RAFAEL LOZANO-HEMMER:「TRANSITION STATES」展を観た。

HAUNCH OF VENISONで開催されている上記展覧会を、オフィスを抜け出して観て来た。このアーティストは、メキシコ系カナダ人のデジタル・メディア・アーティストで、筆者にとっては初体験の作家である。

先ず入り口にあった一際眼を惹く作品は、「PULSE SPIRAL 08」。これは300個の電球が天井からシャンデリアの様に吊るされており、その下に両手で持つグリップのある、参加型作品である。両手でグリップを握ってみると、何と自分の心拍が一番下にぶら下がっている「最初の電球」に伝わり、鼓動と共に点滅し始め、それが徐々に広がって行き、最終的に300個の電球が鑑賞者の鼓動に応える。中々スゴくて、ちょっと感動的ですらある。

それに続く作品は、人が通るたびに反応して動く「EXIT」サインボードや、カメラに映る人を色分解してモニターに再現する作品等で、観ても動いても楽しい。これも参加型作品「VOS ALTA VIDEO and PROTOTYPE 08」は、設置してあるトランシーバーに声を掛けると、それを光に変換してライトから発射し、離れた場所にあるラジオからその声が聞こえる、という装置で、現在メキシコ・シティに永久設置が予定されているそうだ。

この作品は例えば太古の昔、人間がコミュニケーションの手段として利用した「狼煙(のろし)」や、戦時中活躍した「光によるモールス信号」を髣髴とさせるが、このアーティストが如何に「先端技術と人間」「アートと人間」「先端技術とアート」の相互性や蓋然性と、コミュニケーション・ツールとしてのアートを注視しているかが窺える。

今回の展覧会で最も気に入った作品、「MAKE OUT, PLASMA VERSION,09」にも全く同じ感想を持った。

この作品は3台の巨大モニターのに各2,400の細分画面を映し出し、その各細分画面には映画やポルノ、U-TUBE等あらゆるメディアから持ってきた男女、ホモ、レズ・カップルの「キス・シーン」が繰り広げられる。瞬間画面が止まるのだが、モニターの前に人が立つと、モニター上の、その人のシルエットに対応する部分の小画面だけが動き出し、画面中の男女、男男、女女が熱烈なキスを始めるのだ。

「キス」自体が人間の最も親密なるコミュニケーションの一つであるという事実、また作品の前に鑑賞者が立つ事によって、初めて唇を貪り始める細分画面中のカップルが、「既存する関係性」に第三者が「介入」する事に因って、新たなる関係性が築かれると云う事を観る者に改めて強く感じさせる、素晴しい作品である。

その他観る者が声を掛け、その声の震動によって、ポリグラフ嘘発見器)がメキシコの革命思想家の顔を描く作品、メキシコとアメリカの国境線が裏面のLEDの移動によって、各々侵食したりされたりする、云わば「不法移民」を象徴した作品、TVレポーターやキャスターを細分画面にマルチ・ディスプレイし、男-女、アメリカ人-メキシコ人等の「境界線」で分けた写真作品(上記「MAKE OUT」のプリント作品)等、このアーティストのもう一つの特徴と云える「政治的作品」も展示されている。

LOZANO-HEMMERは、来年バンクーバーで行われる冬季オリンピックのアート・プロデューサーに為るらしい。

久々の骨太デジタル・メディア・アーティストの出現かも知れない。