氷の様に冷たく、炎の様に熱い女:「情炎」@Japan Society.

昨晩は、若い友人でマンハッタン音楽院に通うS君と、吉田喜重監督、岡田茉莉子主演の1967年度作品「情炎」を観に行った。

この「情炎」は、ジャパン・ソサエティで開催されているフィルム・シリーズ(今度の日曜で終わる)「MAD, BAD…& Dangerous to Know」で公開されている一本であるが、数日前に若尾文子主演の「刺青」を観て、これは岡田茉莉子も観ねばとの理由で、いそいそと出掛けたのだった。

「情炎」は、50代半ばで惜しくも他界した直木賞作家、立原正秋の原作で、この立原正秋と云う人は「食通」としても知られていたが、古美術品特に李朝陶磁器や家具の蒐集で有名であった人である。またこの映画の舞台も、立原が住んだ「鎌倉」や茅ヶ崎などの「湘南」となっていて、「私生活」を作品に反映させた作家らしい。

さて観た感想は、何しろ音楽やタイトル・ロール、カット、カメラ・ワーク、ふいに台詞音声が途切れる演出、イメージシーンの挿入、そして最後の終わり方迄、東大仏文科を出、フランスをこよなく愛する監督らしく、「ラ・ヌーヴェル・ヴァーグ・ジャポネーズ」であった。特にカメラ・ワークとその光の調整が素晴しい…吉田は伊達に主演女優の夫では無く、「妻」である岡田茉莉子がどう撮れば最も美しく見えるか、どの様な光とアングルが彼女をよりエロティックに、美しく見せるかを、流石吉田は熟知している(実際カメラが、岡田を本当に嘗め回すように撮る)。

岡田茉莉子は、これぞ「クール・ビューティー」と云った感じで、マグマの様に熱い「情」を、氷の様に冷たい「表情」で押し隠す演技が素晴しい。瞳がマジ綺麗で、ゾクゾクする(笑)。人物設定も興味深く、立原の小説は常に「大人の恋愛」をテーマとしており、時たま骨董品や絵画なども登場するのだが、この作品も「男の嫉妬」が非常に強調され、また主人公の1人で、岡田が愛する母親の元愛人の「彫刻家」(このキャラクターは、当然「小説家」である立原の分身であろうが、劇中の「石の彫刻」作品は、流政之氏の作品の様にも見える)が登場するなど、アート好きな事が伺えるのも面白い。

この作品は、人間・愛憎・肉体・親子・夫婦・愛人などの各「関係性」の疑義に溢れ、その最たる「外の自分」と「内の自分」との「関係性」が、侭成らない事に因って起る破綻を、こう聞くとしつこそうだが、実は非常にアッサリとした演出で見せているおり、そこが非常に素晴しい。

この吉田喜重岡田茉莉子の夫婦、若い頃はさぞかし「エロかった」んだろうなぁ…今もかな?(笑)。