玉三郎の「眼の艶」。

日本に着いた途端に、例年よりかなり早い「梅雨入り」…孫一、本当にツイて居る(涙)。

そして株価も昨日1日で730円以上下落し、「アベノミクス」の効果が愈々出て来た…実態経済の無い国等、どんな綺麗事を云ったって、世界の金持ちに其れこそ「従世界経済慰安婦」の如く蹂躙の限りを尽くされる運命なのだ。

そんな中、時差ボケに拠る身体のだるさと、3カ国に亘る暴食生活に拠る体重増加にウンザリして居て、早く解消しようとは思うが、昨日も昼(兜町の旨い蕎麦)夜(銀座の京野菜料理:〆は和風カレー)共顧客との食事で、その想いは儚く潰える(再涙)。

せめて歩こう!と思い、時間を見つけて行った神保町の行き付けの某美術古書店では、以前から欲しかった5巻組の豪華本「高麗茶碗」(中央公論社)を見つけ、骨董好きの店主に値段を聞くと、負けて貰って30万だと云う…ウーム、30万かぁ…。

因みに別の古書店では、バラで13巻程持って居る「日本屏風絵集成」(全17巻:講談社)の全巻揃いが17万8千円。欲しいのに高い、しかし骨董なら迷わず買ってしまう値段だ…再びウーム、マンダム(古っ)で有る。

さて、今日の本題…先月に引き続き、歌舞伎座に行って来た。

歌舞伎座新開場 杮葺落五月大歌舞伎」、選んだのは今回も「第3部」で、その理由は何と云っても、演目が吉右衛門の「景時」、そして玉様と菊之助の「娘道成寺」だったからだ。

歌舞伎座に着くと、超満員の人、人、人…これも玉三郎人気の為せる技か。席に着くと暫くして、最初の狂言「梶原平三誉石切」が始まった。

梶原景時吉右衛門)が鶴岡八幡宮に参拝に来ていると、「青貝師」六郎太夫歌六)が自分の持つ「二ツ胴切」(人の体2体を重ね寝かせて、一刀両断出来る程切れる、と云う鑑定。恐るべき事に、「三ツ胴切」も有るのだ!)名刀を、菊五郎扮する大庭景親に三百両で買って貰う為にやって来る。

景時が名刀だと鑑定したにも関わらず、景親の手下が「試し斬りをせずには買えない」と云うと、どうしても金の必要な太夫は、自分の体を試し斬りに差し出すが、景時の機転と技で太夫の命は助かり、名刀は景時の物と為ると云う目出度い演目で有る。

未だ知識浅くも、オークションでも扱う「刀」が主役のこの舞台、吉右衛門が鑑定する際の所作や、義太夫に有る「切先」や「帽子」等の刀の見処を示す刀剣用語、青貝の拵も興味深いが、何しろ吉右衛門の演技が兎に角素晴らしい!播磨屋は、この景時や盛綱の様な誠実な役をやらせたら、文句無く「当代一」では無いだろうか?

また吉右衛門菊五郎の共演は、この狂言では反りの合わない同士の役柄だったが、実生活ではお互いの子供同士が結婚した事も有って、観る方も微笑ましいやら「実は反りが合わないんじゃないのか?」と勘繰るやらで(笑)、実生活と舞台のシンクロをも十二分に楽しんだ末、最後は石の手水鉢が一刀両断され「石切」は終了。

幕間に吉兆さんの美味しいお弁当を頂くと、さて愈々「京鹿子娘二人道成寺」だ!

しかし、今回程開幕前に場内に溢れる「期待感」を感じたのも珍しい…それは、新歌舞伎座の杮落し公演で舞う、大和屋坂東玉三郎その人への期待で有ったのだが、結果から云えばその期待は、最後の最後迄裏切られる事は無かったので有る!

本当に綺麗な菊之助が花道から現れ、華やかな踊りを披露して暫くすると、「すっぽん」から玉三郎が登場し、場内は万雷の大喝采!歌舞伎慣れしている筆者も、思わず興奮してしまった程で、音羽屋のふくよかな身体と可愛らしい顔、大和屋の細く嫋やかな身体と細面の美しい顔…この今最も美しい2人の女形の肉体が重なり合う踊りは、何とも幻想的且つ倒錯的で、この2人に言い寄られたら、筆者は間髪を入れずに「衆道」への扉を開け放って仕舞うだろう(笑)。

何度も衣装が変わる、この豪華絢爛な2人の「娘二人道成寺」を観たのは2回目なのだが、イヤイヤ今回の大和屋は本当に凄かった!

2人を比べる事自体が菊之助に可哀想なのだが、しかし菊之助より遥かに優れている玉三郎の踊りの、芯のぶれない美しさや指先迄行き届いた神経、小顔でスラッとした出で立ち、そして残念ながら菊之助に無く、玉三郎にこそ有ったのが「『眼』の艶」で有った。

道成寺を訪れた白拍子の、「鐘」への執着は強く凄まじい。その執着を、無表情で華やかな、そして或る意味「人形」的に表現する歌舞伎舞踊と云う「型」の中で、「眼」でのみ執着を表現する玉三郎は本当にスゴい。

特に最後の「鐘入」の段に為って、キッと鐘を睨んだ時のその大和屋の眼は、隣の音羽屋の優しい眼差しとは対象的にそれはそれは恐ろしい物で、M気の有る筆者は「あぁ、あんな眼で睨まれてみたい…」と背筋がゾクッとした程だった(笑)。

終演後、筆者が「眼がスゴい!」を連発していたら、隣に座っていた和服姿の粋なオバアサマ(「プロ」だな…あのお婆ちゃん)が筆者に向かって、「流石ねぇ…玉さんは『目尻』で踊るのよ!」と云うので意気投合したのだが、大和屋の「『眼』の艶」は誰にも真似が出来ない芸当なのだ。

或る筋に拠ると、玉三郎は「娘道成寺」を1人で25日間踊る事は、体力的にもう無理だと云う…しかし、そんな事は誰にも何時の日かやって来るのだから、我々は大和屋の「今」の至高の芸を堪能すれば良い。

今回は、何しろ素晴らしい大和屋の「眼」と踊りを堪能した訳だが、この「娘道成寺」のオリジンは、無表情な面を掛けて執着を表現する能「道成寺」。

その「道成寺」は、来月観世流の若手能楽師坂口貴信君の「披き」を観世能楽堂で観る予定…然もその日の番組には、此方も人気歌舞伎狂言勧進帳」のオリジンで有る「安宅」が、観世清和宗家に拠って演能される。

能と歌舞伎と云う、異なる発展を見た2つの芸術を観る楽しみは、こう云った処にも有るのだ…今から超楽しみだ!