「能」的ハロウィーンのススメ。

今日は、先ずはお知らせから…僕が「アートの深層」を連載中の、Gift社「Dress」12月号が本日発売されます!

今月号では、そのレギュラー連載の他に特別企画「贅沢必需品―アートと暮らせば人生が変わる!」をスーパーヴァイズ。平野啓一郎・春香ご夫妻のアートの有る生活+山本現代の山本裕子さん、現代美術コレクターの島林秀行氏、ライター&古美術コレクターの橋本麻里さんとの必読座談会も…是非ご一読下さい!

さて秋も深まり、気温も徐々に下がって来たニューヨーク。そんな中水曜の夜は、ピナ・バウシュの公演「Kontakthof」を観にBAM(Brooklyn Academy of Music)へ。

ピナの映画は3年前にヴィム・ヴェンダース監督の「PINA」(拙ダイアリー:「Qui était Pina ?…ピナとは何者であったか?」参照)を観ているが、公演は4年前に観た「Vollmond」(同「ピナ・バウシュの『水の舞台』」参照)以来。

期待をして行ったのだが、残念ながら1970年代後半に創られたこの舞台は、僕に取っては冗長で、インターミッションの時に劇場を出て仕舞うと云う、METオペラでの「テンペスト」以来の残念さで有った(同「『ハリケーン』直後の『テンペスト』と、暗闇レストラン」参照)…。

そしてオークション・ハウスでは、秋のメインセールの下見会が始まった。

今秋のクリスティーズサザビーズを比較すると、端的に云えば印象派サザビーズが、現代美術はクリスティーズの方が強いラインナップと云えると思うが、先ずは来週セールが開催される印象派で有る。

74点をオファーするサザビーズの「イヴニング」のトップ・ロットは、1890年6月16−17日制作、「手に入る、最後の大静物画」と謳われたゴッホの「静物ヒナギクヒナゲシ」で、エスティメイトは3千万−5千万ドル(約3300億−5500億円)…やや下中央に有る花の、かなりの厚塗りの赤が強烈な印象を与える作品だ。

ゴッホと云えば日本人、と云う位、「ひまわり」や「医師ガシェの肖像」に信じられない金額を使った日本人だが、今回の「静物ヒナギクヒナゲシ」を買える日本人が出て来るだろうか…?

が、今シーズンの「印象派イヴニング」出品される如何なる作品の中でも個人的白眉はと聞かれれば、サザビーズに出品されるモディリアニの石像、「Tête(頭部)」(→http://www.sothebys.com/en/auctions/ecatalogue/2014/impressionist-modern-art-evening-sale-n09219/lot.8.html)に為るだろう!

ライムストーン(石灰岩)から彫り出され、英国の画家オーガスタス・ジョン(1878-1961)がモディリアニから直接買ったと云われる本作は、何しろ気品に溢れ、優美で力強く、今観ても甚だ現代的な大名品で、僕にお金が有ったら即買いの逸品だ!

このモディリアニと、ジャコメッティの「チャリオット(二輪戦車)」の2作品が「Estimate on Request」で、後モネの風景画2点を含めての計5点が、1000万ドル超のエスティメイト作品と為っている。

それに対して今回のクリスティーズは、40ロットのみのオファーで、トップ・ロットはマネの「春」(2500万ー3500万ドル)。が、この作品以外に1000万ドル以上の作品はと云うと、レジェの1点のみで少し寂しい…。

そんなこんなで来週の僕の興味は、他社作品では有るけれど、モディリアニとゴッホの落札価格に向かう訳だが、此処からが今日の本題…昨日は「ハロウィーン」で有った。

NYでも勿論ハロウィーンは大盛況で、ダウンタウンで行われるパレードも有名だけれど、街や会社にDisguise(変装)して現れる他人や同僚、隣人達の、余りに子供じみた行動にウンザリしながらも、日本人たる僕は作り笑いを浮かべて「Happy Halloween!」と云うしかないのが辛い(笑)。

なので、昨晩はダウンタウンでのパレードも観ずに、JSディレクターのT女史と食事後、リンカーン・センターでゴダールの新作を一緒に観て来たと云う、10人を超える若手中心のアーティストや写真家、建築家、作曲家、映画研究者等達が集うタイ料理屋に赴き、アートを語らう。

が、そんなハロウィーンの前日、仕事で某外国人日本美術ディーラーのギャラリーを訪ねたら、薄着の幽霊が描かれた対幅が掛かっていて、しかもその表具には子供の玩具が描かれて居たりして、当に「ハロウィーン」な室礼で感心したが、日本は夏、此方は秋と季節は異なるとは云え、幽霊や亡霊を除ける行事は世界何処にでも有るのだろう…と、其処でふと思いだしたのが「お能」である(笑)。

ハロウィーンの起源が元々ケルトの「悪霊除け」ならば、能にも「葵上」や「道成寺」等の演目が有るし、ハロウィーンの日に死者の霊が訪ねて来るなら、諸国一見の僧の元を訪ねる亡霊も然り。

そして日本では、「エクソシスト」的に悪霊を毛嫌いし退治して仕舞う外国とは違い、歴史的にどちらかと云うと、能の物語の様に悪霊の気持ち(笑)を理解した上、諭して成仏させたり、若しくは天神様の様に神社を建てて悪霊を宥め鎮めたりして、或い意味霊との共存の道を取る事が多い…それは、節分時に「鬼も内、福も内」と云って豆を投げる地方が未だに有る事からも自明だろう。

そこで思うのが、何故ハロウィンを祝う日本人は、日本人の癖にドラキュラやジェイソン等の「外国キャラ」のコスチュームに身を包むのだろう?誰か鬼面を掛けたり、白装束を着て足を隠す幽霊に為ったりする人は居ないのだろうか?

と云う事で、来年のハロウィーン・パレードには僕も「日本代表」として、「陰陽師」の衣装か「般若」面でも掛けて参加してみようか…等と本気で考えた(笑)、そぼ降る雨の寒いハロウィーンの夜でした。