オトナの課外授業。

「オトナの課外授業」と聞いて、何と無くイヤラシイ事を想像した人は、本当にイヤラシイ人である(笑)。

残念ながら、そうでは無い(笑)…昨日はオトナの男3人組で、「御名残三月大歌舞伎」を観に行ったのだった。

メンバーは、ニューヨークの友人で、レム・コールハースのパートナーである(「ビジネス上の」である。念の為…笑)建築家のS氏、日本の友人で化粧品会社クリエイティブ・ディレクターのA氏と筆者。このお二人は所謂「歌舞伎ビギナー」なのだが、筆者が次回観に行く際には、是非「私を歌舞伎に連れてって」と云う事だったので、この「課外授業」となったのである。

このオトナの「生徒さん達」とは、来月一杯で取り壊される「歌舞伎座」前で待ち合わせ。S氏とA氏は、恐らくこのダイアリーに最も頻繁に登場する男達だが、本人同士は初対面で、お互いに「孫一さんのダイアリーで、いつも拝見してます」と訳の判らん挨拶をし(笑)、いざ満員の座内へ。

この「さよなら公演シリーズ」には、筆者ももう何度も足を運んだのだが、いよいよ来月末で「歌舞伎座」は本当に「さよなら」である。ニューヨークに住む筆者としては、来月末迄に日本再訪出来るかどうか判らない為、この思い出深い歌舞伎座に来るのも(嗚呼、一体何回来たであろうか!)、これが最後かも知れないと思うと、やはり強い寂寥感がある。

今月の演し物は3部構成で、我々が行ったのは「菅原伝授手習鑑 筆法伝授(すがわらでんじゅてならいかがみ ひっぽうでんじゅ)」と「弁天娘女男白浪(べんてんむすめ めおのしらなみ)」の「第2部」。3部制の内、この第2部を選んだ大きな理由は、やはり「弁天娘」が入っている事で、話の筋の判り易さ、数有る歌舞伎の中でも「名台詞中の名台詞」(「知るらざぁ云って、聞かせやしょう」、「問われて名乗るもおこがましいが…」等々)、そして千両役者が立ち並ぶ大団円、誠に華やかな「勢揃い」が有るからで、「ビギナー」には最適なのだ。

開演前には、S氏の強いリクエストで「アイス最中」を購入、席で「平均年齢41歳」の男3人が横並びでモグモグ食す…回りの人達からすると、さぞ異様な光景であったであろう(笑)。そして最初の狂言、「筆法伝授」が始まった。

流石仁左衛門は、格調高い演技で有ったが、源蔵役の梅玉が大人しすぎて、個人的にはイマイチ。真面目な忠臣の役ではあるが、「不義」で「勘当」された過去が有るのだから、もう少し個性を出しても良かったのでは無いだろうか。

休憩後はお待ちかね、「弁天娘」である…!やはり人気の狂言は、柝が入ると幕が開く前から座内がソワソワし始め、観客の期待感がひしひしと溢れ出る。そして呉服屋「浜松屋」に菊五郎吉右衛門が現れると、舞台と客席の空気が一瞬の内に変わった…花形千両役者とは、こう云う事なのだ。

しかし、この2人の役者は何しろ凄い。菊五郎の弁天小僧は、もう何度観たか判らないが、この役者の持つ「鯔背」な味わいは、間違いなく当代一であろうし、そして吉右衛門は、長い間筆者の最も好きな役者の1人で、「顔」が良い上に重い役でも軽い役でも、本当に上手い。

菊五郎の「知らざぁ云って聞かせやしょう」の台詞時には、座内万雷の拍手と「音羽屋!」の声、もう最高である!そして二幕の「稲瀬川勢揃い」では、花道に次々と登場する花形役者達(菊五郎、左団次、梅玉吉右衛門幸四郎)の艶姿、「しら浪」と書かれた傘、5人が一斉に振り向いた時に飛び交う、音羽屋!高島屋高砂屋播磨屋高麗屋!の役者への掛声、これぞ「歌舞伎」の醍醐味…もうタマラン!因みにS氏はこの「白浪五人男」を以てして、「江戸のSMAP」と呼んでいた(笑)。

引率者としては、「出語り」や「屋号」、「座付戯作者」に就いて等を解説、「オトナな生徒」のお二人も大満足(だと良いが…笑)、しかし皆「お名残」を惜しみつつ、歌舞伎座を後にした。

夜はS氏と、神楽坂の和食「来経(きふ)」で食事…開店から8ヶ月、大分味も落ち着いて来た。その後食事も終わる頃、ライターのHM女史、歌舞伎後「重要な打合わせ」を終えたA氏と、その彼女で「クレーの食卓」の著者Aさんも加わり、日本美術、その他アートやお笑い、「優ちゃん」と会話も目まぐるしく変わる「バトルロイヤル状態」と化し、「オトナの課外授業」の「居残り授業」(笑)も大盛り上がり。

A氏は今日からパリ、S氏は明日から北京→ソウル→オランダ→ニューヨーク、筆者は明後日ニューヨークと云う、奇跡的スケジューリングでの「オトナの課外授業」も大好評の内に終了。
「居残り授業」も、棄てたものでは無い(笑)。