窓の外に降る雪を眺めながら、「愛国と憂国」に就いて語るのは野蛮である…か?

3月のオークションに向けての、カタログ制作も段々と忙しくなってきた。

今回は作品ラインナップがかなり素晴しく、日を追って詳しくお伝えするが、絵画・漆芸・陶磁器・版画・甲冑・刀剣・能面・明治工芸品(七宝・ブロンズ)等、各カテゴリーで個人コレクションも多く、バラエティ・クオリティ共素晴しい…と自画自賛(笑)。

それに加え、社全体に取ってのVIPクライアントのコレクションに関する会議や、各種アプレーザルで忙殺される。そして本当は明日、某国内北部都市に飛ぶ筈だったのだが、大雪警報により2日前にも拘らずフライトがキャンセル。腰の為には有り難いが、ビジネスとしては嬉しい様な悲しい様な…である。

さて昨夜は、友人の建築家Sの方から珍しく連絡があり、知人の写真家S氏と奥さんの女優Mさんのカップルと食事をするので来ないか、とのお誘いがあった。大雪の予報が出ていたのでどうかとも思ったが、その理由で何も予定を入れていなかった事も有り、喜んでゲル妻と参加させて頂く事とした。そう云えば、Sと云えば去年「TEDxEAST」でのレクチュアラーに選ばれ、最近そのヴィデオを観たのだが、これが本当に素晴しい(http://www.google.co.jp/url?q=http://www.youtube.com/watch%3Fv%3DMusbY0yUDPU&sa=U&ei=XBEuTcSxL8Wt8Aa5l-mYCg&ved=0CA8QtwIwAA&usg=AFQjCNGcXxfxSEzL-Sdz8iHGpw6npMB03g)!日頃余りに親しくしているので、時に彼がレム・コールハースのビジネス・パートナーで「OMA・ニューヨーク」を任されている事実、ハーヴァードで教えている事実等を失念してしまうのだが、このレクチャーを観れば彼の「実力」を垣間見る事が出来る。ユーモア溢れる内容と完璧な英語、こう云う男こそ「世界で戦う日本代表選手」として取り上げられるべきであるので、是非ご覧頂きたい。

本題に戻る。昨日のディナーだが、このS、持ち上げておいて落とす訳では無いが(笑)、相変わらず「切り札」レストランが無いらしく、結局我等が良く行く、ダウンタウンに在るこじんまりとしたブラジル料理店「C」へ行く事に。

小雪が舞い散る中「C」に着くと、暫くして写真家S氏カップルが到着…「初めまして」と挨拶すると、S氏が「この間日本某所でお目に掛かりました!」と仰る。聞くと確かに其処でお会いしており、何ともご縁であった。隣に佇む奥様のSさんも相変わらずお美しく、お二人は未だ新婚だそうで何処と無く初々しい…そうこうしている内にSも登場し、ディナーとなった。

この「C」はブラジル料理と云ってもシュラスコとは違い、家庭的な料理を出す店である。そもそもは友人のアーティスト、オスカール大岩氏に紹介された店なのだが、我々の「お気に」の店になっているのである。名物料理を色々と頼んで、先ずはカイピリーニャで乾杯。食事中もオラファー・エリアソン、最近のミニマル・アートやベルリン、杉本博司村上隆等の日本人現代美術家とその作品、「コミッション・ワーク」の限界等に関する色々なアート話、安藤忠雄等の日本の美術館やその他の建築話で盛り上がるが、或る時から何故か話がググーッと「右」に寄って来て、「尖閣問題」に端を発し、防衛問題、愛国心憂国の心や一般参賀内閣改造等の話になる。

そんな中でイケメンS氏は、未だお若いのに憂国の志を持っているらしく、真剣な眼差しでご自身の考えを、眼前の「サヨク」代表Sと「ウヨク」代表の筆者に訴える。そして「右のまた右は、左」「左のまた左は、右」、「両手を腰周りでグルッと回すと、背中でぶつかり両手を結ぶ事が出来る」と云う思想を、皆で分かち合ったのだった(笑)。

皆時間を忘れて食べ喋っていたが、ふと気が付いて外を見ると「こんこん」と云う表現がピッタリな程、雪が降り積もっていた。ダウンタウンの裏道の角に建つ、小さな一軒屋のレストランの大きな窓から見る、白く化粧された道や街路樹、半分雪に埋もれた車ですら余りにロマンティックで、上に記した「TED」レクチャーを観たばかりであった筆者は、隣に座るSを思わず好きになってしまいそうであった(笑)。

そして11時過ぎに店を出ると、外は一面白銀の世界…ゴースト・タウンの様に静かになった通りで、やっとの事で「白タク」を捕まるとそこでSとは別れ、写真家夫妻をホテルで降ろし帰宅。御蔭で酷かった時差ボケも、大分解消した。

窓の外に降る雪を眺めながら、「愛国と憂国」に就いて語るのは「叙情的」である(福田和也先生、ゴメンなさい)。