謹賀新年、或いは「小春穏沖津白浪」。

申年の新年、明けましてお目出度うございます。本年もこのダイアリーと孫一共々、ご贔屓よろしゅうおたの申します。

と云う事で、年末の仕事は30日夕方の、六本木での打ち合わせで終了。その晩は学生時代の友人とのディナーの為、麻布十番に在る懐かしの焼肉店「E」へ。が、その焼肉屋のドアを開けた途端、僕の目に飛び込んで来たのは、何とニューヨークの画商Y氏の強面…偶然にも程が有るが(笑)、伝説的ディーラーで有るお父様とY氏に、年末のご挨拶をする。

そして大晦日…昼間は一所懸命掃除をし、夜は近所の美味い蕎麦屋「M」の蕎麦と「K」の太巻を抱えて、1/7からNYのGalerie Perrotinでの個展(→https://www.perrotin.com/exhibitions/upcoming-exhibitions.html)が始まるアーティストK氏宅へ。K&A、ベルナールと鱵の天麩羅、年越し蕎麦等を頂きながら、久々のK-1を観た。

さて、この晩の紅白の裏番組は格闘技番組のオンパレードで、その中でもお目当ての「魔娑斗対山本キッド」の一戦を観たのだが、これが又「ふざけんな、カネ返せ!」級の「期待外れの極致」的試合でガックリ。

魔娑斗は如何にも急な筋トレで作られたと思われるキレの無い身体と動きで、キッドは全くヤル気の無い試合態度…案の定KO等起こる訳も無く、タラタラとした3ラウンドの「怪我しなくて良かった」的な、ファイティング・マネー狙いのシラけた試合に終わる。「年を取った」と云って仕舞えばそれ迄だが、こんな試合を平気で観客に見せる両者の気が知れない。

と云った怒りと寒空の下、後30分で新年に為ろうかと云う頃、我々4人は除夜の鐘を撞く為に、某首相も座禅をしに来ると云う谷中の禅堂「Z」へ。先ずはH住職にご挨拶し、鐘撞き列に並ぶ。暫くして我々の番が来ると、鐘の音と共に「煩悩2015」を振り払い、身も心もスッキリして甘酒を頂くと、その後「初詣2016」に向かったのは、神田明神

着いてみると物凄い人出で、然も殆どが若い人達…が、毎年神田明神に詣でて居る者としては、年々初詣客、その中でも若年層の人数が増えて居る様に見え、然もこの状況を何処と無く薄気味悪く感じる。何故だろう…?

そんな大混雑を横目に、昇殿参拝をする我々はスイスイと進んで初詣を済ませると、元旦朝の〆として御茶ノ水駅前のアイリッシュ・パブで、4人で新年の乾杯をする…今年も良い年で有ります様に!

そうして年も明け、申年新年の2日間は母と実家で過ごしたが、3日は国立劇場にお呼ばれ…日本文学研究者のC先生にもバッタリお会いした、「平成二十八年初春歌舞伎公演ー通し狂言 小春穏沖津白浪(こはるなぎおきつしらなみ)」初日だ。

さて河竹黙阿弥作のこの通し狂言は、黙阿弥生誕200年の新春に相応しく、華やかで魅力的な作品で、脚本のみならずプロダクションも中々優れて居るのだが、何より菊之助菊五郎を筆頭に、役者達の演技が皆実に素晴らしかった!

僕が思うに、最近の菊之助の芸は若手役者の中でも抜きん出て居て、音羽屋に続くのは例えば壱太郎か染五郎、或いは七之助だろうか?そんな菊之助はこの「小春穏沖津白浪」でも、女形の妖艶さと立役の堂々とした姿形、狐の物の怪の魔性も含めて変幻自在の名演で、序でに時蔵権十郎等の名脇役が揃った事に拠って、時に冗長でダレて仕舞う「通し狂言」にも関わらず、全く飽きさせない大層出来の良い舞台を堪能した。

然し菊之助と云う役者は、何と魅力的な役者なのだろう…時に強く、時に怪しい目力と良く通る声、踊りの巧さと姿勢の良さ、そして彼の持つ独特の「気品」。團十郎勘三郎三津五郎を失い、仁左衛門吉右衛門福助も体調が優れないと聞く歌舞伎界だが、菊之助こそがこれからの歌舞伎界を背負って行くに違いない…そう確信させるに余り有る、新春舞台で有った。

菊之助の名演を眼にして、こいつぁ春から縁起がええわぇ…目出度い申年のスタートでした!


ーお知らせー
*Gift社刊雑誌「Dress」にて「アートの深層」連載中。1/1発売の2月号は、日本初の西洋絵画美術館と為った「大原コレクション」を創り上げた、コレクターと画家の偉大なる「コラボレーション」に就て。