宿命の女「形」。

今回の日本滞在は、パフォーマンス・アート三昧で、昨日は十月大歌舞伎に行ってきた。しつこい様だが、この仕事、遊びが必要なのである。ホントです…。

観たのは昼の部(ホントに遊んでばかりでは無いですから…信じて!)で、演目は歌舞伎十八番の内「毛抜」、「蜘蛛の拍子舞」、「河庄」、「音羽獄だんまり」の四狂言である。

先ず最初の「毛抜」はコミカルな荒事で、主役の粂寺弾正は三津五郎。この三津五郎が思いの外良かった!この人の踊りは前から感心していたのだが、演技の方はイマイチと思っていた。だが、今回の彼はコミカルな演技も上手く、隈取りした顔が写楽の「蝦蔵」にそっくりで、中々堂々としていたのだ。

さてこの狂言中、弾正がお姫様を待っている間に面白いシーンが有る。長い間一人で待っている弾正に、先ず美男で若衆姿の、家臣の息子がもてなしにやって来るのだが、弾正は何といきなり、彼を口説きに掛かるのである!あれこれ理由を付けては手を触り、ひいては体を押し付けたりして、300年経ってもやってる事は現代のゲイと何も変わらない(笑)。

結局あっさり振られるのだが、しかしこんな事でめげる弾正ではない。今度は腰元が茶を運んで来るのだが、間髪を入れず、彼女を口説き始める…十分と絶たずに男と女を口説くとは、何と云う奔放さ…江戸時代はスバラシイ!!まぁ役者も三津五郎なので、実生活の色事もダブって見えるのかも知れない(笑)。

「河庄」は藤十郎お得意芸で観てて安心、「暗闘(だんまり)」は松緑長男の大河の初お目見えで盛り上がったが、さて玉三郎の「蜘蛛の拍子舞」である。

玉様、この狂言は彼の為に有ると思う位、本領発揮であった!舞台中照明が落ち、二人の黒子が燭を手に花道に進むと、美しく着飾った白拍子玉三郎が、スッポンからゆっくりと現れる…何と妖艶で綺麗だったのだろう!そして鳴り物に乗り、テンポ良く軽やかに踊り始めるが、実は彼の舞踊の実力は、スローな動きの時に観る事が出来るのだ。腰を入れ非常にゆっくりと、拍を外さずに舞うのは大変難しい(能もおなじ)筈で、また玉三郎の年齢で、激しい歌舞伎舞踊(今回も「反り返り」があった)の最中に、息を整えながらスローモーションであれほど美しく舞えるのは、流石の一言に尽きる。

その後白拍子は、正体を暴かれ土蜘蛛に姿を変える。この時の玉様は本当に恐ろしかった…隈取もスゴク(あんなに怖いのも無い)、口を開けると中が真っ赤で、「妖艶なる恐怖」とでも云おうか。実は筆者は、玉三郎は「本当のお姫様」の役よりも、性悪、蓮っ葉、腹黒い、若しくは恐ろしいと云った役柄の女をやらせたら、最も上手い女形と思っている。そう、玉三郎は「FEMME FATAL」(宿命の女『形』)なのである。

恐ろしい女性は、美しいとは限らない。が、美しい女性は、時に恐ろしい。