「聞きしより、見て美しき地獄かな」。

昨晩東京に帰って来た。関西出張は楽しかったが(特に京都は…笑)、作品集めとしてはイマイチだったので、疲労感が強い。大阪のある顧客が、良い屏風を持っていると云うので、カムバックせねばならないだろうが。

がしかし、今朝一番に会った顧客から、名品をゲットした!最近京博でも大展覧会が行われた、鬼才絵師「河鍋暁斎」の絹本著色金銀彩の大幅、「地獄太夫」である。

観た者にしか解らないと思うが、何しろこの作品は実に凄い構図なのだ。「琳派風銀地秋草図屏風」をバックに、絢爛且つ狂った「地獄変相図」柄の着物を纏った、美しい遊女が画面中央に立つ。彼女の廻りには、野晒し(骸骨)の三味線等の囃子方を配し、そして極め付けは、その遊女の脇の三味線骸骨の頭の上で踊り狂う、暁斎も学んだ「狩野派」風で描かれた「一休禅師」なのである。

時は室町時代武家に生まれた少女は山賊に誘拐されるが、余りの美貌の為、堺の遊女屋に売られる。遊女となった彼女は、現世の身の不幸は、前世の不徳が為と、自ら「地獄」と名乗る。
ある日、「地獄」の美しさを聞き付けた一休が「地獄」に会いに来るが、一休はその美貌に、上記タイトルの歌を以て嘆賞する。「地獄」は其れに対し「生き来る人の、落ちざらめやも」と続け、これまた「地獄」の教養の高さに驚いた一休は、「地獄」と禅の師弟関係を結ぶ事となるのだが、その後「地獄」は若死にし、一休がその最期を看取ったと云われている。

以上が「地獄太夫」の解題であるが、暁斎はその卓抜した筆遣いを以て、この余りに興味深い「地獄」と「一休」の邂逅を、得意の偕謔味を加えて、余す所無く描き出している。

付けたエスティメイトは、25万ー35万ドル。めぐり逢った「大名品」、頑張って高く売りたいモノである。