"Masterpieces of European Painting" from Dulwich Picture Gallery@Frick Collection.

ニューヨークの気温がまた少し涼しくなったので、昨日はコートの襟を立てながら、顧客の所へ行った序でに、久し振りにアッパー・イーストサイドに在る「Frick Collection」を訪ねて「特別展」を観て来た。

この「フリック・コレクション」は、「クロイスターズ」「ノイエ・ギャラリー」と共に、NYでの筆者お気に入りの小美術館。日本人が意外に訪れない穴場的な美術館で、ピッツバーグの鉄鋼王ヘンリー・クレイ・フリックが蒐集した、余り大きくは無いが質の高い「オールドマスター絵画」コレクションを、コレクター本人の邸宅に展示している、所謂「邸宅美術館」である。

今回の特別展は、上記タイトルの如しであるが、この「ダルウィッチ美術館」は1811年ロンドンに創設された「イギリス最古」の一般美術館で、「ナショナル・ギャラリー」よりも古い歴史を持つ。因みに、クリスティーズもサポートをしているこの「ダルウィッチ美術館名品展」は、作品9点のみの小展覧会だが、目玉のレンブラント「Girl at a Window(窓辺の少女)」(1645)を筆頭に、ゲインズボロ、ワトー、プッサン等に拠る名品揃いなのである。

余談だが、この美術館に来ると、毎回「あぁ、俺は東洋人だなぁ…」と思うのはどうしてだろう。アメリカで云えば、ボストンの「イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館」等もそうだが、19世紀の米国エスタブリッシュメントの「邸宅美術館」に行くと、何処と無く居心地が悪い。筆者は、日本人としては仕事柄そう云った場所には慣れて居る方だと思うが、恐らく外国人が日本で「桂離宮」や「豪商古民家」等の「個人宅」を訪ねる時に感じる、ちょっとした「異邦人感」と云える様な「違和感」なのかも知れない。

入館し早速「特別展」へと向かう。特別展示室入り口に、目玉のレンブラントが掛かる。可愛い少女の絵であるが、クラックもかなり目立つ上ヴァーニッシュも強く施されており、残念ながら状態が余り宜しくなかった事と、個人的に「レンブラント」は、やはり「男」の絵の方が良いと改めて感じた。

レンブラントを後にし、展示室にて9点の絵を観て廻る。ゲインズボロの大作やワトー等も中々良い絵と思ったが、抜群に素晴しかったのは、何と云っても二コラ・プッサンの「The Nurture of Jupiter(ユピテルの養育)」(1636-37年)であった。

この絵から溢れ出る、力強く肉感的な人物表現、空の「青」さ、山羊の足を押さえるニンフのドレスの「青」と、立つニンフが纏う「オレンジ」のコントラスト、そして何よりも、牧人が角を押さえニンフが足を押さえる山羊の乳を、「そっくり返って」飲むユピテル…この三角形の中央となる構図が、大変素晴しい。プッサンに拠る同画題は、ベルリン国立博物館絵画館とワシントンのナショナル・ギャラリーにも有るそうで、後でウエッブサイトで観てみたのだが、この作品の構図がやはり一番素晴しい…眼福であった。

9点観た後は「フリック・コレクション」を再見。もう何度見たか判らないが、筆者が最も愛する絵画は何と云っても、ハンス・メムリンク「Portrait of a Man」(1470年頃)、ジョルジュ&エティエンヌ・ド・ラ・トゥール親子の「The Education of the Virgin」(1650年頃)、そしてゴヤ「Don Pedro, Duque de Osuna」(1790年代)の3点である。

特にメムリンクは、その昔ベルギーで初めて彼の作品を実見し、そして此処「フリック・コレクション」で2005年に開催された「Memling's Portraits」展でも大変な感動を得て以来、オールド・マスターの如何なる画家の中でも、最高に好きな画家の1人である。この画家の余りにも静謐な、そして細密写実の絵画は今観ても全く古臭く無く、同じ作品を何度観ても変わらずに「新鮮」なのだ…これは驚くべき事なのである。

この展覧会は、5月30日迄…プッサンの大名品とメムリンク、ラトゥール、ゴヤは一見の価値が有る。騙されたと思って、是非お出かけあれ。