションの為の電話会議。このコレクションは「その分野」では世界最高峰で、他に見つけようとしても見つけられない…と云う事は、必然的に非常に高額に為る。何とか頑張りたい。

16:30 九段のアパートの契約。窓からは母校や靖国、富士山、春には桜が見えるので、「愛国リベラル」には持って来いでは無いか?(笑)これからは画商N氏や作家H氏ともご近所…が、引っ越しが大変そうで、考えただけで頭痛がする。


5月25日(木)
12:00 赤坂で文部官僚、人間国宝、建築家、投資会社社長、弁護士各氏が集うランチ・ミーティングに招かれ、海外某所で計画されて居る文化プロジェクトの話を聞く。壮大な計画だが、実現すれば素晴らしい。お役に立てれば良いが…。

17:30 かいちやう宅に茶碗を持参し、箱書及び命銘のお願い。その後は2人で茶室に入り、珍しい高麗茶碗で一服頂きながら一緒に銘を考えるが、銘を考える事程楽しく難しい物は無い。

19:30 ワタリウムで開催中の坂本龍一展の関連イヴェントとして開かれた、能楽小鼓方大倉流宗家大倉源次郎師のパフォーマンスを聴きに、ワタリウムへ。会場に流れる教授の音楽に合わせて、即興で打たれる数々の鼓を堪能。これは音の違いを聴く目的のパフォーマンスだが、或る意味「スピーカー」と「生音」との対決でも有る。司会を務めた能研究者のR君とのトークや、源次郎師に拠る「エア鼓」レッスンも含まれた、興味深い試みだった。

21:30 パフォーマンス終了後は、ワタリウム地階での打ち上げに参加。略半世紀ぶりにお会いした、源次郎師の弟さんの笛奏者U氏や、その昔表参道で精進料理店をやって居たT氏等、懐かしい方々とも歓談する。

23:00 打ち上げ後どうしても腹が減り、参加して居たR君、オペラ演出家Mさん、アーティストYさんと、ワタリウム近所の深夜営業カフェ「L」で食事。Mさんは、翌日開幕のオペラの歌手が急に出演辞退して仕舞い、てんてこ舞いだったらしい。然し、出演者が前日にキャンセルなんてのも信じられんが、急遽代役を探して何とか為るのも信じられない…オペラ、恐るべし。


5月26日(金)
11:45 銀座「G」で、重要顧客2人とランチ。この日の3人は日本美術と云う共通項のコレクター、ディーラー、スペシャリストだった訳だが、この「G」と云う店が大好きな点も共通する。で、店に入ったら「孫一さん!」と何処からか声を掛けられ、驚いて見ると、現代美術作品も多く持つ某有名旅館の若夫婦では無いか!「合目利き」為らぬ、「合舌利き」が有るのかも知れない。此処でもパリソワを堪能…至福、至福。

17:00 某企業が運営するギャラリーを訪れ、ディレクターとミーティング。この企業ピッタリのプライベート・セールをプロモートする…さてどう為るか?

19:00 六本木の中華「K」で食事。K夫妻もお元気そうで何より。相変わらずバカウマの鳥胡麻平麺やマコモダケ炒め、海老味噌キャベツ等を食べ捲り、シメには中華雑炊を頂く。

21:00 アーティスティックな青山のバー「W」で、コレクターS氏紹介の出版社社長と編集者に会う。社長氏から頂いた話はどれも面白い話で、次回来日時に一緒にお仕事をするのが楽しみ、楽しみ。


5月27日(土)
11:30 表参道の「C」のテラスで友人とランチ…好天の下、待ち時間は長かったが、此処のパンケーキはシンプルで美味い。うーん、テラス万歳!

14:00 一度家に戻り、久々の読書…読みかけの志村和次郎著「富豪への道と美術コレクションー維新後の実業家・文化人の軌跡」を読む。井上馨益田鈍翁から始まり、三井・住友・岩崎・大倉・藤田の各財閥系コレクターを経て、松方幸次郎、原三溪、大原孫三郎、出光佐三石橋正二郎根津嘉一郎小林一三五島慶太野村徳七、原六郎をフィーチャーする。昔は文化的社会貢献を考える金持ちが、何と多かった事か!

19:00 渋谷のブラジル料理店「B」で、日本美術史家Y先生、某美術館学芸のHさん、NYの友人アーティストOと「肉肉しい」食事。久し振りにお会いしたY先生&H女史もお元気そうで、「最近某有名コレクターが、同郷の某美術館に10億円程作品を売った」等、日本美術界四方山話を聞く。


5月28日(日)
8:50 早起きして羽田に向かい、全日空で香港へ。機内では見残して居た、唐沢・江口版「白い巨塔」の最後の2回分を観て、感動する(「アメイジング・グレイス」が泣かせる)。僕は1978年の田宮二郎版も観て居る為、どうしても俳優の格は落ちる気がするのだが、それでも2003年当時のドラマ作りは今よりも重厚で、俳優陣も少々大袈裟だが上手い。この2003年版には唐沢演じる財前がアウシュビッツ収容所を訪れるシーンが有ったが、これが史上初めてアウシュビッツで「フィクション作品」の撮影が許可されたとの事。財前が線路に立つシーンが印象的だったが、人生の岐路の選択の結果は、誰にも判らない…実はそれは既に決まって居るにも関わらず、だ。

17:00 香港のボスとミーティング。愚痴を聞いて貰う。

19:00 疲れたので、ホテルで軽食を食べながら、 先日TSUTAYAで見つけた一ノ関圭の漫画「鼻紙写楽」を読み始める。「手塚治虫文化賞」を受賞した本作は、著者の何と32年振りの新刊だそうで、前作は「茶箱広重」と云うから、一ノ関氏は大の浮世絵好きなのだろう。テーマは歌舞伎と役者絵(流光斎如圭!)そして江戸政治らしい…どんな話なのだろう?


5月29日(月)
12:00 下見会・セール会場で有るコンヴェンション・センターに向かい、現代美術部門と新しい企画セールの打ち合わせ。このセールが実現すると面白いのだが。

13:30 香港サザビーズに向かい、今回出品される浮世絵個人コレクションの下見。聞くとこのコレクションは長年香港に住んだ英国人のモノで、所謂「エステート・セール」らしい。先月ニューヨークで世界新記録を出した「大浪」も入った、北斎・広重・国芳等のとした19世紀作家を中心とするコレクションだが、中々良い作品も有り、かなりウブいので良く売れるに違いない。浮世絵版画が中国で売れるのは、誠に喜ばしい限りだ。

15:00 某大口プライベート・セールの打ち合わせ。同席した仲の良いフランス人同僚に新大統領の事を聞くと、今首相の元で働く彼女のご主人曰く、「今迄人生で会った誰よりも聡明で、頭の回転の早い男」だそうで、大分年下にも関わらず、「仕えたい」と思う人なのだそうだ。今迄「美味しい『マクロン』」とか「傷には『マクロン』」、或いは「♬『マクロン』なら毛糸洗いに自信が持〜て〜ま〜す〜♫」等と茶化した自分が恥ずかしい。然も例の年上女房と知り合った高校を出た時、激怒した父親は2人を引き離す為に息子をパリへ送ったが、彼女の方がパリへ追いかけて来た事で、父親は息子を勘当し、それ以来父は息子と会わず、大統領と為った就任式ででさえ、息子と目も合わせ無かったと云う…愛は人と人とを強く結び付けるが、それと同時にきつく突き放す事も有るのだ。

16:30 この日最後のミーティング。もうミーティングなんて、大っ嫌いだ!

19:00 顧客と行きつけのレストランに行くが、何といつも頼む極旨スープが無いと聞き、余りのショックに思わず「白い巨塔」を思い出し、財前五郎の様に「無念だ…」と呟く(笑)。


香港後は一度日本に帰り、直ぐ西海岸へ向かう。それにしてもあのスープを飲めなかったのは、矢張り無念だ…食べ物の恨みは「白い巨塔」並みに恐ろしい(笑)。


ーお知らせー
*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://comingbook.honzuki.jp/?detail=9784062924337)が、来たる6月9日に「講談社学術文庫」の一冊として復刊されます。ご興味の有る方は、是非!