「イヴ・クライン」と「最も小さく、高額な絵画」の夜 :現代美術イヴニング・セール@ ロンドン。

大雪の昨日とは打って変った晴天の今朝、才能溢れる英国人デザイナー、アレキサンダー・マックイーンがロンドンで死去した事を知った。40歳であった。

このニュースは、今朝早くから「ファッション・ウイーク」のニューヨークを駆け廻り、色々な憶測を呼んでいるが、彼の母親が数日前に亡くなっていたとの話も有り、恐らく自死では無いかとの事である。ああ云ったファンキーな感じの人に限って、繊細なのだろう…残念である。ご冥福をお祈りする。

そんなこんなで有るが、今日のトピックスは、ロンドンの「現代美術イヴニングセール」速報。

まず昨晩行われた、サザビーズのイヴニング。「味の有る」非常に趣味の宜しい「ショーンバーグ・コレクション」を含む79点中、6点のみが不落札で、総額5407万英ポンド(約77億8千万円)を売却。この「ショーンバーグ・コレクション」は、何しろ「ヨーロッパならでは」のコレクションで、内容的にはイヴ・クライン、フォンタナ、マンゾーニ、カステラーニ、ショーンホーヴェン等々のコンセプチュアル・アートがメイン。

しつこい様だが本当に作品の趣味が良く、普段は余り無いのだが、個人的にかなり「妬ける」コレクションなので有る(笑)。さて、そのコレクション・セールのトップ・ロットは、イヴ・クラインの大作「F 88」で、328万ポンド強(約4億7000万円)、2位がフォンタナの「Concetto Spaziale(空間概念); New York 26」が306万ポンド(約4億4000万円)で続いた。

レギュラーのイヴニングの方は、トップ・ロットがデ・クーニングの「Untitled XIV」で396万ポンド(約5億7000万円)、2位は筆者の敬愛するアーティスト、ルシアン・フロイドの「Self-Portrait with a Black Eye」で、284万ポンド(約4億890万円)であった。

このフロイドのオイル・オン・カンヴァス作品「黒い眼の自画像」は、滅茶苦茶力強い作品で、今回のサザビーズ出品作の中でも最も好きな作品なのだが、この落札価格はもしかしたら「意外に安い…」と思われかも知れない。が、それは大きな間違いだ。

何故なら驚く無かれ、この作品のサイズは、たったの「18.8 x 14.3cm.」だからである!流石フロイド、現在「世界最高峰の作家」の面目躍如・・・もしかしたらこの価格は、「最小絵画」の「最高価格」かも知れない・・・(何の根拠も無いが:笑)。

さて一方のクリスティーズはと云うと、52点中46点売却で、総額3915万ポンド(約56億3700万円)。又しても差が付いてしまったが、仕方がない(涙)。こちらは1位・2位とも何と「イヴ・クライン」で、トップロットは「Relief eponge or(金のスポンジ・レリーフ)」で586万ポンド(約8億4400万円)、2位の方は「Anthropometrie(人体測定)」で412万ポンド(約5億9300万円)であった。

この「人体測定」は中々に素晴しい作品であるが、しかしサザビーズのコレクション・セールとクリスティーズのトップ・ロット、そしてクリスティーズの2位の作品が、全て一作家と云うのは、誠に珍しい。しかも「イヴ・クライン」である!

このクラインと云う作家は、近年見る見る内に評価の高くなってきた作家の1人で、「ヨーロッパ・テイスト」バリバリであるが、34歳と云う年齢で死んだ事も有り、作品数が少ない。この「人体測定」は「パフォーマンス・ペインティング」や「公開制作」の「シグナチャー」と云えるが、それにしてもスゴイ。

先日も述べたが、この「ジャコメッティ」や「クライン」の様な作家は「近代と現代の架け橋」として、これから疑いなく、益々再評価が進むと思う。これは10-15年前には未だ見られなかった傾向だが、彼等の作品の持つ、底力の有る「斬新さ」や「揺ぎ無いコンセプト」、そして今尚保たれる「新鮮さ」は、今迄の「Modern and Impressionist」や「Post-War and Contemporary」と云った括りとは別に、これから「20世紀美術」のマエストロとして美術史に残ってゆくであろう。

今期の「ロンドン・イヴニングセール」は、その事を強烈に印象付けた結果であった。しかし、先週の「印象派・近代絵画」のセールに比べれば、今週の「現代美術」との売り上げの差は歴然で、やはり「不景気時には、歴史が長く信頼の置けるモノに金は動く」と云う事が実証された形だ。

晴れ時々曇り、と云う事か…。