「ロボゲイシャ」が日本を救う。

さて今日のダイアリーは、一昨日に遡る。

火曜日の晩は友人のアーティストI氏と、映画「ロボゲイシャ」のニューヨーク・プレミアの為、ジャパン・ソサエティへ行って来た。

ご存知の方も多いと思うが、この映画は井口昇監督の2009年度作品で、YOU-TUBEでも大ヒットしている「超カルト・スーパーB級映画」。監督の井口氏はAV監督兼男優、しかし何と云ってもアメリカ資本で制作し、タランティーノへのオマージュとも云える「片腕マシンガール」で、アメリカでもその名を馳せている監督である。

さて作品はと云うと、もう一言「サイコー!」であった!ここ何年で観た映画の中でもベスト3には入る…ハッキリ云って、井口監督は「天才」である。

種明かしになるので此処には記さないが、ストーリーは単純明快で、要は「ロボ・コップ」「ターミネーター」「トランスフォーマー」「X−MEN」「マトリックス」「キル・ビル」「ゴジラ」「大魔神」「木枯し紋次郎」「牛久の大仏」(これが判る人は、余り居るまい:笑)を、全部足して割ったような「おバカ映画」であるが、その「おバカ」振りが尋常では無く、「徹底している」のだ。

先ずチケットは「ソールド・アウト」で、会場は超満員。そして驚くべき事に、ジャパン・ソサエティでの映画では異例な事だが、99%が外国人の観客で、恐らく日本人は我々入れても8人未満。中には「青いモヒカン刈り」の白人女性や、外人オタク、身なりの良い中年夫婦等、余りにもバラエティに富んだ客層で、井口監督とこの「ロボゲイシャ」の人気が伺えた。上映に先立ち、アメリカでのトレイラーらしき2人組みの男が出てくると、もう会場は大騒ぎ。彼らは、筆者やI氏等には全く判らん井口監督作品に関するクイズや、日本のカルト映画に関する質問を会場に投げかけ、その正解者にはDVDやTシャツを投げ与える。もう「ロッキー・ホラー・ショウ」並みの盛り上がりであった!

そして上映が始まると爆笑に次ぐ爆笑、時折声援も飛び、しんみりした場面では会場一斉に「オォー」と溜息が洩れる。しかし断言するが、筆者とI氏は「決して」会場の雰囲気に呑まれた訳では無い…本当にこの映画は、素晴しかったのだ!

先ず2時間、息吐く暇が無い。そしてその予想の付かない「展開」とその「速さ」に、観客はブッ飛ぶ。俳優陣も竹中直人、志垣太郎、生田悦子田口トモロヲ以外は誰も知らないが、誤解を恐れずに云えば、これ程「俳優」が誰でも良い映画も珍しい。それ程この「ロボ芸者」の脚本・構成・映像は、観る前の「余りにも下らなかったら、どうしよう」とか「ムカついたら、ただでは済まさん!」的予想を、完璧に覆す程に物凄いのだ。そしてこの作品には、勿論「スプラッター」と「エロ」もかなり割合で出てくるのだが、不思議とグロ過ぎず、ヘンな言い方だが「品位」を感じる出来映え(笑)になっているのもスゴイ。

まぁ、幾ら説明した所で観ていない人には「決して」判らないと思うので(実際、観た直後に、筆者とI氏の「妻」達が合流してディナーとなったのだが、その時彼女達には、我々が何故こんなに興奮して、唾飛ばしながら「ロボゲイシャ」なる「おバカ映画」の賛辞を捲し立てているのか、理解不能だった様である)、観てない人は何しろ観て頂きたい。そして、良かったらコメントを寄せて頂きたい。

が、一点だけ云いたい事がある。それは、先日此処に記した「個人の力」にも関するのだが(拙ダイアリー:「個人で戦う勇気」参照)、食う為に(もしかしたら、ただ「好き」なだけかも知れないが)「AV監督・男優」をしている典型的「オタク」の井口監督が、日本で金を出して貰えずアメリカ資本で発表した「片腕マシンガール」が大ヒットし、今回のこの「ロボゲイシャ」のプレミアも超満員、上映中と上映後には大拍手と喝采を受け、「日本のオタク魂」を見せつけた。

そして今の今まで、正直筆者には「オタク」に所謂「食わず嫌い感」が有ったのだが、この映画はその考えをも根本からひっくり返し、そして井口昇と云う40歳の日本人オタク男性が、外国人のみならず「憂国日本人」の我々をも、これ程迄に熱狂させる事ができると云う事実に、日本の個人力の「希望の光」を見た、と云う事なのである。

そもそも「アート」を名乗る以上、「コンテンツ産業」とか「国立マンガ美術館」の名を借りて、「国家」や「JETRO」の様な所に「保護や後援」、「生活補助」を求める段階で、それが個人の競争力と創造力を殺ぐと云う事が、何故判らないのだろう…AV出身(「日活ロマンポルノ」、では無い)のオタク監督が、恐らく自分の欲望と夢想を実現するだけの為に、敢然と産み出したノン・ストップ痛快超B級活劇「ロボゲイシャ」は、そんなチンケな考えを笑い飛ばす程の「究極のバカさ」を以てして、此処が肝心なのだが、「曖昧さの全く無い、徹底した創作力」を感じさせたのだった。

ロボゲイシャ」にこそ、日本(と、そのアート)の未来を救う、究極のヒントがあるかも知れない。