「個人」で闘う勇気、或いは「和して同ぜず」。

先ずは、嬉しい報告から。3月のオークションで不落札だった「カヴァー・ロット」の「吉野山図屏風」が、「アフター・セール」で32万6500ドル(約3040万円)で売れました!これでバジェットもかなり助かる…粘って頑張った甲斐が有った。

さて天気が素晴しかった日曜日は、久しぶりに会う友人Tとその友人でキュレーターのMさんと、ソーホーの「Chinatown Brasserie」で「飲茶」ブランチ。

Tは大学時代の友人で、某ミシン・メーカーに勤めているのだが、アメリカ、オーストラリア等海外にもかなり長く駐在しており、今回はアメリ現地法人のCEOとしての赴任である。彼の話によると、世界で今最もミシンが売れる国はアメリカで、しかもそれは「高級ミシン」だそうで、何と一台「3万ドル」もするらしい!

では、それを何に使うのかと聞くと、今アメリカ富裕層では趣味としての「キルト作り」が大ブームで、例えばコンピューターで画像をインプットすれば、その通りのイラストなり文様が自動的に縫える、この「インテリジェント・ミシン」がバカ売れなのだそうだ…筆者はてっきり中国や東南アジア、中南米のほうが売れると思っていたので、ちょっと吃驚したのだが、どの世界でも「『富裕層狙い』のビジネス」で上手く行っている企業が多いと云う事が、興味深かった。

そして飲茶の方はと、目(口)新しい現代的「ディッシュ」も有り、中々美味しく頂いた。ワインのボトルを空け食事も満喫した後は、彼らに別れを告げ、友人の家具デザイナーのK君が出展している、JAVITS Centerで開催中の「ICFF(The 22nd annual International Contemporary Furniture Fair:国際現代家具見本市)」へと向かう。

この「Javits Center」は、モーター・ショウ等を開催する、所謂「コンヴェンション・センター」で、我が家から徒歩2分のハドソン川沿いに在る。K君に入り口まで迎えに来て貰い、早速入場。このフェアは、基本的にバイヤー向けなので直接買う事は出来ない様だが、インテリア・デザイナーやカンパニーが世界各国から集い、会場は活気が有って中々壮観である。

K君は、友人と2人で立ち上げたブランドでの「ブース出展」。ベニヤ板を何枚も重ねて型に嵌め、暖めてゆっくりと曲げて行ったという、綺麗な椅子が彼の作品である。座り心地の良い彼の椅子は、「日本的」とも見える豊かな曲線が美しい作品であった。

暫しK君と話した後は、会場を探索。やはり北欧やドイツ、イタリアの会社が多いが、個人的にはイマイチな感じ…素人なので無知なのだが、期待していたもっとアートっぽい作品は「ミラノ・サローネ」辺りに出るのだろうか。聞いた所に拠ると出展者は38カ国642社で、今回出展の日本企業は11社だそうだ。云われてみれば、「景和」落款の若冲水墨画(恐らくプライス・コレクションのモノ)をデザインした椅子を展示している、日本企業のブースも有ったりした。

暫く観て歩いていたら、成る程日本からの作品らしき物が並ぶ一角が…良く見ると「JETRO日本貿易振興機構)」のブース(各企業・商店の複合体をJETROが統括している)であった。

そして我々夫婦は、このブースを見て複雑な気持ちになってしまったのだ。

それは、ザッと会場を歩いて見た限りでは、恐らく「我国」だけがJETROの様な「国の組織」を以てして、ブースを出していたからである…実際他国もその様なブースを出していて、見落としていたら申し訳ないが、しかしそれでも「?」なのだ。

どう云う事かと云うと、「国が応援する」「国としてプロモートする」のが全て悪いとは思わないが、しかしニューヨークのこの様なビジネスの聖地で、「万博」でも無いのに「国のブース」を見てしまうと、何やら日本企業の「競争力の無さ」を改めて見せ付けられている様で、云わば「親が子供の運動会に手を貸している」、若しくは「子供が親に手伝ってと泣き付いている」様な、何とも云えぬ「恥ずかしさ」を感じてしまったのだ。

これは、日本が未だ「経済的発展途上国」ならいざ知らず、幾ら国の経済状態が悪いとは云え、国と企業で「過保護的」に手に手を取り合って出展しているグループと、その一方、国の援助など貰えず、また期待もせずに、果敢に「個人で」挑戦するK君の様なデザイナーや企業とが、「同じ舞台」で商品を見せているからに他ならない。その上、その「グループ」には、「Isamu Noguchi:AKARI」の単なる焼き直し的商品も有ったりして、クオリティ的には正直「イマサン」で、それも我々に「恥ずかしさ」を増させた大きな理由の1つであった。

この日会場を出てから、「個人」で頑張っている友人K君に改めて尊敬を覚えて、「ガンバレ日本人!」(この日本人とは、勿論「個人」の事だ)と心で唱えながら、Y先生も良く仰っていた「論語」の或る文言を思い出した…。

「君子は和すれども同ぜず、小人は同じて和せず」。