D氏の「TEA GATHERING」。

昨日はオークション後は、筆者の顧客でもあり、NYのお茶の世界の重鎮である米国人D氏夫妻主催の、遠州流家元歓迎ディナーに、夫婦で御呼ばれであった。

場所は55丁目の高級レストラン「MICHAEL'S」、ここの屋根付きテラス席を借り切っての、着席ディナーである。メンバーは小堀宗実家元ご夫妻、主催者D氏夫妻、茶人G氏、ジャパン・ソサエティー理事長のS氏夫妻、同ギャラリー・ディレクターのE夫妻、目利き古美術商Y氏、筆者夫妻など総勢18名であった。

食事前には、バーカウンターが出てカクテルを楽しむ。酒を飲まない筆者は、フォアグラやシュリンプ・フライ等のフィンガー・フードがかなり美味しく、食べ過ぎたのだが、これもオークションの結果が良かったからかも知れない。そうしていると、D氏が桐箱を二つ持って現れた。聞くと、一つは黒織部茶碗で、家元のお祖父様の箱書きが有る物、もう一つは「遠州茶杓」であった。そもそもこの食事会は、D氏のお宅で行い、その後D氏の茶室でお茶をやる、と云うのがそもそものアイディアだったのだが、生憎D氏のお宅のビルに酷い雨漏れがあり、大工事中の為急遽レストランに変更になったので、D氏が家元所縁の道具を持参したのであった。

D氏の声で皆席に着き、ディナーがスタート。先ずはシャンパンで乾杯、D氏がウエルカム・スピーチをする。話を聞くと、D氏が始めて家元に会ったのは、筆者も良く行く東京の「O」というレストラン(拙ダイアリー「栗のスフレと歌謡曲ナイト」参照)のカウンターで、隣り合わせたらしい。人の縁は不思議なものである・・・。因みにその時D氏はP夫人と、古美術商(拙ダイアリー「愛しの女神さま」参照)と一緒だったそうで、これぞ人間「相目利き」状態。食事は先ずアペタイザーの「マッシュルーム・リゾット」が出され、その後メインのシー・バス、デザートのチョコレート・スフレまで新鮮で中々美味しかった。

デザートの頃家元がご挨拶されると、自身でご持参の茶箱を開け、家元ご自身に拠る点茶の準備をされる。お菓子は、家元と共に到来の「鍵善製遠州印形干菓子」、これは遠州が使用していた印章数種類を干菓子に象った物だとの事。また建水が無かったのでゴミ箱を使ったのだが、濯ぎ湯を落とすたびに「ジャーッ」と音がしたのも、一興。点茶は和気藹々と進み、家元ご夫妻を除く全てのゲストにお茶が行き渡ると、家元は「それでは何方かに、私たちの分を点てて貰いましょう」と仰る。そこでD氏の奥さんのP夫人が点てる事となったが、何とも良い和やかな雰囲気であった。

最後にD氏がまた挨拶をし、散会。小雨の振る、寒い夜道を地獄宮殿まで帰ったのだが、さっきまでNY・ミッドタウンの高級イタリアン・レストランに居たにも拘らず、まるで本当に素晴しい茶会に行った様な、暖かい気分であった。これも「亭主」、いや「ホスト」であるD氏夫妻の持成しの気持ちが、本当に暖かかったからであろう。

D氏の茶人の心は、イタリアン・レストランでの「TEA GATHERING」でも、十二分に発揮されたのである。