「方丈記」的動向。

8月28日(月)
10:00 アジア在住の超重要日本美術個人コレクターが、屏風を観にオフィス来訪。この屏風は如何なる文人画絵師の屏風の中でも最も重要、且つ見方に拠っては現代美術にも見える逸品だ…結果は如何に?

11:00 香港のCEOを招いての全体ミーティング。中国美術品市場は未だ衰えず。

17:00 在米某有名コレクションに関する、電話会議。然し、何故人はこんなに電話会議好きなのだろう?

18:00 最近人間国宝に為られた家元に、日本橋で今大盛況の「アート・アクアリウム」に呼ばれ、そのプロデューサーを紹介され案内して頂く。週末にはディスコにも為ると云うこのエンターテイメントは、確かに一般受けしそう…が、室生犀星ファンの僕としては、金魚達が少々可哀想に思えて来て切ない(涙)。その後は能楽関係の財団の方々と、宗家のお祝いを兼ねて「Z」で美味な「A5ランク和牛」のしゃぶしゃぶ…この日はご馳走に為ったので、オトナな僕は肉のお代わりを我慢する。


8月29日(火)
11:00 香港のボスと電話会議。会議、会議、会議…会議なんて大キライだ。

12:30 2年振り位に会う友人と、和食ブッフェランチ。野菜中心ブッフェとホッケが美味い。人にも拠るのだろうが、2年位では人は余り変わらない、と感じる。少なくとも外見は。

14:00 六本木アートコンプレックスへ行く途中、道でギャラリストT氏にバッタリ会うが、T氏に「会社辞めて、大学どう?」と聞かれる…辞めてないんですけど(涙)。シュウゴ・アーツは展示替え閉廊中だったが、バッタリ会ったスタッフのOさんに入れて貰い、見損なった近藤亜樹の「飛べ、こぶた」展を見せて頂く。作品は可成りパワフルだが、周吾氏に拠るとこの作家は物凄い速描きらしい。小山さんの所では、杉戸洋の焼物を観る。

15:00 隣のビルの重要顧客の店「L」へ。すると何やら店内に人が多く、何事かと思ったらこの秋に細見美術館で開催される某仏教美術個人コレクション展関係の撮影らしく、展覧会監修をする「文庫内の人」や某有名女性漫画家の方々とご挨拶。来月始まるこの展覧会は楽しみスグル。

16:00 「L」の上階のオオタ・ファインアーツに立ち寄り、スタッフから来月牛込にオープンする「草間彌生美術館」の案内を頂く。開館近く為ってさぞや大変だと思うが、大田さんお身体お大事に!

20:00 久し振りに家でのんびり。本でも読もうと思い、多忙で読めて居ない本の山を見ると、三上美和「原三溪と日本近代美術」、平野啓一郎「自由のこれから」、佐々木敦ゴダール原論」、南明日香「国境を越えた日本美術史」、ベルスヴォルト=ヴァルラーべ「李禹煥 他者との出会い」、浅野秀剛「浮世絵細見」、高橋弘美「七世竹本住大夫 限りなき藝の道」、野崎歓谷崎潤一郎と異国の言語」、平岡ひさよ「コスモポリタンの蓋棺録 フェノロサと二人の妻」等々。悩んだ挙句結局「自由…」を手にし、原摩利彦の新作アルバム「Landscape in Portrait」を聴きながら読め始める。あー、至福。


8月30日(水)
10:00 香港のCEOとミーティングの為オフィスに行くが、先方の勘違いでキャンセル…向こうは「ブレックファスト・ミーティング」を考えて居たらしいが、連絡を忘れたとの事。僕的にはそっちの方が良かったのに…(笑)。

11:00 サントリー美術館で「おもしろびじゅつワンダーランド2017」を観る。この展覧会は非常に啓蒙的で、今後子供達に日本美術を伝えて行く上での、重要なヒントを与えてくれる。昨今混同されて居る「アート」と「エンターテイメント」は実際問題似て非なる物なのだが、「アート」を教え伝える為に「エンターテイメント」を用いるのは、特に子供達に取っては可成り効果的。体を動かすと動く屏風絵、宝尽し文様クッションで遊ぶ、マイクに向かって叫ぶと「吹墨」が出来る、自分で着物のデザインが出来る等、大人でもやって見たくなる企画満載だった!

12:30 母親と天麩羅店「Y」でランチ…何時も通り天麩羅も美味かったが、前菜の「焼き胡麻豆腐」が美味くて感心する。序でに母の食欲にも感心頻り。

14:00 都内某ホテルのカフェで、長年のお付き合いのMETの絵画修復師D氏とミーティング。D氏とはもう15年以上の付き合いだが、既に70歳を超えられたD氏は「最近色んな人が死んだり、NYから居なくなっちゃったりして、寂しいよ」と呟く。スミマセン、僕も帰っちゃいました…。

18:00 カイカイキキ・ギャラリーに駆け込み、会期終了1時間前の「陶芸⇄現代美術の関係性ってどうなってんだろう?」展を観るが、イマイチ理解出来ない。

19:00 美大生達と西麻布で居酒屋ディナー。その後ウィーン留学するHさんの前途を祝して、皆で「C」で「フェアウェル・スイーツ」…5種類食べたHさん(笑)、頑張れ!


8月31日(木)
10:00 引越し、未だ片付かず。その最大の理由は、膨大な量の書籍の為の本棚が足らず、IKEA迄行って買い求めたのだが、今度は棚板が足らず追加注文し、やっとその棚板や収納、台所用品等が届く。これで、全ての床から全ての本が消える…漸く部屋らしい部屋に為るのでは?との期待大。

14:00 京橋界隈の骨董屋を廻るが、其処此処で僕の日本での新生活に就て「嘘八百」が流布して居る事が判る。数日前のギャラリストといい、人の噂とは恐ろしい。犯人の目星は大体付いて居るのだが(笑)…噂は「伝言ゲーム」の様なモノだ。

18:30 銀座のイタリアンで、今月一杯で退社する同僚2人と新しく入った社員の歓送迎会。窯焼きの美味いピザを食べながら、辞めて行く2人の女性社員の幸せそうな顔に、何故か一寸嫉妬する。

21:00 ディナーに続いて、総勢15人で「フェアウェル歌会」@数寄屋橋カラ館。僕もサザンや尾崎紀世彦郷ひろみ等を歌った目眩く歌の宴は、深夜1時迄…H&Mさん、お疲れ様でした。どうぞお幸せに!


9月1日(金)
9:00 IKEAからの組立業者が来訪。工作の苦手な僕としては、お金を払っても丁寧に組み立てて呉れるのが有難いが、作業員の1人が余りにタバコ臭く辟易する。

13:00 田中一村の親戚筋の病院オーナーと、青山のフレンチ「R」でランチ。一番量の少ないコースを頼み、多種多様な涼しげなジュレ系前菜を極めて美味しく頂いたが、メインのポーク・コンフィの量がビックリする程多く、かなり食べ過ぎ感有り。コスパの意味では素晴らしかったが、一寸多いなぁ。

18:30 待ちに待った、僕の永遠の憧れCharとOriginal Loveの出るライヴ「Slow Live '17 in 池上本門寺」へ。この催しは会場前に出店が出て、串物やヤキソバ等も食べながらライヴを堪能する事が出来る、アコースティック・セット・ショウ。先ずは前座の横山優也のアコースティック・ソロ…彼は「Kotori」というバンドのヴォーカルらしいが、曲も歌も中々良くて、これはKotoriもチェックせねば!そして田島貴男が登場し、「接吻」や「朝日のあたる道」等を演奏。田島は相変わらず歌も上手いし、ギャグも冴えて居た(笑)。が、僕の目当ては勿論Charで、彼が「銀座Now」に出て居た頃からの大ファン。ソロ時代からジョニー・ルイス&チャー、ピンク・クラウド、Baho等聴いて来た世代で、「Smoky」(→https://m.youtube.com/watch?v=7IlMOp3X2qc)や「Drive Me Nuts」(→https://m.youtube.com/watch?v=DjX3oVx3FCU)なんかを聴くと、もう堪らん(笑)。さて帽子を被り、相変わらずスマートな出で立ちで登場したCharは当年取って62歳…が、そんな事は微塵も感じさせないパワフルでグルーヴィーなギグで、超カッコ良いアレンジでのスティーヴィーの「Superstition」、大名曲「Black Shoes」(→https://m.youtube.com/watch?v=iCt6Xo9vo-o)や「Shinin' You, Shinin' Day」等で会場も大盛り上がり…が、最高潮だったのは田島貴男がジョインし歌った「気絶するほど悩ましい」の時で、その後お返しにCharが軽く「接吻」を歌った日にゃぁ、もう…(笑)。んでアンコールは「Smoky」で、最後迄云う事無し。然しCharのギターは凄スグル。


9月2日(土)
8:00 朝番組で、コメンテーター達に拠る日野皓正の「ビンタ問題」に就ての意見を聞くが、個人的には日野皓正は何も間違って居ないと思う。大体彼は教育者ではなくミュージシャンなのだし、あれだけワガママな子供を叩かずに、誰があの勝手な演奏を止めさせられのだろう?公演後親子揃って日野の所に謝りに行き、結果訴えもしないのだから、他人がとやかく云う事では無いと思うし、教育とはそもそも子供全員を納得させる事など出来ないのだから、如何にも自分の子が叩かれた様に云う意味が判らない…そう思うのは、僕も旧い昭和タイプだからかな?

14:00 横浜能楽堂に向かい、ルカ・ヴェジェッティ演出の舞踊舞台「左右左(さゆうさ)」を観る。この作品は横浜能楽堂の企画「能舞台とコラボ」の第1弾で、NYのジャパン・ソサエティーとの共同制作。ドナルド・キーン先生原案協力、また音楽監督には先日人間国宝個人指定が決定した、小鼓方大倉流宗家大倉源次郎師が当たった、舞踏、バレエ、コンテンポラリー・ダンス、そして能を網羅する意欲作だ。さて舞踊作品としては良い出来なのだろうが、先ず能舞台が理由と思われる照明の余りの暗さと、無音状態での舞踊が長過ぎて、正直寝て仕舞う。この問題は、NY公演では舞台が変わる筈なので改善されるのではとも思うが、実際この作品を能舞台でやる意味が良く分からなかった…要は「能舞台とコラボ」と謳うなら、もっと能舞台を使う意味を見せて貰いたかったかな?と云う事。はてさて、これは先日歌舞伎座で観た野田歌舞伎にも共通する、「何故、態々歌舞伎?何故、態々能?」と云った僕の最近の大疑問なのだが、皆さん如何だろう?

18:00 NYの友人U君に紹介されたK君と連れ立って、テラダ・アート・コンプレックスのオープニングへ。僕が一番気に為ったのはウラノでの展覧会、「小西紀行 群れの記憶」。小西作品は以前から気に為って居たのだが、今回の作品の中にはベーコン的具象/抽象絵画な試みが見え隠れする作品が有って、より強く魅力的な作品に仕上がって居る様に思える。必見の展覧会だ。

20:00 K君と麻布十番の居酒屋「T」でディナー。今香港で超有名ブランドのアイウェア・デザイナーをして居るK君は、金子眼鏡とプラダを経て今のポジションで頑張って居る、最終目的地はイタリアと明言するアラフォーのイケメン。初対面ながら、海外で頑張って居るアーティストやクリエイターに良く見られるフランクさと芯の強さに共感しながら、アートやデザイン、独身恋バナに花が咲く。こう云う逞しい若い世代の日本人が増えて欲しい、と切実に思う。


そして嗚呼、今年ももう2/3が終って仕舞った。


ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。


帰国して2ヶ月、引越しも漸く終わりそうな初秋のこの頃、鴨長明な気分の孫一なのでした。


ーお知らせー

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

*10月28日(土)15:30-17:00、朝日カルチャーセンター新宿校にて「運慶ー世界を魅了する美」と題された講座を開催します。詳細はこちら→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/a23108c9-3dab-2e5f-7631-59829e1dc570