どんな「お茶碗」がお好きですか?

昨日は、今年の大学フレッシュマンで、6月頭から日本・韓国美術部門で「サマー・インターン」をするHが、友人でメリル・リンチに勤めるT女史と来社。

そもそもこのHは、T女史に拠る紹介だったのだが、それはT女史の顧客でブロードウェイの有名プロデューサーで有るHの父親からの依頼が有った事と、H本人が日本のアニメを通して日本と日本文化に深い興味を抱いている事も有り、女史から「クリスティーズで、Hがインターンを出来ないだろうか」との相談を持ち掛けられたからで有った。

実はこう云った「裕福な個人」の子女を、「インターン」や社員として短期・長期に雇う事は、オークション・ハウスでは決して珍しい事では無い。

今回Hをインターンとして受け入れる事は、メリル・リンチのT女史に取っては、Hの家族との関係を深めるられるし、クリスティーズに取っては新規顧客開発の可能性と云う大きなメリットが有り、その上何よりも、本人が日本文化に興味津々で日本語まで勉強していると来れば、正に「渡りに舟」なのだ。下見会やオフィス、ウエアハウス等を案内し、その後3人で「そばランチ」。Hは溌剌とした素直な良い娘だったので、今から一緒に働くのが楽しみである。

さてその夜は、久々に目利き古美術商のKY氏と、焼き鳥屋「S」でサシの食事。

当然、日本美術の将来や業界四方話になったが、食事中「世の中のどんな茶碗でも1つくれてやる、と云われたら何を貰う?」と云う質問をKY氏に投げかけた。KY氏は「ウーム、ええ質問やなぁ…」と云いながら、思案顔。暫くして出て来た答えは、「やっぱり『志野』ですかねぇ」で有った…三井記念美術館蔵、国宝「卯花墻」である。

「ナルホド、非常にKY氏的な好みだなぁ」と何処と無く思ったのだが、それは古人曰く「『好みのモノ』と『その人』は似る」と云う事なのかも知れない。

因みに帰宅後、長い茶陶の家の娘である妻に聞いたら、瀬戸黒の名品「小原女」(若しくは光悦「加賀光悦」)と断言、そして筆者はと云うと、これは断然長次郎の「唯一」の茶碗、「ムキ栗」なのである(「つゝみ柿」も捨て難いが)。再びナルホド…確かに「『好みのモノ』と『人』は似ている」かも知れない…詳しい説明は差し控えさせて頂くが(笑)。

では、何故筆者に取っての「この一碗」が「ムキ栗」かと云うと、筆者はこの「ムキ栗」は、或る意味非常に「禅的」な茶碗では無いかと強く長く考えていて、黒く優れた釉調と、その造形も長次郎の「遊び」とも「作意」とも云われる、「□と〇」を併せ持つ特異な姿…伝統的且つ現代的で、作り手(利休と長次郎)の意志が強く反映されている…これぞ「ザ・桃山芸術」の結晶なのでは思う。

そしてもう一点重要な理由は、「こんな茶碗」は世の中に他に二つとして存在しない、と云う事だ。

焼き鳥屋を出て、恒例のカラオケに突入しても日本美術の話は尽きる事が無かったが、EXILEミスチルを唄った後、結局何時もの様に、「酒よ」で締め括られた一日で有った(笑)。