とてつも無く、素晴らしい一日。

昨日と云う日は、決して戻って来ないが、しかし生涯忘れる事も出来ないだろう。

「思えば、通ず」とは良く云った物だが、人とモノの「縁」の、不思議さと強さを改めて目の当たりにした1日だったのだ。

此処に詳しく記せないのが残念、と云いたい所だが、記したく無い気持ちも強い…。「訳が解らん」と思われるかも知れないが、それは朝から拝見した或る美術品の事で、何とも、其れ程に感動してしまったからだ。そしてその「モノ」のお陰で、時差ボケも一瞬の内にブッ飛んだので、その効果にも大感謝(笑)。

感動も冷めやらぬ侭、久し振りにお会いしたS氏と、「O」でランチ。超旨い「パリソワーズ」(ヴィシソワーズにコンソメジュレが入っている、冷たいスープ)と、オムライスに舌鼓を打つ。最高の美術品を拝見した後に、最高のランチ…話が弾まね訳が無い(笑)。

食事後、もう1人顧客と会った後は、夕方から新橋演舞場へ…海老蔵の「助六」の千穐楽を観る為である。

さて「五月花形歌舞伎・夜の部」の演目は、「一谷嫩軍記 熊谷陣屋(いちのたにふたばぐんき くまがいじんや)」、「うかれ坊主」とお目当ての「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)三浦屋格子先より水入りまで」の三狂言

「熊谷陣屋」は、染五郎が直実を演じた。厳しい様だが熱演も何処と無く表面的に感じられ、正直まだまだ…吉右衛門を見習うが宜しいと思う。時間の短い舞踊「うかれ坊主」は食事が長引き、パス…踊りの巧い松緑なので、ちょっと残念だったが、松緑は年を取ってから味の出る役者だろうと思う。

そして、御待ちかねの「助六」である。流石当代唯一無二の千両役者、海老蔵の「助六」とあって会場は熱気が充満、しかし老若問わず、何と女性ファンの多い事か(笑)。

海老蔵の「助六」を観るのは、襲名公演以来だが、さて今回はどうだろう?

河東節に乗っての「出端」では、花道半ば迄傘をすぼめて出てきた海老蔵が、パッと傘を挙げた時の華やかさは、今回も流石であった!しかし通して観た感じでは異論も有ると思うが、ちょっと役に馴れてしまっている感も有り、セリフもやり過ぎの感を拭い切れなかった。

今の歌舞伎界に於いて、海老蔵には「本当の」ライバルがいない。そして最高の「助六役者」は、自分を措いて他には居ない事を、何処と無く知っていると思う。馴れとは恐ろしいもので、或る意味技術的にはより未熟だった襲名公演の時の方が、その新鮮味も含めて良かったと思った程だ。

結婚して落ち着くのも良いし、芸に対して貪欲な事も良く知っているが、「宗家」としてのこれからの更なる精進を、期待して止まない。

其れに引き換え、昨夜の「揚巻」、福助の素晴らしさと云ったら無い!福助が元来味の有る女形なのは勿論判っているが、昨日の福助は、海老蔵襲名公演の玉三郎に勝るとも劣らなかった。

最初の花道道中のホロ酔い具合、最後の「この揚巻がいなんだら、仲之町は闇になる」のセリフ等、気合と色気を兼ね備えた「悪態・啖呵」や、純情で気の強い「1人の女」としての花魁の演技と所作がスゴい…僭越ながら、福助さんを見直しました!

しかし「助六」と云う狂言は、2時間を超えるかなり長い「一幕物」にも関わらず、少しも飽きる事が無い。定番の「股潜り」や「粋人」、華やかな演出、「悪態」に代表される面白い台詞廻し、また22年振りに上演された珍しい「水入り」や立回り等、歌舞伎の醍醐味満載だからである…「十八番」の「由縁」だ。

あぁ…昨日と云う日は、朝の「スゴいモノ」から、夜の「助六」迄、何とも、とてつもなく、素晴らしい1日で有りました。