深夜の「ガチ稽古」@地獄宮殿。

昨日、2週間半振りにニューヨークに戻って来た。

東京での下見会には、2日間で250人近くの人が来場し、お陰様で大成功。これなら東京での下見会をやる価値も有ろう物だ…来場した下さった方々に大感謝である。

そして昨日、疲れで重い体を引き摺って搭乗したANA10便では、雑誌連載の原稿を仕上げた後、イーストウッドの新作「Hereafter」を観た。

あの「スーパー・リアリスト」なイーストウッドが、何故今更「死後の世界」なのだ?と訝ったのも束の間、確かにこの作品は「死後の世界」をメイン・テーマとして扱っては居る物の、それは飽く迄も表面的テーマに過ぎず、これは普通の人と色々な意味で異なる「異端者」が、実社会で(逆)差別されながらも、自分を如何に社会にアジャストするかを悩みながら生活し、そしてその「異端者」達が如何にして「真のパートナー」を得るか、と云う話なのであった。イーストウッド作品としては、全体的に非常にサラッとした作りで少し驚いたが、後味もかなり良く、好きな作品であった。因みに「フランス女性『数寄』」としては、キャスター役のセシル・ド・フランスが、大変にステキであった事を付け加えておきたい。

12時間半のフライト後、ハンドキャリーした作品の為、更に重くなった体を引き摺って税関に立ち寄った後、外に出るとニューヨークは雨…迎えの車から久し振りに見るマンハッタンは、煙っていた。自宅に着くと、昼間は仮眠したりして時差ボケと闘っていたが、夜は眠い眼を擦りながらも、友人達とのディナーの為に、チェルシーに在る行き付けのレストラン「B」に赴く。昨晩のメンバーは、日本からお仕事で来米していたお茶の家元S氏、ドナルド・キーン・センターのA氏、日頃仲良くしている友人且つS氏のお弟子さんのクラシック・ギタリストM君と、これまたお弟子さんで現在マンハッタン音楽院で勉強中のF君、そして我等地獄夫婦である。

S氏とは東京での下見会でお会いして以来、M君&F君とは久し振り、A氏とは「B」でバッタリ会って以来であったが、食事中は「最近の『骨董めっけもの』」や、「骨董屋さんの『恐い話』」等の話で盛り上がり、信じられない話だが、S氏が我々と一緒に行くのは初めてと云う「B」の、美味しいパスタやデザートで大満足。食事が済むと、S氏が翌日帰国される事や筆者の時差ボケも手伝って、これでお開き…と思ったのだが、「せっかくだから」と云う事で、全員でヘルズ・キッチンに在るわが庵「地獄宮殿」に赴き、急遽「深夜茶会」をする事となった。

地獄妻は猛ダッシュで部屋を片付け、拙い茶道具を出してお湯を沸かす。その間残りの面々は、宮殿のライブラリーに眼を走らせて、最近韓国で開催された「高麗仏画」や茶道関連の展覧会図録等を抜き取っては眺め、勉強会。そうこうしている内に準備が整い、全員がテーブルに着くと、M君のアルバムやポリーニのバッハをBGMに、茶会はスタート。そこで、誰がお点前をするかが問題に為ったが、お家元の指示に拠り、先ずはF君、そして次にM君のお点前と決定。

さて、云う迄も無いが、如何なる分野でも師匠と弟子の関係は厳しい。況してや日頃ニューヨークにいて、お家元に中々稽古をして貰えない弟子からすると、余りにも緊張の一瞬であろう…。お点前をする事を告げられたF君とM君の顔は徐々に蒼醒め、そうして地獄宮殿での深夜の「茶会」は、一瞬内にしてガチな「地獄稽古」と化したのであった(笑)。

お稽古で覚えた事を、一生懸命思い出しながら「盆点前」するF君とM君…そしてそれを厳しい目で追うS氏(→http://murajisoichi.blogspot.com/)。袱紗捌きや棗の持ち方、茶碗の温め具合等をS氏が指導する中、「フリーダ・カーロ」が見下ろす、シャンデリアの下で繰り広げられた「深夜稽古」は、厳しいながらも愛情に満ち、日本から持参した「たねや」の「桜饅頭」や鶴屋吉信の「ブルーベリー餅」を頬張り、「殿」の茶碗で頂いた薄茶は、ほっこりとした時間を我々に与えてくれた。

こうして厳しくも楽しい「地獄茶会」、もとい「地獄稽古」は、深夜一時前に終了。

そして今朝、S氏は帰国の途に着き、筆者は耐えられない程の眠気と闘いながら、留守中の書類の山やミーティングと格闘…これもまた、ひとつの「地獄」である(笑)。