日本の信用。

日本でも当然かなり報道されているだろうが、アメリカでは「TOYOTA」がエラい事になっている。

TOYOTAは毎週金曜の朝、当社のお隣さんであるNBCの朝の番組「TODAY」の「大物アーティストによるライヴ」のコーナー・スポンサーをしているのだが、その番組のニュース・コーナーでの扱いもトップ、公聴会も開かれ「奢れる平家は久しからず」と云う論調も多い。

TOYOTAは云うまでも無く、「SONY」の後継者としての「アメリカでの『日本の顔』」である。その「顔」が潰れかけているこの事態は、同時に「日本の信頼」を潰しかかっていると云っても過言では無いだろう。

さて昨晩は、筆者がここ数年レクチャーをしている「日本クラブ・カルチャー・センター」の、「講師謝恩新年会」に呼ばれて行って来た。

この「日本クラブ」は在NYの日本企業が中心となった非営利団体で、所謂「在NY日本商工会議所」で、この組織は日系企業アメリ現地法人(例えば、TOYOTA MOTOR NORTH AMERICA等)のCEO達が役員となって運営しており、「カルチャー・コース」は朝日新聞の全面協力の下「朝日カルチャー・コース」として、駐在員の家族を中心とした会員から会費を取りながら、「日本クラブ」が主宰する教養講座なのである。

筆者は此処で「日本美術とオークション」と云う講座を持っているのだが、このクラスでは、教室での日本美術に関わる勉強のみならず、生徒さんにオークション・プレビューに実際に来て貰い、作品を観て手で触って勉強したり、メトロポリタン美術館の日本美術のギャラリー・ツアーをしたりしている。

昨晩の会には、日系企業人に拠る「カルチャー・センター・アドバイザー」なる方々も出席していて、まずその方達の挨拶から始まった。

某民放局のアメリカ法人社長、某電気メーカーの方、そしてTOYOTAの方等が居らし、TOYOTAの方などは、挨拶の時に我々にまで「大変なご迷惑をお掛けしております…」と、深々と頭を下げられた。少々可哀想であったが、「日本の信用」を潰しつつ有ると云う責任の重さに苦悩している様子が、手に取るように感じられた。

さて、本題は此処からだ。

「日本クラブ」の専務理事の方に拠ると、昨年度の講座の受講者が一昨年に比べ30%減ったと云う事で、我々講師の挨拶時に「カルチャー講座を良くするアイディアを、是非一言ずつ」との話になった。講師のスピーチは、駐在員妻向けのアロマや手芸、ダンス、華道、茶道等の講師方の挨拶やアイディアの紹介を経て、筆者の番…そしてずっと思っていた事を「率直に」話させて頂いた。

それは、先ず「カルチャー・コース」は夜や週末もやっているのに、何故殆ど男性の受講者がいないのか?と云う事だ。これは「男性向けの講座が無い」のが大きな理由で有るが、主催する日本クラブ自体が、何処か「カルチャー・コースは女性向け」と考えているからで有ろう。また仮に「男性向け講座」を開設しても、忙しい男性会員はとても「カルチャー」等には時間は割けない、と云う事になっているが、それは「嘘」である。

この「嘘である」が嘘だと思うなら、週末にミッドタウン・イーストに点在する「ピアノ・バー」に行って見るが良い…。大概の店はこの不景気でも、日系企業駐在員で「満員」だからだ。

さて此処で「ピアノ・バー」と云う場所をご存知ない方の為に説明すると、この「ピアノ・バー」とは「在NY日系企業駐在者向け」の「日本人女性が勤めるクラブやキャバクラ」の総称で、この変わった呼び名は、嘗てこう云った店には必ず「ピアノ」が有った事に由来しているのだが、廉価版から高級版まで、今マンハッタンに恐らく10軒近くは存在するのでは無いだろうか…。

そして「嘘である」根拠はこう云った事からも判る様に、日系駐在員が「ピアノ・バー」と「ゴルフ」には、金と時間を「割けている」のが明白だからで、筆者も年数回行く事が有るので、ピアノ・バーが悪いとは云わないが(笑)、「カルチャー」を学ぶ時間が無いとは云わせない。

そもそも日系企業の男性社員に取っては、この外国駐在時こそ「日本文化」を学ぶ大チャンスなので、外から母国を観て知る事ができると云うこの貴重な時間を、ゴルフとピアノ・バーだけで費やして良いのだろうか!

筆者のスピーチは熱くなり、もう一歩踏み込んで、日系企業駐在員に「日本のカルチャー」を学ばせるには、「その現地法人会社の社長なりCEOなりが、率先して模範となり指導して頂きたい」と申上げた。話し終えると会場は拍手万来、アドバイザーの日系企業人たちも「その通りだ!」と云い、握手を求めて来た…訳が無いだろう!(怒)…皆、唯下を向いて、黙って頭を掻いていただけであった。

何故こんな事を云ったかと言うと、NYと云う「世界経済の最前線」で戦っている(筈の)日系企業男性(勿論女性も)社員にこそ、「日本の文化」の知識が最も必要だと考えるからである。何故ならNYに集う世界各国のビジネスマンは、彼らと彼らの会社の製品を観て、「日本」と云う国を評価するからだ。

彼等は「売買する商品」と同様に、「日本の顔」なのである。日系企業駐在員の皆さんには、その責任感と誇りをもっと持って頂きたい。契約後の一杯や食事の時に、また相手に日本文化を質問された時に、日本文化を語れない日本人ビジネスマンが、世界の一流のビジネスマン達に尊敬されるだろうか。否、何故なら「真の国際人とは、自国の文化を、正しく他国の人に伝える事のできる人」だからである。

TOYOTAの例に洩れず、「日本の信用」は一日では回復できない。そしてそれは「企業」のみならず、海外で頑張る日本人一人一人の「信用回復」にも掛かっていると思う。