「印象派・近代絵画」下見会@サザビーズ&クリスティーズ。

金曜の夜は、東京・NYで現代美術を中心とした展覧会やイベントのアート情報を提供する、ウェッブサイトを運営しているK君と、居酒屋「R」で食事。

K君はN高からT大と云う、所謂日本のエリート・コースを辿ったにも拘らず、アート・ビジネスに目覚め、NYで奮闘している若者である。彼との話は「最新」の現代美術から、日本の古美術業界の「体質の古さ」まで行ったり来たりし、非常に楽しい時を過ごす事が出来た。

さて食事が終わり、夜中前に「R」を出ると、そこに日本人の集団がたむろしていた。何気なく眺めると見たような顔が有り、誰かと思ったら「SMAP」の中居君で、その後これも名前は知らないが、見た事の有るお笑いタレントと野球選手(多分ホワイトソックスの福留選手)が、「R」の二階から下りて来て彼らと合流、マイクロバスに乗って走り去って行った。どうも「R」の二階で飲んでいたらしい(結構シャビー…笑)。中居君は有名な巨人ファンだから、ワールド・シリーズの松井でも取材しに来たのかも知れない。まぁ筆者にとっても、どうでも良い話だが(笑)。

さてもう11月、早くも秋のメイン・セールの季節である(あぁ、もう今年も終わりだ・・・)。明日の日曜が「NYCマラソン」の為、マンハッタンでは道路閉鎖でほぼ身動きが取れなくなってしまう事も有り、今日の内に、来週両オークション・ハウスでセール開催予定の「Impressionist & Modern Art」下見会へ行ってきた。毎年マラソンがこの時期に重なるので、「走る事」に全く興味の無い筆者(を含めた、殆どのアート関係者)には全く迷惑千万の話であるが、仕方ない…。

先ずサザビーズ。鑑賞中に知り合いのディーラー2人(某世界的画廊「W」の日本代表M氏、日本での老舗印象派画廊「T」のパリ支店長M氏)と次々にバッタリ会い、四方山話。勿論トピックはNYの景気、このシーズンの売れ行き予想であったが、どうも日本の状況は未だ辛いらしい…。

それはさて置き、サザビーズのイブニング・セールには68作品が出品予定で、落札予想価格が最も高い作品は、ジャコメッティのブロンズ「L'Homme qui chavire」(転倒しそうな男)と、ピカソの「Buste d'Homme」(男の半身像)で各々800万ー1,200万ドル。

ピカソのこの作品はハッキリ云って「最低」だが、ジャコメッティは素晴しい!彼の「直立不動」の彫刻は良く眼にするし、この作品も針金を纏めた様な、典型的「極細」ブロンズでは有るが、「フラッ」と倒れそうに腕を振り上げ、体は斜めに歪んでいる。展示の仕方も良く考えられていて、作品を白い台の端っこに置き、斜め上から光を当てる事に因って、振り上げた腕と曲がったボディの美しい曲線の「影」を、白い台の余白に映し出していた。ウーム、流石である。但し、値段が付いて行くかどうかは、大きな疑問であるが。

ジャコメッティはその他にも、もう一点のブロンズ「Buste de Diego」(150−200万ドル)、絵画「Tete d'Homme」(これも150−200万ドル)が出品され、これらは須らく質の高い作品で、同オークションに出品されている他の如何なるアーティスト・作品よりも、疑いなく素晴しい。ジャコメッティは「近代と現代を繋ぐ」作家として、美術史上またマーケット的にも、これから益々重要な地位を占めて行くだろう。

タクシーに乗り、次のクリスティーズへ。

こちらのイブニング・セール出品数は、40点。「少数精鋭」とい云えば聞こえは良いが、内容的にもちょっとサザビーズに圧され気味である様に見えた。トップ・ロットはサザビーズ同様、こちらもピカソの1943年作品「Tete de Femme」(女性の半身像)で、700−1,000万ドル、そしてもう一点ドガパステル、「Danseuses」(踊り子たち)。

来歴に拠るとこの作品は、嘗て日本に在った物らしいが、エスティメイトは700−900万ドル。筆者的には、こちらのピカソサザビーズのそれより相当良い作品だが、価格がどうか、である。その他眼を惹いた作品では、1926年のモンドリアン「Composition II, with red」(450−650万ドル)。これは状態も良く、中々魅力的な作品であった。此方にもジャコメッティのブロンズ(女性立像)が一点有るが、これはソコソコの物であった。

元来印象派作品に、殆ど興味が無い筆者にとっては、翌週の現代美術の方がハッキリ云って楽しみなのだが、しかしこういった経済状況の時は、現代美術よりも評価の定まった「世界の古美術」や、「印象派」の方にお金が流れる傾向が有るので、セールの結果には注視せねばならない。その結果が、現代美術マーケットに大きな影響を与えるのだから。

あぁ、何時の日かジャコメッティ欲しいなぁ…(嘆息)。