若尾文子の白肌:「刺青」@Japan Society。

昨日の夜は、先ずは友人のアーティストI氏と「PHILLIPS」のレセプションに出席の為、チェルシーへ。

これは、来週開催される「Mrs. Harry N. Abrams」のエステイト・セールのプレビュー・レセプションで、絵画のみならず写真や立体、版画等の現代美術が中心となっている。値段も手頃な作品が多く、ウォーホル、リキテンシュタイン、クリスト(「ラップされた本」も出品されている。買っても開けない様に:笑)、デ・クーニング等などバラエティに富んだ作品群で、「この人、アートがホントに好きだったんだなぁ」と云う感じが強くするコレクションである。

ライバルとは云え、個人的には「PHILLIPS」のギャラリーが大好きで、特に昨日の様に天気の良い日の夕方は、大きな窓から見える「ハイライン」が夕焼けに染まったりして、グラスを片手に談笑する「綺麗な」男女と(いつも思うのだが、PHILLIPSのパーティーに来る客は、男女ともウチよりも若く、綺麗な人が多いと思う…。因みにフィンガー・フードを配る、ウエイターの男の子たちも「かなり」美しい)、高い天井のホワイト・キューブに飾られたアートが、如何にも「The New York」と云う雰囲気なのだ。

中々美味しいアジアン・フィンガーフードを食したり、何人かの知り合いと談笑した後は、「Globus Film Series」の初日、増村保造監督作品「刺青」を観にジャパン・ソサエティーへと向かう。

このイヴェントは、友人のスティーヴ・グローバスが後援しているプログラムで、今回のシリーズ・タイトルは「Mad, Bad… & Dangerous to Know」。そしてその内容も非常に興味深く、若尾文子梶芽衣子、そして岡田茉莉子と云う'60-'70年代の日本を代表する3人の「美人女優」が、所謂「Femme Fatale(悪女)」を演じた作品を集めて上映すると云う、意欲的な試みなので有る。こう云う企画ができる所は、流石ジャパン・ソサエティだ。

初日の昨日は、増村保造監督・若尾文子主演、1966年度作品の「刺青」。この作品は先ずスタッフが素晴しく、谷崎潤一郎原作、脚本は新藤兼人、撮影は宮川一夫、そして脇を固める俳優も、御馴染み佐藤慶山本学、内田朝雄、そして長谷川明男と渋い、しかし「プロな」面子である。

そして結果から云えば、最高に面白かった!先ず若尾文子が、筆舌に尽くし難い程生々しく、美しい。劇中「彫師」役の山本学が、「こんなに綺麗な白い肌は、初めてだ」と唸るように、若尾の肌は本当に美しく、背中に彫られる「女郎蜘蛛」の刺青が妖しく蠢く(ボディ・ダブルが使用されているのが残念だが)。

そして若尾の「黒川紀章との実際の生活も、きっとこうだったのでは無いか」と我々に「マジに」思わせる、その冷たい美貌と「裕福で勝気な町娘」の演技は、騙され縛られ、麻酔を嗅がされ、そして刺青を彫られて呻くシーンや、最後に情夫新介に棒で折檻されるシーン等に代表される様に、劇中その乳房ですら一度も見せなかったにも関わらず、かなりエロティックなので有った。

監督の増村は、東大法学部卒業後文学部哲学科に再入学し(三島とも交友が有ったらしい)、その後イタリア留学中には、巨匠ヴィスコンティフェリーニに学び、帰国後は「溝口」等の下でも働いた、所謂「インテリ・エリート映画人」である。この作品で増村は、「日本映画の近代化」を目指した監督らしく、谷崎の原作に於ける登場人物をより近代的人間として表現し、宮川のカメラ・ワークと相見えてテンポも非常に良く、今観ても決して古臭くない。

また原作の時代背景も有るだろうが、「歌舞伎」の演出要素らしきモノが「殺陣」や「道行」のシーンにかなり見られ、実際「幕末浮世絵」を見ている様な感じもしたのだが、町娘が裏切られた末、刺青を彫られ、芸者になっても「男」を利用し食い物にし生き延び、情夫やヤクザ等を手玉に取って逞しく生きていく姿は、戦後に於ける「女性の自立」的な、近代意識も強く感じられた一作であった…流石、増村である。

上映後は、満員の観衆から盛大な拍手。そして元「チボ・マット」の羽鳥美保がDJをする、上階でのレセプションへ向かったが、暗い会場には既に満員の人だかりで、食べ物もアッと云う間に消え失せた…ので、早々と会場を後にしI氏と食事。このI氏との話は、彼のブログの或る話も含めて大層面白いので、追ってこのダイアリーで紹介したいと思う。

しかし「若尾文子」、イイ女だった…岡田茉莉子も観に行こう。