「室町の名残」に遊んだ1日。

国会で1年以上も嘘を突き通された末に、森友問題が漸く動き出した。

然しそう為ると、森友・加計問題が1つの争点だった去年の衆院選も、国民が国会で嘘の答弁を信じた末の投票結果だった訳だから、遣り直さねば為らないのでは無かろうか?今こそ「国民の信」を本当に問わねば為らないのだから、解散総選挙をすべきだと思う。そもそも「特例ディスカウント」を遣らずに済んだのだから、選挙費用くらい出るだろう(怒)。

そんな怒り心頭な僕はと云えば、仕事の合間を縫って某官庁の研究会に出たり、理事を務める日本文化系財団の理事会に出席したりと、文化普及貢献活動にも勤しんで居たのだが、最近素晴らしい超日本文化な1日を過ごしたので、その事を。

その日僕は、日頃親しくさせて頂いて居る茶の湯者の茶事に、久し振りに招かれた。

前回彼の正式な茶事に呼ばれたのはもう何年も前の事で、久し振りの事で緊張もしたが、正客に茶道某流派宗匠、相客に邦楽家元とコレクターの方2名、そして茶の湯者の流派のお弟子さんの編集者の方と云った具合で、知った方も居らっしゃるので心易い。

客同士挨拶を交わして、待合で水屋お見舞をお渡しし手口を浄めると、いざ茶室へ。この日の床には室町期の禅僧が自分を鼠に例えた自画賛軸が掛かり、見覚えの有る炉縁と芦屋釜に迎えられる。亭主が現れ挨拶を交わすと、そろそろと茶は始まった。

炭手前が始まると客は自然と炉縁に集まり、肩が触れる程近付き合って燃え始めた炭を眺める。この一瞬こそが「一座建立」を実現するのだと痛感する瞬間…茶事の過程の中でも、最も重要で醍醐味の有る瞬間だと思う。

続いて懐石。美味しい料理を楽しい会話で味わう。5人の客の内のお2人がお酒に滅法強く、徳利の空きも早い(笑)。最後にこれまた美味なきんとん主菓子を頂いて、中立…暫く休み、仄かに暗んだ茶室に戻ると、濃茶が始まった。

軸が外された床には、戦国武将茶人の豪絡な二重切竹花入が掛けられ、花が活けられる。松籟も程良い加減で、茶の湯者が大振りな茶碗を持って茶室に入ると、客の間にも緊張感が増した。大振りな茶碗で念入りに練られる濃茶を心待ちにする客達の眼は、茶の湯者の手先に集中し、これも戦国武将の手に為る繊細な茶杓が茶入と茶碗とを何度も行き来し、茶筅で念入りに練られるのを熟視する。

そうして完璧に練られた濃茶は、正客から順に手渡しされ、滔々僕の所に回って来ると、僕は口当たりの良い茶碗から喉に流れる濃茶の旨さに思わず唸って仕舞う…至福のひと時とは、当にこの事では無いか!その後は道具拝見で大振り茶碗の正体を知り(溜息)、薄茶は場所を移しての立礼で、茶の湯者自作茶碗等を楽しむ。心尽くしの亭主と気取らない相客に、感謝感激の暖かいひと時だった。

さてこの日の茶事で思ったのは、茶道と云うのは利休が桃山時代に大成した芸術に違い無いが、矢張り「室町時代の名残」の芸術だと云う事。桃山のアヴァンギャルドさは、室町の静謐さの中でこそ生きる…それは「基礎」を徹底した上での、「遊び」で有り「作為」なのだと云う事で、現代美術にもそれが云えると思う。

茶事を終えた後は、国立能楽堂へと急ぐ…観世宗家の「求塚」を観る為だった。

「求塚」は観阿弥原作、世阿弥改作と云われる四番目物で、観世流では長い間廃曲に為って居たらしいが、昭和26年に観世華雪に拠って復曲された、万葉集や大和物語等に登場する菟名日処女(うないおとめ)の悲劇を題材とする作品。

生田の里に来た僧達は、若菜摘みの女達に出逢い別れるが、その内の1人が残り僧達を求塚に案内して、塚の由来を語る。

それは、2人の男に言い寄られた女(菟名日処女)が1人に決め倦ねて、生田川の水面の水鳥を先に射た方と結婚すると云うが、2人が同時に射当てた為に、女は嘆き川に身を投げて仕舞う。それを見た男たちは後追いをし、1人は女の手を、もう1人は女の足を掴んで死ね、と云う物語だったが、若菜摘みは自分がその女の霊だと仄めかして立ち去る。

僧達が弔いの経をあげると、地獄の責め苦に憔悴した後シテの女の亡霊が現れ、自分の所為で男2人と水鳥迄を死なせて仕舞った業で、苦しみを受けていると明かす。そして亡霊はその地獄の責めの様子を見せて消え去ると云う、何とも恐ろしい曲だ。

この曲の見所は、前半の静かで優しい雰囲気と、後半の凄惨な場面の対比が凄い所で、シテの観世宗家の舞は中々に素晴らしく、特に後半の緊迫感は身の毛がよだつ程だった。然し現代で考えると、男1人を決めかねて死ぬ女やそれを後追いする2人の男等、「何故だ!」的要素が多いのも事実だが、室町の世ではそれも当たり前の事だったのだろう。人は昔は余程真面目に生きて居た、とも云えるのかも知れないが、その意味で官僚や政治家も、偶には能の一番位観た方が良いと思うのは決して僕だけでは有るまい。

茶と能…室町時代に深く身を浸し、その名残に遊んだ、余りにも此の世離れした1日だったが、シリアスな室町文化を緩い現代の世の中で体験すると、身が引き締まる思いが有る。

だからこそ現代人には、この様な「真面目な遊び」が必要なのだ。


ーお知らせー
*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

芸術と政治に於ける「スクラップ&ビルド」。

先ずは、超嬉しいお目出度いニュースから。

敬愛する現代美術家、西野達氏が文科省芸術選奨文科大臣賞を受賞した!

遅過ぎの感は有るが、達さんの仕事が国から「も」認められたのが、我が事の様に本当に嬉しい!今からお祝いの飲み会が楽しみスグル。達さん、おめでとう御座います!!!!

と云う事で、今日も覚書から。


2月22日(木)
9:00 人間ドック2日目。痛さを堪えてモニターを見ながら、毎年恒例の大腸内視鏡検査を受ける。その最中或る部分に来た時、担当医が「アッ!」と声を上げたので何事かと怖くなるが、何と「アニサキス」が居て、その箇所が腫れて少し出血しているでは無いか。医師に拠るとアニサキスは通常胃酸で死ぬか、若しくは胃にへばりついて激痛を齎すらしいが、大腸まで生き残るのは珍しいとの事。放って置けば腸閉塞も起こしかねなかったらしいのでラッキーだったが、その後の検査では病院中の看護婦さんや検診医達に「桂屋さん、大腸にアニサキス居たんだってー?」と言われ、天然記念物的気分を味わう。

19:00 去年お世話になったNHKプロフェッショナル 仕事の流儀」のTディレクターと久し振りに会い、「I」で食事。放映からもう1年近くなるが、未だに街で声を掛けられたりする。今から思えばT氏も良くぞ1年以上も僕なんかに密着出来たモノだが、それもこれもT氏の人徳が全て。そして1年経って想うのは、この番組のお陰で最大の親孝行が出来た事と、或る人との素晴らしい邂逅が有った事…感謝、感謝である。


2月23日(金)
13:30 大阪美術倶楽部で開催された「大美アートフェア」に向かい、藤田美術館館長藤田清氏の講演会を聴く。美術館のお計らいで関係者席に座るが、何とも面映ゆい。ユーモアを交えた館長のレクチャーは流石で有った!

18:30 北新地のおでん屋で、コレクターS氏、F館長、古美術商T氏の御三方とディナー。御三人は各々三島や唐津等の味の有る酒杯を持ち寄り一献傾けるが、下戸な僕は触らせて貰うだけ。然し美味しいおでんで続く骨董話は楽しスグル。その後は某クラブへ繰り出し、最後はショット・バーで「もう一度」食べて解散。食欲と骨董欲は比例するのだ(笑)。


2月24日(土)
10:00 大阪市某所に在る、大阪のオバチャンの「ゴッド・ハンド・マッサージ」へ。僕の数年に渡った坐骨神経痛はこのオバチャンの手に因って、たった1回の施術で完治したのだが、大阪に仕事に行った折には立ち寄る事にして居る。相変わらず小柄な体格からは信じられない程の強い力、痛さにギャアギャア叫びながら1時間たっぷりと痛めつけられ、スッキリ感を得る。

19:00 東京駅経由で高崎に向かい、今迄食べた中でも最も美味い担々麺を名店「H」で頂くと、群馬交響楽団定期演奏会を聴く為に、高崎音楽センターにダッシュで向かう。群響は日本の地方交響楽団では最も歴史有る楽団で、然も今回は名ヴァイオリ二スト、オーギュスタン・デュメイの弾き振りだから見逃せない。前半はチャイコフスキー「憂鬱なセレナード」、ショーソン「詩曲 作品25」、ラヴェル「ツィガーヌ」(拙ダイアリー:「『香子』と『ツィガーヌ』」参照)で、デュメイの本領発揮…実に美しい演奏だった。後半はベートヴェンの4番、これも群響の弦が壮大で素晴らしかった!


2月25日(日)
14:00 新国立劇場に向かい、高谷史郎/ダムタイプの公演「ST/LL」へ。会場ではS銀行のO氏夫妻や、今回の公演の音楽を坂本教授と担当している原摩利彦氏の弟で、能研究者のR君にもバッタリ。さて舞台の方だが、ダンスも音楽も起承転結、或いはメリハリが余り無く、正直少々ダレる。本公演には女優鶴田真由も出演して居たが、声も出て居らず「何故彼女が?」感も有ったが、如何に?


2月27日(火)
10:00 香港と電話会議。会議、カイギ、かいぎ…。

16:00 染織作品の研究の為に某古美術商を訪ねると、或る有力古美術商コレクターが来て居て、3人で話し始めたら止まらなく為り、肝心の話はお預けに為る(笑)。が、その話の中で、数年前にニューヨークのサザビーズで売られた縄文土偶のアンダービッダーを偶然知る事と為り、雑談の大切さを改めて思い知る。真実は雑談の中や「枠の外」にこそ有るのだ。

19:30 友人が「歌手のバックで演奏するので、映るかも知れない」というので、家に戻りNHK「うたコン」を観る。目を凝らして見ていると「セカオワ」の後ろにそのお姿が!芸能人でも無い個人的に知ってる人をテレビで観ると、興奮するのは何故だろう。


2月28日(水)
13:30 永青文庫で開催中の展覧会、「細川家と中国美術ー名品でたどる中国のやきもの」へ。17年振りと云う本展には、所謂「日本人好み」のモノが並び、特に唐三彩や宋磁に名品が揃う。その中でも個人的白眉は重文「三彩花卉文盤」や「三彩獅子」、定窯「白磁長頸瓶」、そして重文磁州窯「白釉黒花牡丹文瓶」辺りだろうか。然しこの美術館を訪れると、その展示室の落ち着き方に何時も癒されるのだが、藤田美術館の改装を思うと何となく惜しい気がして来るから、人間とは我儘なモノ。日本人の優れた眼で選ばれた東洋古美術は、矢張り日本人的な空間で観るのが最適なのかも知れない、と熟く思ふ。

16:00 某古美術商を訪ね、ここ数年で観た神像の中でも最も素晴らしいモノの一つを見せて貰う。もう時代・クオリティとも最高級で、垂涎の作品…当然、値段も最高級。

19:00 友人と日本橋のしゃぶしゃぶ店「Z」に行き座ると、隣の席から「桂屋さん!」と声が…驚いて振り向くと、引退された大古美術商H氏が!相変わらず大柄なH氏はお元気そうで、エネルギッシュで有った。然し僕は人に偶然良く会うなぁ…。


3月2日(金)
11:00 ニューヨークから来日中のスペシャリストや東京の社員と、翌日顧客へ渡すコレクションのセール・プロポーザルの為のミーティング。誰がどのパートを話すか、どのポイントを強調するか等を話し合う。上手く行けば良いが。

19:00 浜離宮朝日ホールに向かい、ピアニスト高橋悠治のリサイタル「余韻と手移り」を聴く。80歳に為ろうとする高橋は矍鑠として居て、弾く前の各曲説明も枯れて居て面白い。最初のバッハ「組曲 ハ短調」はかなり危なっかしかったが、その後の現代系曲の演奏は、その間合いや雰囲気も含めて流石。音楽会タイトル通り、「余韻」を楽しんだ音楽会だった。


3月3日(土)
14:00 チーム全員で顧客宅に向かい、念入りに作ったプロポーザルを基にセールの提案をする。好印象は与えられた気がするが、結果は如何に?


3月4日(日)
13:00 観世能楽堂での「観世会定期能 三月」を観る。この日は能「巴 替装束」、狂言「寝音曲」、仕舞四曲の後、最後は銕之丞師の「西行桜 脇留」。寺井栄師の「巴」は感動的で「寝音曲」は爆笑、そして僕が大好きな「西行桜」は、この時期人の生の儚さを何時も思わせる…良い番組で有った。

17:30 お能を観た後は母親、友人と「K」でお寿司を摘む。人生で初めてお能を観た友人も僕も、良く寝た後の食欲は満点で(笑)、お寿司後の「スーパー・メロン」と「スーパー・ストロベリー」のショートケーキ2つも、3人でペロッと頂く…いとをかし。


3月5日(月)
11:00 香港のマネジメントチームが来日し、夕方迄会議。マネジメントの連中が我々スペシャリストやビジネス・ゲッターに云う事は、言葉をどんなに変えても唯一つ…「良い作品を取って来い」だけだ。自分でやれない事を人に強制するとは、どう云う事だろう(笑)?況してや、馬だってエサをぶら下げなければ走らないのに。


3月6日(火)
19:00 東京・ニューヨークでもう20年近く知っている寿司職人K君が、日本橋蛎殻町に店を出したと聞き、早速ディナーをしに向かう。昔から丁寧な仕事をするK君の寿司は、相変わらず美味しく、お店も品の有る作り。そしてホールをして居た女性が何と無く怪しく(笑)、聞くと矢張り彼女は最近K君と結婚した奥さんで有った!最初に会った時から、ずっと独立する夢を話していたK君のダブルのお目出度は、我が事の様に嬉しい…おめでとう、K君!


3月7日(水)
11:00 千代田区の高級住宅街の顧客を訪ね、作品拝見。老夫人のお父様が僕の大先輩だと知り、打ち解ける。人に縁有り。

13:00 某古美術誌の取材を受ける。色々話して居る内に、自分がこの業界に25年も居る事実に改めて驚くが、然し良く続いたモンだなぁ…(笑)。


3月8日(木)
9:00 朝の芸能ニュースで、北島三郎の次男が51歳で孤独死し、見つかった時は死後1週間経って居た事を知る。親や親しい友人から「初老」と呼ばれて居る54歳の僕は、つい最近も週末朝寝坊して、友人からのラインに数時間連絡しないで居たら、脳梗塞心筋梗塞で死んだとマジ思われたらしく、連絡取れた途端にマジギレされた経験をしたばかりなので(笑)、他人事では無い。

11:00 K大学のN教授を訪ね、或る日本美術作品に関する意見を伺う。非常に勉強に為るお話をご教授頂き、大感謝。その後は大学の博物館を見学させて頂き、バブル時代は大学にもお金が有ったんだなぁ、と感慨深く拝見する。

14:00 東京国際フォーラムで開催される、「アートフェア東京」のVIPヴューイングへ。このフェアは毎年ニューヨークのアジアン・アート・ウィークと重なって居て、観る事が出来なかったので、実は今回が初めて。さて入場はした物の、現代美術と古美術の双方が出店して居るので、僕は顧客や知人とのご挨拶に忙しく、作品が全く見れない。然しイヴェントとしては盛り上がって居り、その点は良かったと思うが、作品の質はイマイチか…。そんな中、会場では芸術選奨を受賞した達さんとバッタリ会い、お祝いを申し上げ、そしてお互いに「俺らが文科省から賞貰ったり、某政府研究会の委員なったりしてる様じゃ、この国も終わりだな!」と軽口を叩く…達さんのこう云う所が僕は大好きなんだ。達さん、これからも頑張って、日本のアート行政の「スクラップ&ビルド」もやっちゃって下さい!


3月9日(金)
12:00 母親と銀座「G」でランチ。昔懐かしいメニュー「ポワブル・ステーキ」が復活したと聞いたので、早速頂く。美味い。

15:00 某婦人誌の特集号の取材を受ける。オークションや美術品が話題になるのは宜しいが、品良く、面白く、身近に伝えるのは何時でも難しい。現代インテリアと古美術の相性の良さに関する本を出したいなぁ。

17:30 アーツ千代田に赴き、「3331 Art Fair」を観る。有楽町とは全く異なる雰囲気の会場と作品は、逆に眼に新しい。佐藤直樹の「その後の『そこで生えている』」や淺井裕介の作品等色々と興味深かったが、一番眼を惹いたのは地下のバンビナートギャラリーで展示されて居た、内藤京平「Poker-Face」展だった。15世紀フランドルの画家、ヤン・ファン・エイクの作中人物の顔だけをトレースし、そこに内藤のドローイングが加えられた作品群は、クラシカル&コンテンポラリー感且つエロティシズムに溢れ、非常に魅力的。

19:00 神田に新しく開店したフレンチビストロ「B」でディナー。此処のシェフはフランス人だが西海岸で長年働いた人で、英語で話せるのが嬉しい。素材を生かした料理も美味しく、カジュアルな雰囲気も好ましい。当日某誌の取材が入って居て、僕の後ろ姿も撮影されました…載るかも(笑)。


3月10日(土)
9:00 朝のニュースで佐川国税庁長官がやっと辞任した事と、近畿財務局担当官が自殺して仕舞った事を知る。1人の命が失われた今、上に立つ各氏は猛省し、今までシラを切り続けてきたツケを絶対に払わねばならない。彼らの不遜な態度もこれっきりだし、官僚も矜持を正し、大阪地検は死に物狂いで奴等を追い詰めねば、遺族に対して申し訳が立たないだろう…「死人の出た『疑惑』は『ホンモノ』」なのだから。また驚くべき米朝間首脳会談のニュースは、米韓朝から日本だけが爪弾きにされている事を明白にした。全く情けない話だが、今の日本の内閣はそんなモンなのだ。嗚呼、出るのは溜息ばかり…そして我が国の政治・官僚の質は低下するばかりだ。国民の税金で食って居るのにメモに書いた同じ答えを繰り返し、国民に対して全く説明責任を果たさず、不遜な態度で会見に臨むしか能がない連中は、恥を知るべきだ。然し「官僚」と云う人種が佐川氏に代表されるなら、東大→財務省と云う典型的な官僚の人生の道筋に、我々の税金が使われたかと思うと、心底腹が立つ。

14:00 テラダ・アート・コンプレックスで開催中の、「Asian Art Award 2018」のファイナリスト展へ。特別賞を受賞したAki Inomataさんの展示が最も素晴らしく、特に「やどかりに『やど』をわたしてみる」の水槽作品が美し過ぎて、欲しく為る。

15:30 乃木坂のギャラリー間で開催中の展覧会、「en [縁]:アート・オブ・ネクサス 第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本帰国展」を観る。非常に興味深い展覧会だったが、建築素人の僕からすると、例えばレンゾ・ピアノやジャン・ヌーヴェル、亡くなったザハの様なスケール感の有る建築家が日本には居ないなぁ、と感じて仕舞う。敢えて云えば安藤忠雄がそうかも知れないが、それでもスケール感は海外の建築家に敵わない気がするし、ビエンナーレの展示としても何かコマコマして居る気がするのは僕だけだろうか?

17:00 小説家H氏と待ち合わせ、再び「アートフェア東京」へ。今一度作品を観て歩くが、ピンと来るモノは無い。古美術では何故か縄文ブームで、複数店が扱って居たのが不思議。

19:00 六本木の中華「K」で、H氏と食事。相変わらず美味スグル、大好物の胡麻平麺や蒸し豚薬膳ソース、海老の辛味ソースやキャベツ味噌炒め、マコモダケや鳥唐等の料理を、男2人で次々と平らげる。至福のひと時でした!


そして今日は3・11…記憶は日々風化して行くが、9・11と共に鎮魂の気持ちを忘れない。森友や加計問題、そして東北復興よりもオリンピックを優先する現政府等、潰れて仕舞えばいい。

我が国の政府の「スクラップ&ビルド」…シン・ゴジラの登場を心待ちにする。


ーお知らせー
*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

大和屋、ラフマニノフ、六地蔵と、人生の無常と。

今僕はメインの仕事の他に美大客員教授、また日本文化系財団・学会等の理事を3つ程やらせて頂いて居るのだが、最近もう一つ新しくも興味深いお仕事が…。

それは某官庁から仰せ付かった、政府制度研究会の委員。初会合にお邪魔すると、僕以外には大学教授や法律家、美術館学芸員、画商、金融関係者の方々が委員と為って居るし、会合にはもちろん政府の方々も出席されて居て、未だに「何故僕が?」感が否めないのだが、その新しい制度の内容は重要且つ興味深いモノなので、ちょっと頑張ろうかなとも思っている…が、基本的には僕は制度破壊を目指して居る人間なので悪しからず、なので有る(笑)。

さてピョンチャン・オリンピックも終盤に入り、日頃スポーツ観戦をしない僕でも、スピード&フィギュア・スケートやカーリング等の中継時にはテレビに釘付けに為って居るのだが(然しオリンピックのお陰で、眞子様の結婚の儀延期の話題が世間から掻き消された…これも政府の手だっんだたろう)、或る事がずっと腑に落ちないで居るので、今日はその事から。

それは男子モーグルで銅メダルを獲った、原大智選手のコーチの事。原選手の銅メダルは日本男子モーグル界史上初と云う事で本当に素晴らしく、彼に関しては何の文句も無い。また、彼を13歳から指導しながら4年前に27歳と云う若さで惜しくも急逝した、平子コーチとの約束を果たしたと云う話も美しい…が、メディアではこの平子コーチの事ばかりが取り上げられて、平子氏亡き後原選手を4年間指導し、メダリストへと導いた筈のコーチの事に誰も触れていない気がするのは、僕だけだろうか?

人間が出来ていない僕がそのコーチだったら、「原選手を此処まで育てたのは、『平子コーチと俺』なんだぞ!」と叫んで居るのではと無いか。シニカルな様だが、日本人は所謂お涙頂戴的な「美談」好きだから仕方ない。だが、いみじくもスピード・スケートの小平選手の金メダル決定後のインタビューで、「コーチと二人三脚で獲りましたね」と云うインタビュアーの問い掛けに、小平選手は「コーチとの二人三脚では無くて、チーム全員と頑張った」と敢えて訂正して答えて居た事を鑑みると、メディアが考えがちな「ネタになる話題」報道には、僕等も踊らされてはいけない気がするので有る。誰か原選手の「直近のコーチ」の事も教えて下さい!

てな感じの今日この頃だが、此処からが本題…今回も最近僕が体験して来た藝術の覚書を、メモ形式で。


ー舞台ー
・「歌舞伎座百三十年 二月大歌舞伎 夜の部」@歌舞伎座:先月に引き続き、高麗屋三代の襲名披露公演へ。歌舞伎座は団体客でごった返していたが、ロビーでは現代美術コレクターY氏や、友人の化粧品会社CDのT氏夫妻、顧客C氏等に遭遇。然し驚いたのは、何と緞帳が「草間彌生」に為って居た事で、然も作品は「富士山」等では無く、恐らくは初期の抽象絵画を3点配置した物…歌舞伎座に現代美術の緞帳が掛かる事自体には異論は無いが(寧ろ望ましい)、この作風は似合わない。緞帳って、誰がどう云う基準で決めているのだろう?さて今月の夜の部は、お馴染み「熊谷陣屋」「壽三代歌舞伎賑 木挽町芝居前」「仮名手本忠臣蔵 一力茶屋」の三狂言。「熊谷陣屋」は新幸四郎が頑張るが、矢張り声と台詞廻しが未だ未だで、5年前の吉右衛門の舞台で号泣した僕には物足りない。が、脇を固める魁春左團次菊五郎が素晴らしかったので、どうにかこうにか。幕間には久し振りに隣の「B」に出向いて「日之影栗のプリン」を頂き、相変わらずの旨さに悶絶する。このプリンはここ数年食べた如何なるマロンちゃんの中でも、未だにベスト3に入って居るのだ。次の襲名公演で良く掛かる幹部総出演の華やかな「木挽町芝居前」では、こう云っちゃあ何だが、芝居に集中せずにキョロキョロしたり、ダルそうにして居た海老蔵の悪い態度が目立って、周りの幹部連中がキチンとして居るだけに、折角の祝言の舞台の上であんな態度が許されるのか?とイラ付く。そして「一力茶屋」…これはもう松嶋屋と大和屋の2人の美しくも軽妙な演技が超素晴らしく、それに新白鸚の重さが加わった素晴らしい舞台。この平右衛門・お軽の役は、偶数日は海老蔵菊之助のコンビに変わるのだが、先に此方を観て仕舞うとどうだろう?夕飯は歌舞伎座帰り恒例の寿司屋「M」へ…減らず口を叩きながらの寿司は、幸せスグル。

・「面影」@国立能楽堂:フランスの詩人ポール・クローデルの作品、「女とその影」を原作とする新作能金剛流宗家金剛永謹師がシテの先妻の霊を、家元後嗣の龍謹師がツレの後妻を演じる。そして「清経」の小書で良く知られる笛の「恋之音取」で幕を開けるこの新作能は、詩情溢れる「蝋燭能」として上演されたのだが、実はこの「女とその影」は大正12(1923)年3月に帝劇に於いて、五代目中村福助主宰の「羽衣会」にて上演された事が有って、その時は柞尾佐吉作曲、鏑木清方が装置と衣装を担当すると云う豪華版だったらしい。これも何とも観たかった舞台だが、今回の金剛宗家の舞も成る程素晴らしく、夢幻能として完成度の高い新作能と為って居た。

・「松風」@新国立劇場新国立劇場開場20周年記念公演で有る本舞台は、観阿弥世阿弥作の能「松風」をオリジナルとした作品で、細川俊夫作曲、サシャ・ヴァルツの演出・振付。本公演は日本初演だが、実は僕はこの舞台を2013年にニューヨークで観て居て、その時の演出家は今回のヴァルツでは無かったのだが、纏まりが無く曖昧模糊として居て、辟易とした思い出が有った。なので、今回少しばかりの期待をして行ったのだが、残念ながら感想は変わらず、と云うのが本心。僕に取っての一番の疑問は、何故思い切った時代・役柄・物語の改変をしないのかと云う事で、成立後500年以上経ち、その長い年月の間シェイプされ続け、ミニマライズされ続けた最高級の芸術作品を改変するに当たり、 あの舞台で「ユキヒラ〜」と外人に歌われても違和感が有り過ぎるし、単に怪談若しくは亡霊譚に思えて仕舞う仕舞うストーリー、「武満っぽさ」から脱皮出来切れない音楽、散漫に見えて仕舞ったダンス・演出の一体感の無さは、再び僕を眠りへと誘ったのだった。異論が有れば、是非。


ー音楽ー
・「読売交響楽団 feat.ニコライ・ルガンスキー」@サントリー・ホール:読響の名誉指揮者、ユーリ・テミルカーノフ指揮、ピアノにチャイコフスキー・コンクール最高位のルガンスキーをフィーチャーした音楽会。この晩のプログラムは、チャイコの「幻想曲『フランチェスカ・ダ・リミニ」、ラフマニノフの「パガニーニ狂詩曲」、ラヴェル組曲クープランの墓』」、そしてレスピーギ交響詩『ローマの松』」。オーケストラの出来はそれなりだったが、ルガンスキーのピアノにはラフマニノフの曲の演奏に必要な微妙な「タメ」が有り、余りにもラフマニノフ向きで嬉しく為る。会場では、音楽バーを持つコレクターS氏にもバッタリ。


ー展覧会ー
・「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」@サントリー美術館寛永年間の京都芸術文化にスポットを当てた展覧会。遠州の「綺麗さび」に代表される瀟洒なアートを生んだ寛永文化は、公家や武士、町人の中でボーダーレスに成長する。その展覧会中の個人的白眉は、矢張り小井戸茶碗「六地蔵」と膳所光悦、そして「朝儀図屏風」(然し、何故この屏風が裏千家に在るのだろう?)で、特に「六地蔵」は矢張り僕が「老僧」と共に、一生に一度で良いからお茶を飲んでみたい逸品だ!…と思って居た矢先、下の階の展示室前で笑いながら手を振る集団が。最初、手を振られて居るのは僕ではないと思い、辺りを見回して見たが、どうも皆様僕に向かって手を振って居られる様で、良く見ると某美術館館長と学芸員の方々がサントリー学芸員の方といらっしゃる。ご挨拶すると「丁度孫一さんの話が出てたんですよ!『六地蔵』お好きなんだろうなぁ…ってね」と仰る…噂をすれば、影(笑)。

・「ポートレイツ」@Maho Kubota Gallery:オピー等7人のアーティストの「ポートレイト」作品を集めた展覧会。僕は個人的にポートレイトが好きで、自分が偶に買う現代美術作品も何故か広い意味でのポートレイトが多いのだが、今回の展覧会では、武田鉄平の「一見『厚塗り』に見えるが、実作を観ると実は写真の様にしか見えない程『薄塗り』な絵画」が面白い。

・「色絵 Japan CUTE!」@出光美術館:江戸期の色絵磁器を中心に構成された展覧会で、鍋島、古九谷、柿右衛門、仁清、デルフトやマイセン迄、名品を堪能出来る。ファッション性溢れる色絵磁器の中でも、僕は古九谷が好きで、今回も驚くべきデザインの数々に驚嘆。本展を観ると、日本の美術は「デコラティヴ&ミニマル」の両輪の上に成り立って居るのだと、熟く思う。

束芋「ズンテントンチンシャン」@Gallery Kido Press:現代美術家束芋の、初の銅版画展。この奇妙な展覧会タイトルは口三味線の表現らしいが、そもそも本展の作品は朝日新聞に連載された吉田修一の小説、「国宝」の挿絵が元に為って居るらしい。作品中には文楽岡本太郎太陽の塔等も登場する。お値段もお手頃で、一寸欲しい作品も有った(笑)。

奈良美智「Drawings: 1988-2018 Last 30 years」@Kaikai Kiki Gallery:何と、村上隆奈良美智のレップと為る第1回展。高天井の壁面と透明ガラスのデスクに、膨大な数のドローイングがクロノロジカルに並べられる。その作品群は、奈良がそれこそ真のアーティストだと云う事を証明すると共に、特に初期作品の素晴らしさは、プロトタイプと為る前の初々しさを際立たせて居て、僕は感動すら覚えたのだが、然し小山さんの事を考えずには居られなかったのも事実…色々な意味で興味深い展覧会だ。

・住山洋「Sea of Tranquility」@Books & Sons:現代美術家杉本博司に師事し、長年ニューヨークで活動して来た写真家の展覧会。住山のソフトフォーカスな暖かい写真は、観る者を自然へと引き込む。フィルムケースを使った自作ピンホール・キャメラも展示される、作家の温もりを感じる本展、会場の「Books & Sons」も良い意味で日本らしくないスペースなので、是非一度訪れて頂きたい。

・「仁清と乾山ー京のやきものと絵画」@岡田美術館:久し振りに訪れた箱根岡田美術館では、仁清と乾山を中心に、琳派絵画や若冲迄も含めての展覧。が、驚いたのは最上階仏教美術の部屋に入った途端、見覚えの有る仁王像一対が眼に入った時だった。「嗚呼、此処に入ったのか!良かった」と、大変御世話に為った元のオーナーの事を感慨深く思い返して居たのだが、その2日後にまさかそのオーナー氏の逝去を某レストランで知らされるとは…美術品は時に人生の無常を予言する。

・鈴木康広「始まりの庭」@彫刻の森美術館:自然現象を巧みに活かした、現代美術&デザインの展覧会。水滴が彫刻に為り、彫刻の「上」は「下」に為り、メトロノームの音すらアートに為る。鈴木の或る意味ユーモラスな「軽さを測る天秤」や「空気の人」等は、自然とアートの関係性と親和性を改めて「楽しく」考えさせられた作品だった。

会田誠「Ground No Plan」@表参道ダイヤモンドビル:2年に1度開催される、大林財団の新しい助成プログラム「都市のヴィジョン」の第一回。現代美術家会田誠が考える都市・国土を、マルチ・メディウムで表現するが、正直アートの展覧会と云うよりは、アイディア展に近いと思う。

・Hernan Bas「Imsects from Abroad」@ペロタン東京:アメリカ人アーティスト、バスの作品中の人物は何処かエゴン・シーレを思わせるし、風景は例えばラファエル前派の作家ミレイの「オフィーリア」やモネの「睡蓮」を感じさせる…が、決して剽窃や模倣に留まって居る訳では無く、現代的頽廃感を上手く表現して居る作品だと思う。ちょっと欲しく為ったが、怖くて値段が聞けない(笑)。

・「日本陶磁協会賞受賞作家展ー和のこころ 愉しむうつわ」@和光ホール:日本陶磁協会賞を受賞した重松あゆみと伊藤慶二の作品を中心に、歴代の受賞作家43名と「現代陶芸奨励賞」の福井・富山展受賞作家6名に拠る展覧会。来年引退をする予定の楽吉左衛門の黒茶碗から、手頃な酒器迄「愉しむ」焼物が揃う。会場では先日「陶説」でインタビューをして頂いた事務局長のM氏にばったりお会いしたが、氏のハード・ワーク無くしてはこう云った陶磁協会の展覧会も実現しないに違いない。手元で楽しむ陶磁器を、もっと身近にしたいと云う想いを同じくする。


さて年を取ると必然的に多くなるのが、お世話に為った方々のお葬式やお別れ会…最近も、親戚筋の冨士屋ホテル最後の創業家からの総支配人山口祐司氏、また公私共に大変お世話になったサンモトヤマ会長の茂登山長市郎氏のお別れ会に参列。

特に96歳で大往生された茂登山氏は、本当に豪快な方で、僕がニューヨークから日本に出張に来ていた時、銀座界隈の道端でばったり会って仕舞ったりすると「こらっ!日本に来たら必ず連絡しろっ!」と笑顔で怒鳴られ、数え切れない位鰻や洋食をご馳走して頂いた。

僕みたいな風来坊的若造にも、分け隔て無くフランクに接して呉れた懐の大きさは、氏の180cmを超える体格と共に、多くの人々を暖かく包んで呉れて居たに違いない…偉大なる「ハクライ屋」茂登山氏のご冥福を、心からお祈り致します。


明日明後日は、毎年恒例の人間ドック…はてさてどうなる事やら。


PS:先程、ニューヨーク禅堂の嶋野老師が名古屋で客死されたとの連絡を受けた。老師のご冥福をお祈り致します。


ーお知らせー
*生活の友社刊「月刊アートコレクターズ」2月号(→http://www.tomosha.com/collectors/9235)にて、ショート・インタビューが掲載されて居ります。ご一読下さい。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

不感症、神の法、森、そして幻の女。

最近の僕は、風邪気味では有っても、僕独自の「インターステラー理論」の実践に因って、時の流れをゆっくりとさせ、周りを見渡す時間を作る事に専念する。

そして、その実践は仕事に於いても芸術鑑賞に於いても然り…と云う事で、今日は最近の体験芸術一覧。


ー舞台ー
・「Noh Climax」@セルリアンタワー能楽堂現代美術家杉本博司の企画・監修、亀井広忠演出・囃子作調の本舞台は、元来パリでの公演企画だったらしいが、そのパリの劇場の改修工事の延期に拠り、当公演が初演と為った謂わば能の「ダイジェスト・メドレー」。登場するシテ方観世流から坂口貴信(善知鳥)、谷本健吾(屋島)と鵜澤光(羽衣)、喜多流から大島輝久(舞働・祈)と大島衣恵(猩々乱)。さて場内に入ると、舞台の松羽目は斜めに置かれた杉本作の「松林図屏風」一双で隠され、舞台中央には面箱が1つ置かれる。開演すると、先ずは屏風裏からの「翁」の居囃子が謡われ、その後杉本氏が登場して本公演の説明と自身のコレクション中の各面の説明をする。「翁面」の原型とも云われる「父尉」は古様を呈し、鎌倉期と云われれば成る程と思える。またこの日は使われなかった「万媚」は、その名に相応しくかなり艶っぽい面で中々良い面だったが、「真蛇」は実際に「舞働」で観るとかなり大きく、所謂「般若」や「蛇」とは異なる作りで、「これは本当に能面か?」と思った程。そして舞台は、休憩を挟んでの3曲と2曲がダイジェスト・メドレーと為って居て、囃子方はその間休まず、シテだけが入れ替わると云う演出で新しい…これなら杉本氏の云う通り、「寝る客」も少ないだろう(笑)。また後半は「松林図屏風」が土佐派系の絵師進藤尚郁の金地「松図屏風」と変わり、それも一興だったが、女流能楽師が特に羽衣を舞うと興が削がれて仕舞ふ気がするのは、何故だろう?最初小鼓の音が全く出て居らず心配したが、亀井広忠師の流石の大鼓にリードされた囃子はテンポ良く、能の新しい流れを創り出したと感じた、素晴らしい公演だった。然し杉本氏のステイトメント、「No Climax=不感症」とはこれ如何に(笑)。

・「アンチゴーヌ」@新国立劇場小劇場:主演は蒼井優生瀬勝久、原作は古代ギリシャ三大悲劇詩人ソフォクレスの「テーバイ三作」の一である本作を翻案したジャン・アヌイ(ピーター・オトゥールリチャード・バートンの名作映画「ベケット」の原作者だ!)。舞台は劇場中央に十字架の形に造られ、セットも椅子2脚だけが置かれ、蓋をされた奈落が中央に在るだけのミニマルなモノ。そして2時間10分の休憩無しのこの作品は僕を全く飽きさせず、蒼井と生瀬の熱演が「『神の法』と『人間の法』の対立」と云うテーマを鮮明且つ重厚に浮き立たせて観客を引きずり込む、誠に素晴らしい舞台で有った。それにしても蒼井優と云う女優は、こう云った役が似合うし上手い…恐らく本人もこの役が大好きに違いない。栗山民也の演出も見処。

・「新春歌舞伎公演・昼の部」@新橋演舞場高麗屋三代の襲名を歌舞伎座で観た後は、正月恒例の「にらみ」を観る為に演舞場へ。先ずは獅童宙乗りを務める「天竺徳兵衛韓噺」…此方は見世物的な内容だが、飽きさせない。獅童は台詞廻しが相変わらずで少々残念だが、体調も戻った様で悦ばしい。さて本劇中、獅童が「ライザップ、ライザップ」と連呼して居て、その時は一体何の事か訳が分からなかったのだが、翌日偶々テレビを観て居たら、ライザップのコマーシャルに何と市川九團次が出て居るでは無いか!そして「嗚呼、この事だったか!」と得心…高島屋さん、結果にコミットしてました(笑)。続くは初春恒例、成田屋の「口上」&にらみ。睨んで貰って、今年一年の健康祈念する。最後は九世團十郎生誕百八十年記念の復活上演、新歌舞伎十八番内「鎌倉八幡宮静の法楽舞」。此方は海老蔵が7役を演じるのも話題だが、個人的見処は、それよりも河東節・常磐津・清元・竹本・長唄箏曲迄入った音楽で、「邦楽リミックス」的聞き応えが抜群だった。


ー映画ー
・「ノクターナル・アニマルズ」:傑作「シングルマン」でデビューした、ファッション・デザイナーでクリエイティヴ・ディレクターのトム・フォードの監督第2作で、第73回ヴェネチア国際映画祭審査員大賞作。原作はオースティン・ライトのミステリー、主演は僕の大好きなエイミー・アダムスとジェイク・ジレンホールで、かなり良く出来た心理サスペンスドラマだった。主人公が現代美術のディーラーなので、映画の冒頭では見た事の有る作家の作品が幾つも登場するが、彼女が企画した太った女をフィーチャーしたイヴェントは、恐らくはこれも僕の大好きな英国人アーティスト、ジェニー・サヴィルの作品がモティーフでは無いかと思う。然し、この作品に観るフォードの美意識は崇高で、これは「シングルマン」でもそうだったが、画面に映る家具の一点一点、小道具、カット割、照明、ファッション、ストーリー・テリング、その全てが張り詰めた極細の糸の様に洗練されて居る為、観る者は疲弊し怖くなる。が、それよりも恐ろしいのは「男の復讐心」で、これはゲイで有るフォードならではの視点かも知れない。皆さん、女に捨てられた男の復讐は本当に恐ろしいですよ…ご注意あそばせ(笑)。


ー展覧会ー
・特別展「仁和寺と御室派のみほとけー天平真言密教の名宝ー」@東博:最近の東博は気合が入って居て、運慶展に続くこの特別展も仏教美術の至宝で溢れる。僕はオープニングに行った為、今回の超目玉で有る葛井寺の「千手観音像坐像」は未だ観れて居ないのだが、素晴らしい作行の道明寺の十一面観世音立像や中山寺馬頭観音坐像、非常に変わった造りの神呪寺(然しスゴい名の寺だ…笑)の如意輪観音坐像、個人的に観たかった仁和寺蔵の垂迹美術の名宝「僧形八幡影向図」等、大名品揃いで眼福の極み。序でにこの日は、開幕式で超目利仏教美術商のT氏にバッタリ会い、一緒に歩いて話を伺いながら展覧会を拝見する事が出来た、眼も頭も大変勉強に為った至福の時間と為りました。必見の本展、千手観音像が出たらまた行かねば!

・「開館20周年記念展I 細見美術館の江戸絵画 はじまりは伊藤若冲」@細見美術館:京都に或る屏風を観に行った合間に拝見。ここ数年の若冲の大ブームは、当然プライス夫妻コレクションに拠る処が大きいのだが、当然日本にも若冲のコレクターは居て、その筆頭が細見美術館前館長の故細見実氏で有った。細見コレクション中の白眉若冲は、30代半ばから後半の作と思われる2作品で、それは未だ景和落款の「雪中雄鶏図」と「糸瓜群蟲図」で、両作品とも中国絵画の影響を強く受けた、謂わば「プレ動植綵絵」。その他にも押絵貼屏風や禅僧に拠る画賛作品、若演等の弟子筋の作品も多く展示され、筋目描きや外隈等の技法も解説される、楽しい展覧会だ。

・「墨と金ー狩野派の絵画ー」@根津美術館狩野派の絵画作品を「墨」と「金」をキーワードに見直す企画展。作品は雪舟や元信、山雪から探幽、久隅守景迄バラエティに富むが、見処は矢張り芸阿弥の重文「観瀑図」と伝元信「養蚕機織図屏風」か。「犬追物図屏風」は風俗画題の中でも、外国でポピュラーな画題だが、最近は動物虐待を連想させるからか、余り人気が無い(涙)。

・「マイク・ケリー展 デイ・イズ・ダーン」@ワタリウム美術館:57歳でこの世を去った、「裏ポップアーティスト」の展覧会。ケリーはマイノリティに対する差別やセックス、暴力等の社会的問題を時に可笑しく、時に皮肉タップリに作品を作った、ニューヨーク・タイムズに「過去25年間で最もアメリカ美術に影響を与えた芸術家の1人で、アメリカに於ける大衆文化と若者文化の代弁者」と評された、クレイジー・アーティスト。3フロアの会場にはビデオ作品、インスタレーション、コラージュ等の平面作品で溢れているので、時間をタップリ取って訪れたい。展覧会タイトル作の「Day is Done」はケリーが1日1つの映像を作り、1年間で365と為る筈だったマルチ・メディア作品なのだが、実際は31作品しか完成せず、然しその全てをこの展覧会で観る事が出来るので、必見…然しこの作品が2005年に発表されたのが、ロンドン・ガゴシアンだったと云う事に、僕は興味を惹かれる。個人的には初期作品の「エクトプラズム #1-#4」や「チキンダンス」が良かった。

上田義彦「Forest 印象と記憶 1989-2017」@Gallery 916:天井高も広さも凄い、上田氏自身がキュレートするこの素晴らしい環境のギャラリーも、ビル自体が取り壊される事と為った為、本展が最後の展覧会…余りに残念過ぎる。さてその最後を飾るのは、上田氏が28年間撮り続けたQuinault、屋久島、春日大社の「森」で、会場は東京の湾岸とは思えない程のマイナスイオンに充たされて居る。僕は嘗て、氏の屋久島の作品を観て、彼の地へと旅をした。そして其処の森で観た生命の息吹と力強さ、生と死と云う命の循環の尊さは、今でも僕の心の奥底に「忘れがちな宝物」として大切に仕舞って有るのだが、この展覧会は改めてその宝物の存在を再確認したくさせる。特に新作の春日大社の森は、僕の心に如何に「森」が必要かと問い掛ける…そう、心に「森」を持ち続ける事が肝要なのだ。


そんな中、或る音楽家から「以前観た日本画の内容が余りに美し過ぎて覚えて居るのだが、画題が思い出せない…知らないか?」との連絡が有った。

その内容は「男が梅の木の下で、花の美しさに感動して歌を詠むと、美しい女が現れて歌を詠み、其の内に2人は歌を交し、酒を飲み、契りを交わすが、いつの間にか寝て仕舞う。翌朝男が木の下で起きると、女は消えていて、それは花の精だった…」と云う。

僕は色々探してみたのだが、見付からないで居ると、彼から「分かった」と連絡が有った。それは信濃を舞台にした日本の怪談の一噺だったが、元はどうも中国唐代の詩人崔護の「人面桃花」らしい。


去年今日此門中     
人面桃花相映紅     
人面不知何處去     
桃花依舊笑春風     


愛のキューピッドとしても名高い、音楽家の彼らしいロマンティックな話だったが、気が付けば1月ももう終わり…節分がやって来る。然し今年は時間の経過が遅い。


ーお知らせー
*生活の友社刊「月刊アートコレクターズ」2月号(→http://www.tomosha.com/collectors/9235)にて、ショート・インタビューが掲載されて居ります。ご一読下さい。

*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

夢のあとに。

1月6日(土)
15:00 原美術館に行き、この日から始まった展覧会「現代美術に魅せられてー原俊夫による原美術館コレクション展」を観る。館のW女史に拠ると、本展は80歳を超えても尚お元気な原館長が、50年代以降集めた約1000点の収蔵品の中から、館長自らが作品選定・キュレーションをした展覧会との事。その前期にはロスコや李禹煥草間彌生の素晴らしいインスタレーション「自己消滅」や杉本博司の「仏の海」の一部屋等が展示され、見応え充分。国宝をも持つ古美術コレクターの家に生まれた館長が、自身の世代に自身の眼で集めた戦後・現代美術に「コレクターの眼」の真髄を感じられる、後期も待ち遠しい展覧会だ。

19:00 サントリーホールで行われた、テナー歌手ヨナス・カウフマンのコンサートへ。会場では茶道家元や美術史家の方々にもご挨拶したが、席には空席も。コンサートはオーケストラの演奏とカウフマンのアリアが交互に行われる形式で、少々間延び感が有った事を否めないが、カウフマンは歌う度に声も出て来て、流石に素晴らしい。そして「誰も寝てはならぬ」を歌い終えたカウフマンは、その後何と6曲のアンコールに応え、最後の数曲は僕も涙する程感動しました!

21:30 コンサート後は「A」で食事…季節の素材を生かしたイタリアンを堪能するが、特に食前に飲んだ「とちおとめ」のフレッシュ・ジュースが大変な美味で、一気にその日の疲れが吹っ飛ぶ。嗚呼、四季有る日本の料理は世界一だ。


1月7日(日)
11:00 別に出世を望んで居る訳でも無かったが、「出世の神様」と呼ばれる愛宕神社を参拝する。標高27.7mに在る、東京23区内では「最高峰の山」へと登る「出世の石段」は、下から見るとかなり急で、芸能界の人等はこれを駆け上ると出世すると云う謂れも有ると聞く。そして「大丈夫か、俺?」と不安を抱えつつも、勿論駆け上がるのは不可能で普通に歩いて登ったのだが、特に大きく息も切れず登り切れて一安心…俺、未だイケるわ(笑)。その後はオニの様に長い行列に並んで参拝を終え、御神籤を引くと何と大吉…コイツは春から縁起がええわえ!

19:30 六本木の蕎麦屋「H」での、某美術館学芸員T女史を顕彰する「T会」新年会に参加。今回のメンバーはT女史、大手アート・ディーラーO氏らの総勢6人。「H」は嘗てニューヨークのソーホーに在った時に良くお邪魔していた店で、個性的な店主さんが有名。楽しい面子で新年を言祝ぎました。

22:30 そしてこの晩は、実は新年会がもう1つ…と云う訳で、中目黒に移動。其処で待って居たのは、仲の良い現代美術家N氏とK氏、K氏マネージャーのA女史と建築家I氏。新年早々の良い知らせを皆に伝えると、大盛り上がりで寒さも吹き飛ぶ。今年は皆にも良い事が有ります様に!


1月8日(月:成人の日)
9:00 一体何時から成人の日は、1月15日では無くなって仕舞ったのだろうか?…連休だから、まぁいいけど(笑)。

16:30 母、弟夫妻と共に歌舞伎座へ向かい、高麗屋三代の襲名公演「壽初春大歌舞伎」夜の部を観る。今月の狂言は「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場」、「口上」、「勧進帳」、そして「相生獅子・三人形」。最初の「角力場」は、或る意味非常にタイムリーな演し物だが(笑)、芝翫愛之助双方共上手く楽しめる。「口上」では左團次等が、高麗屋三代が通い、また僕の母校でも有る暁星小学校の級長の話を持ち出して、客席を沸かせる。新白鸚は級長だったらしいのだが、僕も万年副級長だったので、制服の肩に縫い付ける金糸の腕章を懐かしく思い出した。幕間には皆で上階の「K」でお弁当を頂く。お能もそうだが、歌舞伎も幕間が短か過ぎて満足に食事が出来ない…何とか為らない物か?が、「K」のお弁当は流石美味しく、偶々隣にの席には米国人日本文化研究者のR先生が居らして、新年のご挨拶も。幕間後の目玉の「勧進帳」は、新幸四郎の力が入り過ぎて居て、観る方もかなり疲れる。また弁慶の知的部分が見受けられ無かったのが、少々残念…何しろ幸四郎もこれから、これから。そんな中、余りにも立派な大播磨の冨樫と新染五郎の凛とした姿、芝翫愛之助の山伏は見応え充分で有った。最後の舞踊は、鴈治郎が口をほんの少し開けて踊るのが、何時も気に為って仕舞ったが、又五郎が抜群に上手かった。


1月9日(火)
9:00 朝イチから香港と電話会議。課題山積…今年も色々有るんだろうなぁ。

10:30 香港の上司とのサシの電話会議。プライヴェート・セールに関しては良いニュースが…コトヨロです。

12:00 現在某有名週刊誌で連載中の小説の主人公でも有るIT会社のCEO氏と、都内ホテルの天麩羅屋「Y」で会食。余りの多忙さに太られ、食後に数種類の薬を飲まれる氏を心配する…。が、それに付けても此処の天麩羅の美味さよ(笑)。

19:00 六本木「K」でディナー。K夫妻がやって居る古き良き上海のカフェ風の「K」の胡麻平麺は、余りに絶品で思わずお代わりをして仕舞ふ程。キャベツの海老味噌炒めやスペアリブも絶品で、堪らない。


1月10日(水)
12:00 銀座「N」で某美術館関係者とランチをし、或るプロジェクトに関して相談する。食事は何時ものハンバーグ・ランチ…相変わらず、旨し。


1月11日(木)
18:30 九段下の「M」で開かれたIT会社CEOのK氏が主宰する政経塾で、日本美術と日本文化に就いて、90分間講演する。聴講者は政財界や官僚等総勢40人で、「真の国際人とは、自国の文化を正確に外国人に伝えられる人の事」「美術品は文化交流大使」「伝統は革新の連続」等の話を熱心に聴いて頂く。その後はブッフェ形式の会食だったが、質問者に取り囲まれた為余り食べられなかったのが悔しい(涙)。


1月12日(金)
10:30 香港のプライヴェート・セールズ・マネジャーと電話会議。目下僕が手掛けて居る、3つのプロジェクトに関して話す。これ等が完結すれば、この世界での僕のキャリアも終わりに近付く気がする。

19:00 某出版社の方と原宿「M」で会食。実は僕はこの方に、25年程前にお会いして居たらしいのだが、全く覚えて居らず、恥ずかしい思いをする。白子の天麩羅や鴨の厚切り焼、マグロアボカド山かけを頂き、最後はせいろそばでシメ。将来何か仕事に為れば良いのだが…。


1月13日(土)
10:30 今日の午後、今年初めて伺う弓の先生にお渡しする為のお年賀を買いに、日本橋三越へ。地下鉄で行ってみると、開店2分前だったが、地下入り口の前には凄い数の人が。入って見ると、先着順にチューリップの無料プレゼントをして居たので、納得…時間が有れば僕も並んだのに!お年賀には、たねやのお菓子を買う。

13:00 今年初めての弓のお稽古。暫くサボって居たので身体も言う事を聞かず、構えもキツく、直ぐに股関節が痛く為る。その上ただで寒い弓道場なのに、シングル・ディジットの気温の中長袖のシャツを忘れた為の半袖の道着、袴の下は股引も履か無かった為、足袋を履いた足も感覚が無く為る程に寒い。そして清廉な空気の中、久し振りに巻藁に居る弓は時に落ち、構えはぶれ、儘為らない…然し、この歳で物事を習うと云うのは、何と素晴らしい事なのだろう!

17:00 弓道場を後にし、電車を乗り継いで、青山のカフェ「T」へ。此処ではパリ在住フォトグラファーのS氏から、世界のファッション業界四方山話を聞く。この「T」には初めて来たのだが、流石「和」の店らしいメニューが並んで居たので、僕は餡入りココアを選び、冷え切った身体を温める。嗚呼、ブルータスの「あんこ好き。」特集が懐かしい(→拙ダイアリー:「『アート』より『あんこ』」参照)。

21:00 家に戻り、もう何度目かも分からない程大好きな川端の「眠れる美女」を読みながら、フレデリカ・フォン・シュターデフォーレ名歌曲集を聴く。僕はフォーレの「夢のあとに」が大好きなのだが、この「夢のあとに」はパリ音楽院でのフォーレの同僚、ロマン・ビュシーヌの詩に曲を付けた作品。ビュシーヌの詩も素晴らしいのだが、それにも況してフォーレの曲がこの上なく美しく、儚い…そう「人の夢」と書いて「儚い」と読むのだ。


夢は醒めない方が良いかも知れないが、人の夢は醒める…儚さの美しさを知る為に。そして再び夢を見続ける…醒めない夢に出会う為に。


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「過ぎ去った青春の残り香」の力。

12月26日(火)
12:00 某ホテルの寿司店「K」で、母と従姉妹の娘(これを「従姉妹半」と呼ぶのか?)とランチ。相変わらず光物から注文を始めるが、海胆の段に為ると、板さんが今日はバフンウニとムラサキウニが有ると云う。バフンウニは「馬糞海胆」と書く様に、当然見た目が「馬糞」に似ている為の呼び名だが、この馬糞と云う名称を変える動きが有ると云う。馬糞海胆を「赤海胆」、紫海胆を「白海胆」と呼ぶ方向らしいが、これは例えば東京神田の由緒有る地名がドンドン減り、「東西南北」を頭に付けたりして単に分かり易くする為だけの土地名変更に酷似して居る。全く世の中「由来」とか「情緒」とか、「歴史」を何だと心得ているのだろう?


12月27日(水)
10:00 二代に渡ってお付き合いの有る歯科医院で、今年最後の歯のチェック。この歯科医院は、嘗てふと気が付くと皇族のメンバーや政治家、或いは古典芸能の役者等の顔が見えた、知る人ぞ知る歯医者さん。数年前に残念ながらご逝去されたこの歯科医院の先代は稀に見る美男子で、一緒に神楽坂の石畳を歩いて居ると、何処からとも無く粋で鯔背な女性達が出て来て、「あらセンセ、今日はウチに寄って呉れないんですか?」と聞かれる事数限り無かった事が思い出される。当代の若先生が僕と年が近く、共通の友人も多くて、気安い。此処なら嫌な歯のクリーニングも、我慢出来様モノだ。

11:30 部屋の大掃除。元来掃除好きの僕だが、この部屋を1人でやるのはかなり大変…然し部屋に対する7月以来の感謝を込めて、頑張る。

16:00 青山の「誰もして居ない時計」店に向かい、予々欲しくて仕方の無かったセイコー1973年作の腕時計を購入する。この時計はLEDが開発された直後に出された、「グランド・セイコー」の上を行く高級ラインのシリーズのモノで、ブルーのグラデーションのバックにシンプルで品の有る文字盤、漢字に拠る曜日と数字の日付、赤の点滅ライト、そしてまるでダイヤモンドの様に美しく斜めにカットされたガラス…何て品の有る、レトロな、美しい、そして「誰もして居ない時計」なのだろう!購入後、暫く店のオーナーD氏とギークに就て語らい、店を後にする…嗚呼、至福!

18:00 僕が毎年歌舞伎町のおばあちゃん中華「玉蘭(ギョクラン)」で開催して居る、若手アート系忘年会「玉蘭(タマラン)会」の準備の為に店へ。今回幹事的に手伝って呉れる能研究者のR君、同僚のCさん等が集まり、席順等を決める。今年は何と45人の出席者が見込まれて居て、過去最多人数。某大物アーティストや文化官僚も来場する…どうなる事やら。

19:00 「タマラン会」がスタート…が、7時からだと告知しても流石のアート系、時間通りに来る者など殆ど居ない(笑)。三々五々集まって来たのは、アーティストやギャラリスト、建築家、キュレーターや研究者、古典芸能者、ミュージシャン、美術メディア迄、もうグシャグシャだが個性派揃い。そして大物現代美術家S氏の乾杯の音頭で始まった会は、酒池肉林(肉林、は無い:笑)の様相を呈しながらも大盛り上がりでした!おばあちゃんも元気で良かった!

22:30 有志でカラオケの2次会に繰り出すと、人数が多くて全員入る部屋が空いておらず、2部屋に分かれて入り、行ったり来たりするが、何と隣の部屋にS氏のグループが来て居て、結局20名以上が経過カラオケに来た事に為る…好きだなぁ、皆(笑)。が、その3部屋は同じ店舗内、客も元同じグループだったにも関わらず、全く異なる世界を呈して居て、一部屋は「昭和歌謡」部屋、一部屋は「イマドキ・カラオケ」、そしてもう一部屋は「全く歌を歌わず、食って語る」部屋で有った(笑)。

27:00 やっと解散…皆さん、今年もお疲れ様でした!


12月29日(金)
20:00 最近知り合った音楽家と、代官山「A」でディナー。クラシックのみならず、ジャニーズやロック・ミュージシャンのコンサート・ツアーでも弾くと云う彼女は、小柄だが恐ろしい食欲の持ち主で、次々と料理を平らげる。食後は下のクレープ屋でデザート。嗚呼、良く食べた〜。


12月30日(土)
12:00 代官山「O」に向かい、お正月用に注文して有ったビーフシチューやホタテのマリネ、カレー等をピックアップする。ムッシュからお土産に頂いた「牛肉の佃煮」が超嬉しい。今年もお世話になりました!

14:00 今晩の「歌会」に一緒に行く友人チェリストと青山で待ち合わせ、「B」で2種類のガレットをシェアしての遅いランチを頂く。音楽のみならず数多の話で盛り上がり、結局6時近く迄話して仕舞う。

18:00 また腹が減って来たので、「歌会前に、サクッと」と云う事で蕎麦屋「K」に行くが満席。仕方無く隣の焼肉「M」へ行くと、7時迄なら大丈夫だと云うので、45分間のタイムリミットで食べ始めるが、恐らく日本でも指折りの早食いで有る我らには没問題(モウマンタイ)で、確りと満腹感を得る(笑)。

19:30 チェリストと、現代美術家S氏主宰の歌会@箕輪「S」へ。毎年恒例のこの「アートVS建築」歌合戦は、S氏をリーダーとする「アートチーム」とI氏をリーダーとする「建築家チーム」が、この店の衣装室でコスプレをし、有名編集者T氏の司会の下で昭和歌謡カラオケバトルを繰り広げると云う、もうとても世界的にその道で名の知れた人達とは思えない(笑)、50人に垂んとする芸達者オンパレードの大宴会で有る。さて我ら「アート・チーム」にはリーダーS氏の他、サザンを歌うイケメン画伯Y氏や作風と真逆なブルーハーツを必ず歌うアーティストS氏、百恵ちゃんを歌った小説家Aさん、そしてコレクターやギャラリストが各々コスプレをしての熱唱。そんな中僕は長髪のヅラとサングラスを付け、井上陽水の名曲「傘がない」の替え歌「金がない・江之浦バージョン」(笑)を、S氏のカッコいいバック・コーラスと共に歌う…ウケました!最後の全員参加コーナーは、アートチームはお揃いのTシャツを着ての「いい湯だな」、建築チームは「マツケンサンバ」ならぬ「ケンチクサンバ」でシメ。いやー、この会も毎年パワーアップして行くのが凄い…そう、「過ぎ去った青春の残り香」の力は侮れないのだ(笑)。


12月31日(日)
12:00 実家に昨日取って来たシチュー等を届け、母と年越し讃岐饂飩を食べる。その後、自宅で正月に使うお茶碗を選定…悩んだ末に結局黄伊羅保にし、持ち帰る。

17:00 家に戻り、久し振りに黄伊羅保で一服。この茶碗は少し歪んで居る所が魅力で、抹茶の緑が映える。こう云う時の一服は限りなく美味しい。

21:00 鐘撞きをする為に訪ねて来た友人と、年越し蕎麦を食べようと決めるが、何処に出掛けて良いか分からないので、結局「どん兵衛」にする。然し日本のカップ麺のクオリティは高く、出汁が美味い。

23:30 谷中の禅堂に行き、除夜の鐘を撞く。H住職にもご挨拶するが、少々お太りに為られたか。今年は余りに色々有り過ぎたので、特に死や別離、散財の気を煩悩と共に葬り去る。


1月1日(月)
0:00 謹賀新年。


今年もこのトウキョウ・アート・ダイアリー、何卒宜しくお願い奉りまする。


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

大嫌いなクリスマスと「誰もして居ない時計」店。

12月16日(土)
16:00 某美術館地下のショップ店内をブラブラ見て歩いて居たら、片隅に何やら変わった時計が並んで居るケースが有った。「あれ、前からこんなの売ってたかな?」と思いつつ眺めて居ると、店主らしき人が出て来て云うには、今考えれば謂わば「キワモノ」的な70年代位からの日本の腕時計だけを探して、売って居るらしい。云われて見れば、確かに計算機にしか見えない時計やどう見てもダイヤル電話にしか見えないモノ、録音機能の有る初代「ゴースト・バスターズ」達がした時計や、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクがして居たストップウォッチ時計等、風変わりな、今でこそ一点モノの時計が並び、然しそれらは「金さえ出せば誰でも買える時計」とは一線を画した、余りにも魅惑的な「探さなければ買えない、誰もして居ない時計」なのだった!うぅ、欲し過ぎる!

18:00 音楽をやって居る友人と、「Glenn Gould Gathering curated by Ryuichi Sakamoto」@草月ホール。このイヴェントはカナダ建国150年、且つ50歳の若さで急逝したご存知20世紀の異才クラシック・ピアニストで有るグレン・グールドの生誕85周年を記念し、グールドの芸術を坂本教授が「リモデル」する試みだ。コンサートの他にトーク・セッションや展覧会も有ったが、時間の関係で僕はこの日のコンサートだけに参加。さて僕とグールドの出会いは、在り来たりの極みみたいだがバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」で、グールドの死の直前に録音された、若い頃の演奏とは正反対の非常にゆっくりとしたプレイに大感動し、彼の或る意味パンク的な思想と演奏に痺れたモノだ。その後かなり経って、大好きな映画「イングリッシュ・ペイシシェント」の中で、従軍看護婦ジュリエット・ビノシュが爆撃され廃墟と為った教会の壊れたピアノで弾いた曲が「ゴールドベルグ」だった事と、「羊たちの沈黙」でのレクター博士のピアノ、はたまた大切な友人からグールドの2枚の「ゴールドベルグ」がセットに為ったCDをバースデー・プレゼントされた事が切っ掛けで、再びグールド熱が再燃したのだった。僕に取っては杉本博司氏の朗読劇「肉声」以来の草月ホールは満員御礼だったが、ロビーで「桂屋さん!」と声を掛けられたので振り向くと、其処にはつい先日「情熱大陸」で取り上げられたイケメン作曲家のH氏が…が、未だ番組を観れて居らず、恐縮しながら挨拶する(汗)。公演が始まると、スクリーンには高谷史郎の映像(これが又素晴らしい)が流れ、先ずは教授のアルバム「async」からの曲、そしてカールステン・ニコライ(SA)、クリスチャン・フェネス(G)、キャロリン・ケンブルグ(V)、そして注目すべきピアニスト、フランチェスコ・トリスターノも競演で観客を魅了した。特に彼のピアノはクラシック・ジャズ・テクノの三面体的センスを持つアーティストならではのモノで、今回のバッハ&グールドの「リモデル」には最適と思われる、素晴らしい演奏だった!終演後はこれまたロビーで、前日ペロタンのレセプションで紹介された神の手マッサージャーのTさんにバッタリ。これもご縁と翌日の予約状況を聞いてみると、何とバッチリ空いて居たので、直様お願いする…嬉しさ倍増のコンサートと為ったのでした。

20:30 コンサート後は、行き付けのレストラン「A」でディナー。相変わらず美味スグル「白子のフリット」や「蟹のワカモレ」、「みる貝のココット」や「マグロのうなじ」等を頂く。素晴らしい芸術後の素晴らしい料理は、この上ない歓び。


12月17日(日)
15:00 友人に誘われて、某アイドル事務所のオフ会へ。僕は今迄半世紀強の人生を生きて来ても、こう云ったイヴェントに参加した事が皆無…なので、或る種の「恐怖感」と「場違い感」満載でこの会に行ったのだが、20歳前後の5人の女性タレント達と事務所の人が僕等を持て成すオフ会は何とも家族的で、来て居たファンの人達も恐らくは20代から50代迄位の当然男子だけだった訳だが、彼等は僕が想像して居た様なオタクだらけでも無く、仕事帰りのサラリーマン風の人も居たりして、アイドルさん達と皆で和気藹々とバーベキューを楽しむ事が出来た。序でに、僕が人生で1度しか当たった事の無いビンゴゲーム大会で何とビンゴして仕舞い、景品をアイドルさんから頂く羽目に為り嬉しいやら恥ずかしいやらだったが、「いやぁ、世の中未だ未だ知らない世界が色々有るものだなぁ…」と感慨深く会場を後にした。

19:30 麹町に向かい、前夜教授のコンサートで偶然会ったTさんのマッサージを受ける。タイ古式マッサージを基にしたTさんのマッサージは、親愛なるアーティストK氏やAさんも受けて居て、若しかしたら出雲神が付いて居るのでは?と勘ぐる程神掛かって上手い。イタ気持ち良い整体で、身体が伸びました!


12月18日(月)
11:30 今週一杯でオフィスはクローズなので、香港のプライヴェート・セールズ・マネージャーと、今年最後の電話ミーティング。来年こそ実現させたい、大きなプロジェクト2つに就いて話す。

18:00 再び例の「誰もして居ない時計」店に赴き、Sonyがその昔電子ペーパーを使って作った、ボタンを押す度に文字盤もベルトもデザインが刻一刻と変化するヤツと、アナログ電話ダイヤルを「117」と廻すと、何とその時間の「時報」が流れて現在の時刻を教えて呉れる、時間を知るのにひと手間もふた手間も掛かる明和電機作の腕時計の2点を滔々購入。さぁて、誰に自慢しよっかなー⁉

19:00 渋谷の「L」で、中学の同級生でチェリストのFと、その後輩の美人チェリストとの忘年会。彼女はクラシックのみならず、ポップス畑でも演奏すると云うパワフルな方で、とても書けない音楽業界裏話等、皆で喋り捲りの楽しい一夜と為りました。


12月19日(火)
15:00 某美術館長と打ち合わせ。今年は大変お世話になりました!此方の美術館に入った作品を、来年展示会場で観る事を楽しみに年を越そう。

19:30 麻布十番の熊本料理店「A」で、毎年恒例の男4人忘年会。今年は友人が急逝された為、残念ながらジャズ評論家O氏が欠席だったので、作家H氏と写真家S氏との3人会。馬刺しや辛子蓮根等を摘みながら、最近ハリウッドやアート界で騒がれて居るセクハラ問題に就いて話す。セクハラを肯定する気等毛頭無いが、此処まで表沙汰に為ると各芸術界の大物がかなりの割合で葬り去られて仕舞うのでは無いかとも思う。これも誤解の無い様に気を付けねば為らないが、セクハラと同意の上での行為の境界線、或いは「英雄色を好む」の格言通り、女好きで無い偉大な芸術家がどれほど居るのか?と云う疑問も有る。然し「時代の流れ」と云うモノが有る以上、今後益々摘発される大芸術家の数は増えるに違いない…大丈夫か、世界の藝術界?


12月20日(水)
12:00 都内某ホテル内の料亭で、美術館学芸員とランチ。久し振りの鯛茶を楽しみながら、日本美術界の近況を聞く。

18:00 此方も某ホテルのラウンジで、23日の朝日カルチャーでの「北斎ジャポニズム」に関するレクチャーの打ち合わせを、共催する国立西洋美術館の川瀬主任研究員と。川瀬氏はプライヴェートでもお付き合いの有る、ニューヨーク時代からの尊敬する友人…僕より遥かに話の上手い川瀬氏との対談形式レクチャー、乞うご期待です!

19:00 友人と西麻布「C」でディナー…此処に来るとデザートを食べ過ぎるのが難だが、季節の素材の料理と苺のデザート「カルメン」(アルコール抜き)に舌鼓を打つ。

21:00 帰るすがらふと思いつき、ミッドタウンのイルミネーションを友人と観る。クリスマス頃は大変な混雑なのだろうが、この日は未だ人も疎らで、中々清々しく美しい。余りの人の多さに辟易するので、日頃イルミネーション等決して観に行かないのだが、偶々訪れたこのミッドタウンのイルミネーションは立体的で観る場所に拠っても見え方がかなり異なるので、インスタレーションとして見応えが有ると思うし、さぞやインスタ映えするのだろう。


12月21日(木)
11:00 某画廊に日本美術作品を査定に行く。この作品は嘗て僕が入社したての頃に良く知った顧客オークションで落としたモノで、状態は昔から全く変わって居らず、見覚えが有ると同時に懐かしい逸品だ。プライヴェート・セールの契約を取る。

12:30 天現寺の和食店「S」で、某氏とランチ。「S」は久し振りだったが、相変わらず超美味しく、ランチはかなりのお得感有り。掘り炬燵の茶室に設えられた軸や香合も「ホンモノ」で、オーナーNさんの趣味の良さと気配りが分かる。ご馳走様でした!

17:00 新幹線に飛び乗って熱海に向かい、最終目的地の湯河原に在る高級温泉旅館「S」へ。この「S」では、現代美術家杉本博司氏の内外のファンと関係者10名程が集まってディナーと宿泊をし、翌早朝「S」から皆で小田原に出来た氏の財団「江之浦測候所」にバス等で移動し、年に一度冬至の日の出光でしか見れない「冬至光遥拝隧道」のアートを観る、と云う企画だ。「S」に着いてみると、アメリカ人投資家や顔見知りの某米美術館館長、日本人アーティストご夫妻等が居らっしゃる。僕はと云うと、食事前にひとっ風呂浴びようと露天風呂に入って居ると、外国人2人が入って来たので、日本の風呂の作法を教えて進ぜる。そして長湯出来ない彼らが去って暫くすると、目の前の柿の木をハクビシンがスルスルと登って行き、何と柿を食べ始めたのだが、目近に見るその様子が面白くて、お陰でつい長湯をして仕舞う。ディナーも流石に美味しくて、色々とアートの話で盛り上がったが、1番ウケたのは、藤田セールもビッドしたと云う香港在住の投資家が教えて呉たポリティカル・ジョーク(→https://9gag.com/gag/axj4W4D/i-said-lunch-not-launch-d)で、もう全員笑い死寸前の大爆笑だった。

22:30 そんな楽しい夜も、翌朝を考えて解散し就寝…の筈が、僕が今抱えて居る仕事に関して、散々メールを送らねば為らなくなり、結局寝たのは1時半過ぎ。大丈夫か、俺?


12月22日(金・冬至
4:30 決死の思いで起床し、出発準備。

6:00 車中から見る海には、雲が厚く垂れ込め、不安が過ぎる。そうして居るうちに江之浦測候所に到着、日の出迄皆で測候所内の施設を見て回るが、水平線の雲は消えない。

6:48 冬至の日の出時間に為るが、水平線の雲は残念ながら消えず…気候は風も無く、暖かくて悪くなかったので、残りの日の出光を楽しむ事に専心。

8:30 江之浦測候所を後にし、根府川から帰京。曇っても良い一晩でした。

10:30 数日前に「芸術家のセクハラ」に就て一緒に語ったばかりの作家H氏からのメールで、デュトワがセクハラで訴えられたとのニューヨーク・タイムズの記事を知る。その時、この間N響を指揮した「オール・ラヴェル・プログラム」が素晴らしかったと皆に話したばかりだったので、驚くと共に残念過ぎるが、仕方ない。ボストンやニューヨークでのデュトワの演奏会は既にキャンセルされた様だから、この間の演奏が彼の日本最後の指揮に為って仕舞うかも知れない。素晴らしい指揮者だけに悲し過ぎる。その上、あの素晴らしいラヴェルの演奏をテレビ収録して居たにも関わらず、放映も中止になったらしい。何も逮捕された訳でも無いし、有罪判決が出た訳でも無いのに、あの素晴らし過ぎる演奏をオクラ入りさせるなんて、余りにも勿体無い…NHKは、気小さ過ぎ。

13:00 今日は東京オフィスの今年最終営業日。オフィスに行って、皆に今年最後の挨拶。とかして居たら、某所からとんでもなく良い話の電話が掛かって来て、驚愕する…オイオイ、今年最後の営業日にこれか?「来年はかなり良い年に為るのでは?」と、取らぬ狸の皮算用的に期待して仕舞ふ。

19:00 来日中のニューヨークの元同僚と、代官山「A」で今年最後のディナー。「平目のパイ包み」や「鯖とモッツァレラ」、「ラムチョップ」等相変わらずパンチーで繊細な料理を堪能。Kシェフ、今年も大変お世話になりなりました!


12月23日(土・天皇誕生日
12:30 朝日カルチャーセンター新宿に向かい、西美の川瀬氏と落ち合い、講座の最終打ち合わせ。お互いのパワーポイントや構成を再確認。モデレーターは僕がやる事と為ったが、川瀬氏の話術に期待したい。

13:00 30名以上集まって頂いたレクチャーがスタート。川瀬氏の「日本+スペイン=フランス」的ジャポニズムのお話は非常に面白い角度からの見方で、僕が持って居た、恐らくは受講者の皆さんも思って居た、従来のジャポニズム理解の道筋を更新して呉れました。受講して頂いた皆様、川瀬さん、3種の栗のお菓子の詰め合わせを差し入れをして下さったNekoniko様(物凄く美味しかったです!)、本当に有難うございました。来年も宜しくお願い致します!

15:00 某美術誌に拠る、浮世絵のインターナショナル・マーケットに関するインタビューを受ける。

16:30 自宅に帰る最中、最近或る事でお願い事をして居た某美術館学芸員のH氏からメールが入り、何と僕が偶に行く神保町のベルギー・ビール・バー「B」で飲んで居ると云う。未だ夕方前なのに、で有る(笑)。余りのタイミングの良さにいそいそと「B」へ行ってみると、この日の「B」は何と居酒屋化して居て、店長は割烹着を着て女将さんに為って居るし、カウンターにはおでんと煮込みの鍋が!この雰囲気に呑まれ、2時間後にはディナーの予定が有ったのにも関わらず、おでんや煮込みを突きながら、H氏と歓談…と云いたい所だが結構重い話に為り、が故にお互いに共感を深めたひと時と為った。

19:00 最近僕が気に入って居る銀座の薬膳豚鍋屋「Y」で、ニューヨークの友人に紹介されたダンサーと食事。コンテンポラリー・ダンスやバレエ、舞踏の話等で盛り上がる。


12月24日(土:クリスマス・イヴ)
15:00 NHKホールに向かい、クリストフ・エッシェンバッハ指揮&N響「第九」を聴く。エッシェンバッハは「カラヤンの隠し子」とも噂される同性愛者の鬼才で、元ピアニスト。独特な解釈と感情的な指揮者との噂だったが、僕が初めて聞いた限りでは、エモーショナルでは有るが落ち着いた指揮で、中々の演奏だった。然し「第九」と云うのは本当に不思議な曲で、この曲が始まると僕は徐に今年を振り返り始め、第3楽章で失った人や物を想い、第4楽章のカタルシスでこの1年間の嫌な事、穢れを全て洗い流し昇華させる…そして今年余りにも色々な物を失った僕は落涙を止める事が出来ず、僕から去って行った人やモノへのレクイエムとして、が、何よりも自分が今生きて此処に居る事への感謝の歌としての「第九」を、感動を持って経験したのだった。終演後は、今日も舞台上に居たF君に挨拶。そしてNHKホールを出ると、其処にはクリスマス・イルミネーションの点灯を待ちわびる鬼の様な数の人が!そしてその殆どはカップルで、然もイチャイチャ、いっちゃいちゃ…だからクリスマスなんて大嫌いなんだ!(怒)

18:00 西麻布「A」で、音楽会に一緒に行った友人とディナー。クリスマスの日は、誰が何と云っても和食に限る…そうでしょ、サンタさん?


12月25日(月)
13:30 仲の良い骨董屋さんT氏を訪ね、年末の挨拶。昔からの仲間は、何時も気が置けなくてホッとする。

14:00 会社的には先週末でもう仕事納めなのだが、某古美術店で極秘超重要秘密会議。これが上手く行くと、僕の将来の回想録の重要なチャプターと為るに違いない(笑)。重要な仕事程、時と人の縁で動く。それら全てが揃ったタイミングが最も重要。

15:30 今年も大変お世話になった老舗古美術商を訪ね、ご挨拶。琳派の軸の掛かった床を見ながら、垂涎の黒茶碗でお抹茶を頂く。この店のご主人も今年は公私共に色々大変だった筈なので、お互いに言葉を交わさずとも、心から相手の来年の健勝を祈る。美しく素晴らしい来歴の半筒型の茶碗が、今年一年色々有り過ぎてかなり草臥れた僕の掌と心を、ジンワリと暖めて呉れました。


そんなこんなで、今年もあと1週間…そして皆様、

🎄メリー・クリスマス🎄


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第五回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。