機内からの「ロンドン・セール」報告、或いは「ラスト・ディール」。

ごぶサタデー(古っ)。今日は、フランクフルトからの機内から。

と云う事で、先ずは本の御報告から。拙著「美意識の値段」(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)が、ジワってジワって重版を経て、何と「3刷」と為った!

これも全ては本書を読んで頂いた方々、また推薦して頂いた方々、福岡伸一平野啓一郎両氏に拠る身に余る推薦文と、若冲の「鳥獣花木図屏風」が目に留まる強力な「帯」、或いは暖かい書評を書いて頂いた方々、そして集英社新書及び協力者の方々のお陰で有る。心からの感謝を申し上げたい。

そんな中最近凄く嬉しかった事が有って、それは面識の無い方の僕の本に関するツイートだった。

例えば、「平野さんの推薦の帯に惹かれて買って読んだら面白くて、今まで自分の生活に縁が無かった美術が身近になった。今年は美術館を巡って、本物を見よう」、「携帯を隣に置いて、読めない漢字を調べながら読んで居る」、そして「文中出て来る作品を画像検索しながら読むのが楽しみ」と云った物だった。

面識の無い方々がこうした事を「呟いて」呉れた事だけでも、本書を書いた価値が有ろうと云うモノ…誠に嬉しい限りで有る。アートが皆さんの側に、少しでも近付く様に!

そして僕の方はと云うと、久し振りのロンドン出張に出掛けた。

常宿の「D」は相変わらずで、慇懃なドアマンや迷路の様な廊下、硬めのベッドや熱く為る迄時間が掛かるシャワー、抜群に美味しいエッグ・ベネディクト等、全てが「これぞロンドン」…止められまへんなぁ。

そして今回の「印象派・近代絵画」ウィークは、クリスティーズが総額1億2768万4375英ポンド(約181億3100万円)を売り上げ、6625万2475ポンド(約94億円)売り上げたサザビーズに倍近くの差を付けて終了した。

トップロットは、サザビーズピサロの「霜、火に当たる農家の若い娘」が800〜1200万ポンドのエスティメイトに対しての1329万6500ポンド(約18億8800万円)で、クリスティーズの方はマグリットの「幸福の集いにて」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/rene-magritte-1898-1967-a-la-rencontre-du-6252203-details.aspx)の1893万3750ポンド(約26億8800万円)。

が、個人的には、僕が28年前にクリスティーズに入った頃は「印象派・近代絵画」分野のセール処か、「アール・デコ」セールで今では信じられない位の安い値段で出品されて居た作家、タマラ・ド・レンピッカの「マージョリー・フェリーの肖像」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/tamara-de-lempicka-1898-1980-portrait-de-marjorie-6252179-details.aspx)が、1628万ポンド(約23億円;当然アーティスト・レコード)で売れた事だ!時とマーケットの流れとは、何と恐ろしいのだろう…。

また全体的にはコロナ・ウィルスの関係か、中国やアジア圏からのビッドが少なくて、セール前はどう為る事かと心配したが、ブレクジットの影響も少なく、可成り健闘したセール結果と云えると思う。

が、香港ではアートバーゼルが来月のフェアの中止を発表し、当社もオークションを延期した事を鑑みると、今年のアートマーケットは絶対に一筋縄では行かないだろう…僕等に出来る事は、コロナウィルス対策が早急に推進される事を祈る事だけだ。

そんなこんなの今日は、僕が公式応援メッセージも提供して居る、アート映画の宣伝をしてお終いに…。

今月28日から公開のフィンランド映画、「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」(→https://lastdeal-movie.com/)の試写会に招待されて観て来た。

本作は老画商が所謂「スリーパー」をオークションで見つけ、調査の上有名画家の作品と断じて落札するが、その後オークションを開催した画廊主に拠る陰謀等が有って、顧客にも買って貰えず、自身の金策にも行き詰まる…はてさて、老画商に拠る人生を賭けた大逆転は有るのか?と云うストーリーなのだが、アートと人間との触れ合いで生まれる家族愛や憎悪も見処の、良く出来た作品なので是非ご覧頂きたい。

そんな劇中、スペシャリストたる僕が一番「ウム!」思ったのは、画商がオークション下見会場で「スリーパー」を発見した瞬間の描写だった。

絵の前を一瞬通り過ぎて、が然し「捨て目」(意識して見て居なくても、美術品が自然に眼に視界に入って居る事)に残像が残り、ハッとして振り返った時の画家役の俳優の演技は、可成り「如何にも」なのでお見逃し無く。

そして僕は「あぁ、スペシャリストって良いなぁ…戻りたいなぁ…」と切実に思ったのでした(涙)。

 

ーお知らせー

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*3月4日付「日刊ゲンダイDigital」にて「美意識の値段」の書評が掲載されました(→https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/269858)。

*3月1日付ウェッブ版「美術手帖」にて、インタビューが掲載されました(→https://bijutsutecho.com/magazine/interview/21362)。

*2月28日付朝日新聞デジタル&Ⓜ︎」内のインタビュー、「クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力」(→https://www.asahi.com/and_M/20200228/9915737/)にて、インタビューを受けました。

*2月21日の夕刊フジ、22日の西日本新聞の書評に、拙著「美意識の値段」が取り上げられました。

*2月15日付日経「新書」にて「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.nikkei.com/article/DGKKZO55630490U0A210C2MY6000/)。

*2月5日の日経MJ内「使える読書」で、「美意識の値段」が取り上げられました。

*1月22日の産経新聞書評欄に、拙著「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.sankei.com/premium/news/200122/prm2001220002-n1.html)。

*「J-CAST ニュース」内「BOOK ウォッチ」(→https://books.j-cast.com/2020/02/12010854.html)、「Bur@rt ぶらっとアート」(→https://kobalog.jp/burart/2020/01/aesthetics-and-prices/)にて、「美意識の値段」が取り上げられました。

*雑誌「Pavone」54号内の特集「ART: Timeless Value 永遠の価値を求めて」(→http://www.pavone-style.com/culture/art_202001_1.php)で、オークションに就いての取材を受けました。是非ご一読下さい。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2020年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

 

 

恭賀新年、そして「命日」の出版。

遅れ馳せながら、恭賀新年。

「今年も凡ゆる芸術を観て歩こう!」と心に決めた物の、昨年末30日から正月5日迄インフルエンザA型に罹って倒れて仕舞った。

当然、毎年恒例の谷中の禅堂での除夜の鐘撞きや、氏神様で有る神田明神での新年昇殿参拝も出来ずに、元旦を熱に魘されて過ごすと云う自分の記憶には無いアクシデントで、僕の2020年は幕を上げたのだった…「オリンピック後の日本」の如く、何とも暗雲漂う感じでは有る(涙)。

そんな年末年始と仕事始めの1週間をフラフラの体で遣り過ごした訳だが、一昨日の1月17日は亡き父の命日だった。

「過去」と為って久しい出来事は、人に「光陰矢の如し」を鋭く強く突き付ける。

その8年前の父の突然の死は、僕に人生に於ける幾つかの重要な決定を促し、そしてそれらを確実に遂行させたのだが、その意味でもこの1月17日と云う日は、僕に取って忘れられない日なので有る。

が今年、この日にもう一つ意味が加わった。

それは何年か前から企画されて居た拙著、「美意識の値段」(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)が集英社新書から出版されたからで、美術史家で著作も多かった「和の鉄人」の子で有る僕の、人生初の本がこの日に出版されるとは深い因縁を感じざるを得ない。

この本は、僕が「オークション・スペシャリスト」として生きて来た30年弱をカジュアルに書いたモノで有る。オークションや日本人の美意識にご興味の有る方は、是非御笑読頂きたい。

またこの度、生物学者福岡伸一先生と作家平野啓一郎氏に協力な帯の応援と書評を頂きました。この場を借りて深く御礼申し上げます。有難うございました!(平野啓一郎氏の本書書評はこちらから→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124)。

本ブログも中々更新出来ませんが、本年も何卒宜しくお願い奉りまする。

孫一

 

ーお知らせー

産経新聞の書評欄に、拙著「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.sankei.com/premium/news/200122/prm2001220002-n1.html)!

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2020年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

嵐の中、「餘技」を考える。

ワールドカップラグビー日本代表が、大熱戦の末スコットランドに勝ち、史上初のベスト8入りを果たした。

今日の勝利はその試合内容と共に、それはそれは凄い事で、日本ラグビーのクオリティも此処迄来たか!と云う感じだった。凄いぞ、ジャパンチーム!

さて何を隠そう、僕は今流行りの『ラグビー「俄か」ファン』では無い。僕自身はラグビーを人生で一度もやった事は無いが、その理由は大学時代の友人にラグビー部の人間が何人か居た事、然し何よりも両親が明治大学を出て居た事から、子供の頃からテレビでラグビーの試合をやると、親と一緒に為って齧り付いて観て来た歴史が有るからだ。

僕が子供の頃の明大の、北島監督と斎藤コーチの下、監督の「前へ」と云う教えを頑なに守った攻めは、例えば宿敵早稲田の華麗なパス回しを多用するオフェンスに較べると、愚直な程「押す」事中心で、中々優勝する事が出来なかったりしたのだが、テレビを観ながら「オーオー、メイジー!」等と親が歌うと、子供だった自分もつられて歌い、「行けー!」とか「回せー!」等と声を張り上げて応援したものだ。

なので当然ルールも観戦のポイントも知って居るので、今年のW杯は十二分に楽しんで居る訳だが、今回の日本チームの強さ(特にスクラム!)と日本人のラグビー熱の盛り上がりには、正直驚きを禁じ得ない。

それもこれも、強く為ったジャパン・チームのお陰…ジャパン・チーム、「前へ」!

と云う事で、本題。

最強台風が来た昨日は(被害に遭われた方々のご冥福と、1日も早い復興を御祈りします。)、僕自身も大層楽しみにして居た、サントリー美術館での若宗匠とのトーク・イヴェントも残念ながら中止に為って仕舞い(是非またの機会に!)、雨と風の恐怖の中現実的に何処にも外出出来なかったので、久し振りに一人で「ムービー・フェス」を開催する事にしたのだが、「さて何を観ようか?」と悩んで仕舞った。

が、僕はふとその前日金曜日に老舗古美術店S堂で観た、「餘技」と題された素晴らしい展覧会を思い出した。

この展覧会は、例えば有名な将軍や僧侶、近代の数寄者等の絵画作品を中心に構成された、S主人渾身の催しだったが、画業が所謂「本職」では無い人間に拠って制作された、然し「餘技」等と簡単に片付けられない程の大名品が並んで居たのだった。

そして『この日の個人的「ムービー・フェス」のテーマは、「餘技」にしよう!』と閃いた結果、僕は大好きな「シングルマン」(拙ブログ:『「一瞬」の希望』参照)「ノクターナル・アニマルズ」(拙ブログ:「不感症、神の法、森、そして幻の女」参照)と、「バスキア」(拙ブログ;『「The Radiant Child-「バスキアのすべて」』参照)「潜水服は蝶の夢を見る」の4本を棚から出して居たので有った。

映画好きの方ならもうお分かりと思うが、此れ等の作品の監督は本業を別に持つ2人、則ちファッション・デザイナーのトム・フォードと、アーティストのジュリアン・シュナーベルで、映画を本業として居ない彼等の映画作品は、その意味で「餘技」と云えるのでは無いか?と思った訳だ。

こうして改めて観たこの4本は、云う迄も無く「餘技」のレヴェルでは無く、S堂で観た作品群と同様の意味で、誠に素晴らしい作品だった。

シュナーベルの、トム・ウェイツジョン・ケイルを選ぶ選曲、ジェフリー・ライトデヴィッド・ボウイクレア・フォーラニマチュー・アマルリック等を選ぶキャスティング、そして原作を選ぶセンス。

またフォードが細部まで拘った、張り詰めた糸の様な美意識、クーンズ、カルダー等を登場させるアート・センスや、緊迫感溢れる人間心理と恐怖の表現‥彼等の映画作品は、其処いらの本業映画監督のそれよりも遥かに美しく、魅力的だ。

これは結局、優れた「餘技」が出来る人間は、特に芸術の分野に於いては元来超人的な美と芸術的センスを持って居る、と云う事に他ならない。

そう、彼等の餘技は餘技で有って、餘技では無い…本業の美意識が齎らす、もう一つの「本業芸術」なのだ。川喜田半泥子や山田山庵、アンリ・ルソー白隠円空宮本武蔵杉本博司、そして利休の芸術がそれを証明して居る。

最高級の芸術のセンスは、その境目等簡単に超えて、新しい芸術を生み出す。

そんな事を考えた、嵐の1日でした。

  

ーお知らせー

*来る12月1日(日)14時より、ハラ・ミュージアム・アークに於いて現在回顧展「Like A  Rolling Snowball」を開催中のアーティスト、加藤泉氏との対談を開催します(→http://www.haramuseum.or.jp/jp/wp-content/uploads/2019/11/%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9_%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E6%B0%8F%E5%8A%A0%E8%97%A4%E6%B0%8F%E5%AF%BE%E8%AB%87_1110.pdf)。近年クリスティーズのオークションにも出品され、世界的にも知られる加藤氏との対談は、個人的にも加藤作品の大ファンな僕も、待ちきれません(笑)。是非アークに聴きにいらしてください!

*10/1発売の「婦人画報」11月号(→http://www.fujingaho.jp/lifestyle/satake-sakanouekorenori-191029)内、「佐竹本三十六歌仙絵」の「何を見たい?」コーナーで、僕の「オススメ歌仙」が取り上げられております。10/12より京博で開催されます「特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」と共に、是非お見逃し無く!

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

現代美術は寛容に、そして冷静に。

昔、某老舗骨董店の番頭さんに、こんな話を聞いた事が有る。

或る日の昼下がり、その老舗骨董店ではその頃未だ若い店員だった番頭さんが、主人の留守を預かって店番をして居た。するとポロシャツにジーンズを穿き、無精髭を生やした体の大きな外国人がもそっと店に入って来て、店の棚に展示して有る焼物を手に取り、眺め始めた。

普通の日本人コレクターなら、一言「拝見して宜しいですか?」とか「触っても宜しいでしょうか?」とか聞きそうなモノだが、何も聞かずに勝手に影青の杯や縄文土偶の頭部等の小物を弄り廻して居るこの外人に彼は不安に為り、声を掛けて止め様としたが如何せん英語が喋れず、途方に暮れてその外人を眺めて居たが、終にはその外人が大名品の皿に手を伸ばした為、奥で事務仕事をして居た当時の番頭さんの所へと走った。

「すみません…変な外人が店に来て、勝手にモノを触っているんですが…然もあの大皿迄!」

英語が得意だったその番頭さんは、「ナニ?誰だろう?俺が云ってやろう!」と云って事務所から店へと出て行くと、大柄な男が背中を丸めて皿を触って居たので、

「Excuse me, sir... may I help you?」

と声を掛けた。

するとその男は皿を置き、徐に振り返ったのだが、その顔を見て吃驚した番頭さんは、一言

「Good afternoon, Mr. President…Please let us know if you need anything.」

と丁寧に云うと、丁稚さんに「馬鹿者!お前はあの人を知らんのか!あの人はフランスの大統領で、有名なコレクターだぞ!」と諭したと云う。

「人は見掛けによらない」話の典型だが、その外人ことフランス共和国元大統領、ジャック・シラク氏が亡くなった。

氏の日本・東洋美術好きは有名で、特に或る時期日本人の彼女が居た事(ミッテランもだ!)や、コレクターで有った事は、骨董業界では広く知られて居た。フランスと云う国は元来哲学と芸術の国なので、芸術文化に関する興味・教養の有る政治家も少なく無いが、我が国のトップ達を考えると比べる事自体が恥ずかしい感じだ。

日本の芸術文化を心より愛したシラク氏のご冥福を、心よりお祈りする(然し、元大統領が亡くなって、バレンボイムが告別式でピアノを弾いたり→https://www.youtube.com/watch?v=Wyg7AoPJwbA、ケ・ブランリー美術館が無料に為ったり、熟く文化レヴェルの差だなぁ…と思う)。

さてそんな中、「あいちトリエンナーレ」問題に新たな展開が有り、何と文化庁助成金を全額出さない事を決定したと云う…もう呆れて声も出ないが、今日は僕なりの考えを。

先ず僕は「あいトリ」を観て居ない…何故なら観に行く前に終わってしまったから。なので、各作品に就いて述べる立場には無い。が、この事件で何しろ一番問題だった事は、「展示を中止した事」では無いかと思う。

第一この展示を決めた時点で、この様な騒ぎが起こる事は火を見るより明らかだった筈で、芸術祭ディレクターがその為の準備を一切して居なかった事は、或る意味「職務怠慢」と云えると思うし、それにも況して悪いのは、「テロ(予告)に屈して」展示を取り止めた事だと思う。

一寸脱線するが、最近僕が観た映画に、現在も渋谷ユーロスペースで公開中の「アートのお値段」(→http://artonedan.com/)が有る。僕のニューヨーク時代の「元」同僚がオンパレードで出演者して居る事に加え、現代美術アート・マーケットの一側面を皮肉たっぷりに描いて居るので誠に興味深いのだが、それだけで無く、所々に実に示唆的な場面が有るので面白い。

その中で、ユダヤ人大コレクターが自身のコレクション中に有る、マウリシオ・カテランが 「ヒトラー」をモデルにした立体作品「Him」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/maurizio-cattelan-b-1960-him-5994820-details.aspx)に就いて語る場面が有る(実はこの作品は、3年前クリスティーズで1718万9千ドル:約18億5千万円で落札された)。

劇中インタビュアーは、恐らくは誰もが聞きたい質問「ユダヤ人の貴方が、この作品を所有する意味は?」をコレクターに投げ掛けるのだが、この時僕はNYに転勤した直後の2001年5月に、初めてカトランの大作がクリスティーズで売られた時の事を思い出したのだった。

その作品は「ラ・ノラ・オラ」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/maurizio-cattelan-b-1960-la-nona-2051684-details.aspx)。ローマ法王ヨハネ・パウロ2世(蝋人形)が隕石に当たって赤絨毯の上で十字架を握り締めながら倒れていると云う、このトンデモ立体インスタレーション作品が、下見会のメイン・コーナーに展示されたのを目にした時の驚きは忘れられない。

僕は正直「こんな作品を『公共の場』に展示して大丈夫なのか?」、或いは「例えばローマ法王天皇に置き換えて、日本で展示したらどうなる?」等と思ったし、「ユダヤ人現代作家によるこんな作品をカトリック教徒も多いアメリカで展示・売却したら、教会からの抗議や圧力が来て、大事になるのでは?」と考えたりもした。

が、結果はと云うと、下見会中思った通り我が社には色々な団体からのクレームや抗議も来た様だが、結局作品は展示され続け、無事エスティメイトの倍で売却された。そして僕はこの時に「現代美術のコンテクストに対する、冷静且つ寛容な読解力」と、「アートを扱うべき人間の冷静な信念」を改めて肝に命じたのだった。

今回のこの事件は、ディレクターの信念の足りなさから始まり、地方自治体と文化庁、国の作品に対する読解力不足に拠って起きたのだと思う。そしてダメ押し的に最悪なのは、文化庁が(と云うか、芸術ド素人の文科大臣が、存在感皆無の文化庁長官を飛び越えて…「アーティスト」で有る筈の文化庁長官は、意見も見解も無いのか?)助成金を出すのを中止した事で、文科大臣はその理由に「危険予知」の不備を挙げて居るが笑止千万。

国と政治家、そして官僚ももっと現代美術・芸術を学び、「寛容且つ冷静に」言論の自由表現の自由をテロから守り、「政策芸術で『無い』現代芸術」を国民に知らしめ、学ばせ、産ませる為に我々の税金を使わねばならない。

“Je ne suis pas d’accord avec ce que vous dites, mais je défendrai jusqu’à la mort votre droit de le dire.” -Voltaire-

(私は貴方の意見には反対だ。だが、貴方がそれを主張する権利は命をかけて守る)

シラク元大統領の様に、文化芸術を深く理解する日本の政治家が出てくる日は来るのだろうか?そして我が国の政府や政治家、官僚や言論メディアが、ヴォルテールの言葉を胸を張って云える日は来るのだろうか?

 

ーお知らせー

*10/1発売の「婦人画報」11月号(→https://www.hearst.co.jp/brands/fujingaho#)内、「佐竹本三十六歌仙絵」の「何を見たい?」コーナーで、僕の「オススメ歌仙」が取り上げられております。10/12より京博で開催されます「特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」と共に、是非お見逃し無く!

*来たる10/12(土)の14:00-15:30、サントリー美術館6Fホールに於いて、9/4開幕の「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部」展(→https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_4/index.html)のスペシャトークイベント「美濃焼 過去 現在 未来」に、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏と登壇します。この企画はサントリー美術館メンバーズ・クラブ会員限定のイベントですので、ご参加されたい方は、これを機に是非メンバーに為られては如何でしょうか?お問い合わせは、サントリー美術館メンバーズ事務局(03-3479-8600)迄。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

「美獣」の死と、最近の藝術見聞。

今日は、超個人的に残念な悲報から。

決して「ハンサム」とは云えない「ハンサム」(笑)が亡くなった…その「ハンサム」とは、プロレス元NWA世界ヘビー級王者のハリー・レイス、享年76歳。

さて僕が高校時代大好きだった全日本プロレスには、NWAを中心とした海外選手が来日して居て、例えばドリー・ファンク・JR&テリー・ファンク兄弟のファンクスや、ミル・マスカラスドス・カラスの覆面コンビ、アブドラ・ザ・ブッチャー&ザ・シークの凶悪コンビ等を中心としての「世界最強タッグ」も大人気だったが、各選手に付いて居たニックネームや入場音楽も凝って居たのが思い出される。

例えばブッチャーのニックネームは「黒い呪術師」で、入場曲は何とピンク・フロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」!マスカラスは「千の顔を持つ男」でテーマはシグゾーの「スカイ・ハイ」、ファンクスの2人は「テキサス・ブロンコ」と呼ばれ、入場曲は彼らの必殺技をイメージして日本のバンドクリエイション(「ロンリーハート」!)が作曲した、滅茶滅茶カッコ良い「スピニング・トー・ホールド」で、この曲が流れただけで僕達は大興奮。

そして我等がハリー・レイスのテーマ曲は「ギャラクシー・エクスプレス」、必殺技は「バーティカルスープレックス」…この「バーティカルスープレックス」は所謂「ブレーンバスター」の一種なのだが、相手の身体を上まで持ち上げた瞬間、通常のブレーンバスターは直ぐに背後に落とすのに対し、レイスは持ち上げた相手の身体と自分の身体が一直線になった時点で何秒間か静止させ、その光景が何とも力強くて美しく、ファンを魅了したで有った。

「美獣」と云う訳の分からない日本語ニックネームも持っていた、然し最強レスラーだったレイスのご冥福を祈りたい。

さて本題…今日は久々に、最近の僕の藝術鑑賞覚書を。

 

ー映画ー

・「アートのお値段」@ユーロスペース:今月17日から渋谷ユーロスペースで公開される、最近の現代美術マーケットをテーマとしたドキュメンタリー・フィルムを試写会で。監督はあの偉大なる建築家ルイス・カーンの息子、ナサニエル・カーン。内容は至ってシニカルな内容で、実際オークションハウスに四半世紀以上勤めて居る身としては、言いたい事テンコ盛りの内容だが、今の現代美術マーケットの「一面」は表して居る。クーンズやコンド、リヒター等のアーティスト本人達や、エイミーやエド、ロバート等僕の昔の同僚が出て居るのも一興。現代美術に興味のある人は必見だ!

ー舞台ー

・能「井筒」@観世能楽堂:片山九郎右衛門師がシテを務めた「井筒」。鬘物が本当に上手い九郎右衛門師だが、今日は残念な事に声が枯れて居て、最近特に良くなった謡が今ひとつ…が、終盤の長い舞は美しく、流石で有った。この日の別番組「清経」も、シテ・ワキ共素晴らしい出来だった事も追記して置く。

ー展覧会ー

・「メスキータ」@東京ステーションギャラリー:いや、何とも驚いた…こんな作家が居たなんて!エッシャーの秘蔵っ子だったらしいが、何方かと云うとヴァロットン的な、若しくはドイツ表現主義的なモノも感じる、力強いモノクロームの版画が秀逸。本展を見逃すと云う選択肢は無い。

・「青柳龍太 l Sign」@ギャラリー小柳:現代美術家青柳龍太の「眼」の展覧会。作家本人が見つけ出した「モノ」をインスタレーションした展覧会だが、例えば鉄に見える紙や眼鏡、石等、「古美術坂田」的な物を残しながらも、それ等をインスタレーションする眼と技が堪能出来る。

・「室町将軍ー戦乱と美の足利十五代」@九州国立博物館:何しろ「東山御物」の展覧会と云って良い程の展覧会。それに加えて、新しい「尊氏像」や余りにも美し過ぎる青磁茶碗「馬蝗絆」、芸阿弥「観瀑図」等大名品揃い。

・「原三渓の美術」@横浜美術館:稀代の大コレクター、原三渓旧蔵品の大展覧。その中でも白眉は国宝「孔雀明王図」(何と美しい状態なのだろう!)、「病草紙断簡」、黒織部茶碗「文覚」、雪村の三幅対等だろう。そして驚くべきは、三溪さん本人の画業だ…是非一度ご覧あれ。

・「ジュリアン・オピー」@東京オペラシティ アートギャラリー:今を時めくアーティスト、オピーの展覧会は、素晴らしい出来だった!「こんな大きな、或いは重い作品をー体何処から入れたのか?」と云う質問を高校の先輩でも有るH主任学芸員にしたら、「何とか入った(笑)」との事。浮世絵収集家としても有名なオピー氏とは、パーティーでも歓談。アートと人との楽しいひと時でした。

・「特別展 三国志」@東京国立博物館:後輩を誘って行ったが、レセプション・招待日とは云え大混雑…が、僕の興味は唯一点、曹操の墓から出土した世界最古の「白磁」だった。ゲームファンは必見か(笑)。

・「松方コレクション展」@国立西洋美術館:世界に散らばった松方旧蔵の作品が集う、或る意味、やっと松方幸次郎の「夢」が叶った展覧会…何故なら造船業で財を成した松方の最期迄の夢は、東京に美術館を造る事だったから。然しこの仕事をして居ると、美術品コレクションの数奇な命運を偶に眼にするが、松方のそれは戦争・火災・破産等、時代と共に変遷し、コレクション中の作品は恰も取捨選択をされた如く、生き残った。そんな中で僕が一番感銘を受けたのは、言わずもがなのモネ「睡蓮・柳の反映」で、画面の半分程を損失したこの大作は、松方が1921年にモネ本人から購入したモノで、何とほんの3年前にパリで発見され、西美に寄贈された。修復を終えた本作は、画面の半分がなくとも元来の姿を容易に想像出来る、謂わば「ミロのヴィーナス」的な、或いは平安仏の「仏手」や耳庵旧蔵の伝快慶「観音仏耳」的な「欠損・残欠の美」の真髄と云えると思う。先日里帰りが発表と為った「プライス・コレクション」もそうだが、「コレクション」で有る事の意味は大きい。オークション等のアート・マーケットでも「個人コレクション」来歴を持つ作品が最も高価に為るし、纏まった事に因る作品の価値向上の意味も有る。そう云った事を実感出来る、素晴らしい展覧会だ。余談だが、先日放送されたこの展覧会を特集した「新日曜美術館」の展覧会シーンに、ワタクシが2度程登場してました(笑)。

 

と云う事で、今日は此処迄。最近忙し過ぎて、展覧会も音楽会も舞台も何も余り行けて居ない。これはアカン…何とかしなきゃ。

そして、気が付けば中止に為って仕舞った「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」の問題に関しては、言いたい事が余りに多いので、次回此処で思いの丈を伝えたい。

然し日本、終わってますな…。

 

ーお知らせー

*現在発売中の雑誌「Men’s Ex」10月号(→https://www.mens-ex.jp/magazine/2019/201910.html)中の、「エグゼクティヴ的アートの楽しみ方」とメルセデス・ベンツのタイアップ広告に出させて頂いてます。お時間のある方は是非。

*現在発売中の古美術雑誌「目の眼」9月号(→https://menomeonline.com/about/latest/)の「Topics & Report」に、プライス・コレクションに関する私の寄稿が掲載されて居ります。ご興味の有る方は是非ご一読下さい。

*8月17日より渋谷ユーロスペースにて、現代美術マーケットをシニカルに扱ったドキュメンタリー映画「アートのお値段」が公開されますが、その翌日18日、16:10の回の後、17:50頃からの「スペシャル・アフタートーク」(→http://artonedan.com/)に、岩渕貞哉美術手帖編集長と登壇します。是非ご来場下さい!

*来たる10/12(土)の14:00-15:30、サントリー美術館6Fホールに於いて、9/4開幕の「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部」展(→https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_4/index.html)のスペシャトークイベント「美濃焼 過去 現在 未来」に、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏と登壇します。この企画はサントリー美術館メンバーズ・クラブ会員限定のイベントですので、ご参加されたい方は、これを機に是非メンバーに為られては如何でしょうか?お問い合わせは、サントリー美術館メンバーズ事務局(03-3479-8600)迄。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

「象」も「虎」も「美人」も…皆幸福な「里帰り」。

皆様、4ヶ月間のご無沙汰です…桂屋孫一で御座います(玉置宏調で:笑)。

昨年10月に仕事上の立場が変わってから多忙を極めて仕舞い、3月に漸く「はてなブログ」への移行を終えて更新して以来、何と4ヶ月振りのダイアリー。

今回は、僕のキャリアでも非常に重要な「里帰り」仕事に就いて…そう、先日出光美術館がクリスティーズを介して「プライヴェート・セール」での購入を発表した、「プライス・コレクション」の事だ。

事の始まりは、今から約2年半前…カリフォルニア州コロナ・デル・マーレのプライス夫妻宅を訪ねた時に、「コレクションの半分を売却したいので、売り先を探して欲しい」との依頼を受けた時の事(この時の様子は、NHKの番組でどうぞ)。

その時夫妻から、1.買い手は日本の公的な場所で、将来江戸絵画研究の日米の架け橋と為る事(夫妻のコレクションの半分は、既にロサンジェルス郡立美術館に寄贈されて居る)、2.コレクションを散逸させる事無く、纏めて購入出来る事、3.コレクションを恒久的に保存・研究するに値する場所、との条件下での売却依頼を受けた僕は、相当なプレッシャーに押し潰されそうだったが、或る意味「こんな有名、且つ重要な在外日本美術コレクションの代理人と為った事を幸運に思わねば、ジョーさんとエツコさんに申し訳ない」と覚悟を決めたので有った。

さて、僕がジョーさんに初めて会ったのは1998年。その昔バブルの時代、高級自動車を扱って財を築いた麻布自動車のオーナーさんが持っていた、肉筆浮世絵専門の美術館麻布美術工芸館のコレクションが売りに出た時の、クリスティーズ・ニューヨークでの下見会の時だった様に思う。

下見会期中の或る日の午後、会場で出会ったジョーさんは、今回出光美術館が購入したコレクション中に有る、或る肉筆浮世絵を真剣に眺めて居て、 僕が挨拶をすると微笑みながら「会場の電気を消してくれないか?」と徐ろに僕に頼んだのだった。

当時入社して未だ間も無かった僕は、他のお客さんも居る会場でそんなリクエストをされた事自体初めてだったのだが、大コレクターとして名高いプライス氏のリクエストと来れば、聞かない訳にいかない…。

早速僕は会場の電気を消したり点けたり、調光したりしたが、その最中もジョーさんは立ったりしゃがんだり、近付いたり離れたりしながら作品を眺め続け、「日本の絵画は、『光』の変化でこんなに見え方が変わるんだ!」と僕に教えてくれた。

そして「OK, thank you !」と云う言葉で、僕はその場所を退いたのだが、その3時間位経った閉会間近に再びその場所を訪れると、ジョーさんは未だそこに立って居て、同じ絵を眺めて居た。そしてその姿は「コレクター」と云う人種の1つ真骨頂として、未だに僕の心にずっと残って居る。

そんなジョーさんと、優しくざっくばらんな奥様のエツコさんからの期待に僕が今回何とか応えられたのは、飽く迄も「人の縁」と「タイミング」、そして「作品の持つ力」のお陰と云う他は無い。

話は変わるが、美術品のディールで最も面白く重要な点は、「美術品はお金だけでは買えない」と云う事だと思う。確かに「オークション」は或る意味フェアで、最高金額を出せば、誰でもその作品を手に入れる事が出来る。だが「プライヴェート・セール」(オークションには出品せずに、クリスティーズ代理人と為って相対で取引をする)ではそうは行かない。

が、時に「名品の神」は悪戯を起こし、その意思に拠って名品の方が持ち主を選ぶが如く「移動」をする。そして其処には、必ず「運」「縁」「タイミング」が必ず存在し、詳しくは記さないが、今回のディールに於いても僕はそれを目の当たりにしたのだった。

そんなこんなで、若冲の「鳥獣花木図屏風」や応挙の「虎図」、湖龍斎の「雪中美人図」等を含む、夫妻が愛した190点に及ぶプライス・コレクションは、夫妻の想いを携えて海を越え、里帰りを果たして出光美術館の所蔵と為り、新天地で大切に保管・研究される事と相成った。

この素晴らしい結末に関わった全ての方々に喝采を捧げると共に、来年9月に出光美術館で開催予定の「帰国展」、そして出光佐千子新館長の手腕に期待しながら、今日にダイアリーはお終い。

目出度し、目出度し。

 

ーお知らせー

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

守護天使「ウンベルト」との再会。

ご無沙汰致しました…。

この「トウキョウ・アート・ダイアリー」も、「はてなダイアリー」から「はてなブログ」へと晴れて移行した。

これからも宜しくお願い申し上げ奉りまする。

と云う事で、久々の更新はこれも久々のロンドン出張の事を。

4、5年振りに訪れたロンドンは、ヒースロー空港からの車窓で見る風景も、常宿で有る極めてロンドン的なホテルの、玄関に立つ燕尾服と山高帽で装ったドアマンも、素晴らしい出来のエッグベネディクトも、ガタガタするリフト(エレベーター)も僕の記憶の中のそれとは違わずに、僕を旧い友人の様に迎え入れて呉れた。

さて今回の出張の目的は、印象派・近代絵画オークションにアテンドする事だったが、目玉は個人コレクションからのモネの「睡蓮」とセザンヌの「静物」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/paul-cezanne-1839-1906-nature-morte-de-peches-6190577-details.aspxで、そのセザンヌが僕的には今季の白眉だった。

結果、セザンヌは2120万3750英ポンド(約31億2000万円)で売れ、今季のクリスティーズ・ロンドンの印象派・近代絵画のセール・トータルは、シニャック(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/paul-signac-1863-1935-le-port-au-soleil-6190915-details.aspxやカイユボット(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/gustave-caillebotte-1848-1894-chemin-montant-6190917-details.aspxのアーティスト・レコードを含む、1億6542万4503英ポンド(約243億円)を売り上げ、サザビーズの1億907万4925ポンド(約160億円)に大きく水を開けて終了。

が、今日のダイアリーの主題は其処では無く、タイトル通り僕の嘗ての「守護天使」との再会の事だ。

彼の名前はウンベルト…当年取って82歳の、元イタリア選抜ラグビー選手。今を去る事27年前、僕がクリスティーズ・ロンドンにトレイニーとして入った時に、「19世紀コンチネンタル絵画」部門にイタリアン・クライアント・サービスとして居た社員だ。

さてその年、僕はトレイニーとして印象派・近代絵画、版画、中国美術、そして今はもう存在しない「19世紀コンチネンタル絵画」の各部門に3ヶ月ずつ在籍し、来る日も来る日も作品を額から外してカタログしたり、焼物の状態を調べたりして居た。

その「19世紀コンチネンタル絵画」部門は、印象派以外の19世紀ヨーロッパ絵画、即ちミレーやコロー等のバルビゾン派の画家や、北欧或いはスペイン等の画家達の作品を扱う部署で、見た事も聞いた事も無い画家の名前や画中の当世風俗、そして何よりも最低レヴェルの英語力と、それにイラつく短気な貴族の上司が、僕を毎日毎晩悩ませて居た。

そして僕が毎日の様に、その上司に怒鳴りつけられて居た時に、「守護天使」の如く庇ってくれ、慰めてくれたのがウンベルトで、当時殆ど鬱化して居て、何度辞めようかと思って居た僕が今此処に立って居られるのは、彼のお陰だと云っても過言では無い。

僕がロンドンでのトレイニーを卒業した数年後にクリスティーズを辞め、その後サザビーズに移った末に業界を引退してかなり経つウンベルトが、最近僕のロンドンの同僚にスーパーで偶然出会った時に僕の話と為り、その同僚に連絡先を託したのだった。

そうして僕は、ロンドン滞在最終日のランチタイムに、ウンベルトと再会する事に為った。

カフェに先に来て居たウンベルトは、僕を見つけて立ち上がると破顔一笑し、昔の様に「カツーラ!」と「ツ」にアクセントを付けてイタリア人らしく叫び、今でもガッチリとした身体で僕をハグした。

その後の食事は、お互いの今迄と家族や共通の知人の話、昔話等で彩られ、僕等の間で交わされたジョークも相変わらずだったが、これは27年前と比べた時の、僕の英語力の偉大なる進歩も一役買った筈だ(笑)。

そんな楽しい時間もアッと云う間に過ぎ、別れの時が来た。

僕等は店を出ると握手をし、イタリア式にキスをしハグをして、「また逢う日迄、元気で(Be well, until next time)…」と云った瞬間、僕の眼に何故か涙が溢れた。

ウンベルトにバレない様に眼を拭い、彼の顔を見ると、彼の眼も潤んで居る様に見えたのだが、それは僕らの年齢では感じざるを得ない、「一期一会」の思いそのもので有ったに違いない。

帰りの機内で僕は、携帯に残したウンベルトと肩を組んで撮った写真を眺めた。

人は、それがほんの一瞬でも誰かのお陰で今の生活が有り、人生が有る…何時も忘れがちな、そんな当たり前の事を思い出させて呉れた、ロンドンと守護天使との再会だった。

Be well, Umberto, until next time.

 

ーお知らせー

*3/2に朝日カルチャーセンター新宿校で開催されたレクチャーが、無事終了致しました。ご参加頂いた皆様、有難うございました!4/7迄東京都美術館で開催中の「奇想の系譜展」、是非ご覧下さい!

*来たる3/9(土)、文化放送で11:00~13:00に放送されます「なかじましんや 土曜の穴」(→http://www.joqr.co.jp/ana/に生出演します。お時間のある方は是非!

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。