嬉しい「ハズレ」:「ロンドン・イヴニングセール」の結果速報。

昨晩は、当社ロンドンで「『印象派・近代絵画イヴニング』+『シュール・レアリズム絵画』」セールが開催された。

結果は驚く程の上首尾で、オークションに掛かった全ロットの81%、ヴァリューでは91%売り、69点で7683万英ポンド強(約110億6千万円)を売り上げた。この数字は「大成功」と言って良いであろう。

最高価格は「再び」ピカソの1963年の作品「Tete de femme (Jacqueline)」(女性の半身像:ジャクリーヌ)で、エスティメイトは300万ー400万ポンドだったが、何と810万5250ポンド(約11億6600万円)で売却。ピカソ寵愛の「二番目の妻」の肖像画で、サイズも大きな絵で有るが、良く此処まで売れたと云うのが正直な感想だ。それにつけてもこの作品は、たったの「2ヶ月強」しか筆者より「長く」この世に存在していないのに(この絵には、ピカソ自身による日付が記されている)、この差は何だ!と思うが当然か(笑)。

そして第2位は、何と「再び」ヴァン・ドンゲンである…世の中何かが間違っている!!この作品は「La Gitane(ジプシー女)」と名付けられた肖像画で、550万ポンドのエスティメイトの対して707万ポンド(約10億1800万円)の売却であった…最近ヴァン・ドンゲンが異様に高いが、何か理由が有るに違いない…しかし、確か前にも云ったような気がするが…ヴァン・ドンゲンですよ、ヴァン・ドンゲン(笑)。

セール全体を見渡すと、500万ポンド超で売れた作品が4点、100万ポンド以上が21点で、買い手の25%が英国、その他ヨーロッパが48%、アメリカが25%、そしてアジアが2%で有った。この「地図」で判る事は、やはりヨーロッパでは「シュール・レアリズム」の作品の人気がアメリカなどよりも滅法高く、ヨーロッパのブルジョワが根強い強さを持っている、と云う事だろう。

また、当社では同じ「印象派」のオークションでも、ロンドンとニューヨークではオークションに出す作品の「テイスト」を、かなり変えていて、これを判りやすく云えば「ヨーロッパ映画とハリウッド映画の違い」の様な感覚である。例えば「フォンタナ」や「イヴ・クライン」等は、アメリカよりもヨーロッパの方が価格が相当高いし、逆のケースもある。現代美術界の例外は「ピカソ」と「ウォーホル」で、彼等の作品は今現在世界の何処でも、「最も高いアーティスト」である。

結局、当社「印象派・近代絵画セール」は二日間で(二日目は「デイ・セール」)、総計9446万ポンド(約136億円)を売り上げた。事前エスティメイトが6850万ポンド有った事を顧みれば、大成功と云えよう。

さてサザビーズはと云えば、こちらも大盛況で39点中31点売れ、何と1億4682万ポンド強(約211億円)を一晩で稼いだ。

トップ・ロットはジャコメッティの「L'Homme qui marche I(歩く男 I)」で、1200万ポンドのエスティメイトに対して、何と6500万ポンド(約93億円)!!この作品は別ヴァージョンのモノ(サイズが小さい)を、筆者が日本勤務時代に顧客から引っ張り出して来て、NYの「20世紀美術」オークションの「最初のカバー・ロット」になった作品と同型のモノである。当時確か200万ドル位で、それでも良く売れた!という感じで有ったのを覚えているので、何とも「隔世の感」が有る。

ジャコメッティと云う作家は、前にもこのダイアリー(2009.11.1付)で述べたが、近代美術と現代美術を繋ぐ非常に重要な作家であるので、金額的に高くなるのは当然だと思う。因みにサザビーズの高額第2位は、クリムトの風景画「Kirche in Cassone(カッソーネの教会)」で、2700万ポンド弱(約39億円)であった。

こんなに売れては、筆者の「アート界:天気予報」も、早々と外れて来た模様(拙ダイアリー:「World Art Weather News 2010」参照)…。
が、こう云う「ハズレ」は、大歓迎なのである(笑)。

追記:因みに、このジャコメッティの価格は、「ドルベース」で云えば「オークションで売却された如何なる美術品」の中でも、史上最高価格である…。