「OMA」訪問。

予てよりお招きを受けていたのだが、昨日漸くオフィスを抜け出して、友人の建築家、重松象平氏がパートナーを勤める、OMA(Office for Metropolitan Architecture)の事務所を訪ねた。

OMAは、世界的建築家(思想家)、レム・コールハースの事務所として著名だが、重松氏はその日本人初のパートナーで、最近では北京の中国中央電子台(CCTV)本社ビル等をデザインした、「サムライ・アーキテクト」である。

OMAの事務所はトライベッカ地区にあるのだが、ヴァリック・ストリートと云う一風変わった場所にある。事務所の入って居るビルは、外観は何の変哲も無いテナントビルだが、テナントにはモデル・エージェンシーやデザイン事務所、そしてOMAのある13階には若手フィルムメーカーの聖地、「サンダンス・インスティテュート」もあり、やはり何処と無くアートの香りが漂う、質実剛健且つミニマルなビルディングである。13階でエレベーターを降りた時には、映画「MATRIX」の「キー・メイカー」が出て来そうな雰囲気も、少し感じた。

事務所を訪ねると、重松氏自らがお出迎えして下さった。此処の所、夜は良くお会いしているのだが、やはり昼間に仕事場で会うと雰囲気が違う…と云いたい所だが、何時もと余り変わらない(笑)。打ち合わせをしている時等は、きっと別人なのだろう。

コーヒーを頂いた後、重松氏より事務所の案内を受ける。大小、数多くのモデルやパネルが事務所の至る所に置かれ、そのモデルも、非常に抽象的な物から細密な物まで有り、目が奪われっぱなし。最近コンペに提出したばかりと云う、或る美術館の精密なモデルは、「建築ド素人」の筆者にさえも、その周辺の景観や立地を容易に理解させ、プラス重松氏の説明により、これも非常に簡潔にその建築物のコンセプトや外観、概要を理解させる「力」が有る。

元来子供の時の「レゴ」や「城のプラモデル」、大人になってからのソル・ルウィット作品等との邂逅以来、建築模型に趣味的興味を持っていた筆者にとっては、「成る程、建築模型とはこういう意味の物だったのか」と、得心したのであった。

さて重松氏には、現在進行中の建築物や「コンペで負けた」プロジェクト迄、非常に丁寧に説明して頂いたのだが、流石、と思ったのは彼の説明の巧さである。

モデルの簡潔さと同様に、氏の説明も至って簡潔であり、筆者は他の建築事務所を数多知っている訳では無いが、これは重松氏、延いてはOMAの秀でた部分なのでは無いだろうか。美術品売買も同じであるが、注文をして来るクライアントが「素人」の場合も多々有る筈で、コンセプトや形状の重要性を、そのクライアントに如何に正しく明快に理解させられるかという技術が、建築の場面場面でも必要不可欠で有るに違い無い。

それでもアートと建築の最も大きな違いは、やはり「商業性」と「機能性」の有無だと思うので、建築の場合、例えば数字やデータが多用される様な、よりロジカルなプレゼンテーションが必要な筈で、それには「簡潔さ」が最も重要なファクターになるのも納得できる。

筆者にそれを感得させたのは、事務所を後にする時に非常に強く感じた、事務所の「静けさ」であった。倉庫の様な広いスクエアな空間、高い天井、白い壁、直線平行に並べられた机、全てが「自然」且つ「簡潔」に纏まっている。その「簡潔な空間」に流れる「簡潔な静寂」は、コールハースと云う「鬼」の居ぬ間、と云う事なのかも知れないが、このOMAと云う建築事務所の社風、スタッフ、そして重松氏の「簡潔さの象徴」で有るように思ったのだった。

重松さん、お忙しい中ご案内頂き、有難う御座いました。これからも「サムライ・アーキテクト」としてのご活躍を、期待しております!