張大千「チャイニーズ・ウォーホル」の誕生。

しかし略20年前、筆者が今の仕事を始めた頃の中国近代絵画、例えば張大千や斎白石、呉昌碩や徐悲鴻等の価格が大概80〜150万円位で有った事を考えると、日本近代絵画の価格の凋落と最近の中国近代絵画マーケットの隆盛には、隔世の感が有る。

そして日本美術を生業としている者に取っては、昨日と云う日は、本当に驚愕の1日で有った…。

それは、張大千(英語名:Zhang Daqian、1899-1983)の絵画が、まるで現代美術マーケットに於けるウォーホルの如く、香港の「近代絵画マーケット」を席巻したからだ!

先ずは、サザビーズで開催された「Mei Yun Tang Collection」と呼ばれる、25点の張大千のコレクション・セールだが、此れが凄い結果で有った。何しろ25点完売、総額6億8074万香港ドル(約71億3000万円)を売り上げたのだ…同一作家の、たった25点で、で有る。

トップ・ロットは「蓮と鴨図」で、1500-2000万香港ドルエスティメイトに対して何と1億9106万香港ドル(約20億円)!そして1000万香港ドル以上で売れた作品は、13点にも及んだ…こう為ると、もう「印象派」並みの結果で、「ヘッポコ『モネ』」よりもよっぽど高い。

対して、何と「8時間」掛けた末、今日6月1日午前0時半前に終了したクリスティーズの「近現代絵画セール」はと云うと、此方も物凄い売り上げで、総額9億5805万4500香港ドル(約100億5000万円)を達成し、64点出品された張大千作品は、3億9380万香港ドル(約41億3000万円)を売り上げのだ。

今回の中国近代絵画オークションで驚いたのは、古典絵画のセールとは異なり、会場に溢れる人と熱気、そして同一作家、しかも同画題の作品(例えば徐悲鴻の「馬」)が、一度にこれだけの数が捌ける事で、中国と云う巨大マーケットと人口の多さを痛感したので有る。

最後になったが、午前中に開催されたクリスティーズの「古画・書蹟セール」は、1億3505万2450香港ドル(約14億1500万円)を売り上げ、トップ・ロットは王鐸作1642年の「草書詩巻」で、3202万香港ドル(約3億3600万円)。張大千等の近代絵画に比べると、「何だ、そんな物か」と思ってしまう自分が怖い(笑)。

と同時に、「『南蛮屏風』の方が高いもんね〜」と、ほんの僅かに残ったプライドに、自己嫌悪を覚える自分も居たので有った(笑)。
結局、昨日1日のクリスティーズに於ける「中国絵画」セールは、ロット・ベースで95%、ヴァリュー・ベースで97%、10億9310万7250香港ドル(約114億6600万円)を売り上げ、クリスティーズ中国絵画セールの売り上げ新記録を樹立し、幕を閉じた。

「たった1日」で、89点の作品を10億7454万香港ドル(約112億6600万円)で売り尽くした張大千、「チャイニーズ・ウォーホル」の誕生と云えるかも知れない。