「駈け眼」。

陽射しの強かった土曜日は、朝イチで歯医者に行った後、先ず顧客の所へ。

「都」での「能縁」(笑)が効いたのか、「小面」、「敦盛」、「節木増(ふしきぞう)」、「筋怪士(すじあやかし)」の能面四面を獲得。またこの夏も、是非東京での下見会を開催したいものだ。

顧客宅を後にして、目黒区美術館で開催中の、「紅心 小堀宗慶展」に向かう。

何しろ日本に来ても多忙の為、観たい展覧会も中々観れないのだが、帰米が数日後に迫った昨日は、自ら選んだ展覧会を、急ぎ足で廻る事にしたのだ。

さてこの展覧会は、遠州流先代家元の自作品と、ご自身がその生涯で関わりの有った名品を展示する物であるが、その中でも、何しろ道具の王者達、「馬蝗絆」と「喜左衛門」、「初花」と「柴田井戸」が必見。

会場は結構空いていて、ジックリ観る事が出来た。しかし、久々に観た重文の南宋青磁碗、「馬蝗絆(ばこうはん)」の上がりの美しさは、やはり尋常でない!

足利義政所持の時代にヒビが入り、義政が「代わりのモノ」を探させる為、見本としてこの碗を明に送ったのだが、「こんなに発色の良い青磁は、明時代には無い」として、鎹(かすがい)を打たれて送り返された、と云う逸話は、強ち作り話では無いのではないか…。それ程にこの碗は美しい。色肌、上がり、形状、鎹すら、まるで絶世の中国美人を観る様だ。

国宝「喜左衛門」は立派な井戸茶碗だが、その背負った逸話の数々のせいかも知れないし、個人的に「小井戸」の方が好きな事も有るのだろうが、正直何処か禍々しく、寂しい感じがした…茶を点てると、その表情も変わるかも知れないが。大名物「初花」は流石、「茶入の王者」の風格であった。

さて最近「能縁」の強い筆者が次に向かったのは、サントリー美術館で始まったばかりの、「開場25周年記念 国立能楽堂コレクション展 能の雅 狂言の妙」である。

美術館は非常に空いていて、静かな会場にBGMとして流れる謡と囃子、暗い会場に浮かび上がる能面や衣装は、幽玄の世界を醸し出す。

しかし、印象派の展覧会にあれだけの人が殺到するのに、何故此処がこんなに空いているのか…此方としては空いている方が嬉しいに決まっているが、日本文化保護育成教育の為には、モーツァルトやベートーベンの様に、早く世阿弥を小学校の「音楽室」に導入して頂きたい…外国文化の前に、先ずは自国文化の勉強じゃないのか?…日本人よ、しっかりしろ!

また熱くなってしまった(笑)…本題に戻る。

最近、旧カネボウ・コレクションが、国立能楽堂に入ったとの噂も有るが、国立能楽堂のそれは流石に凄い。何しろ「面」が須く素晴らしく、特に朝観たモノと同じ友閑作の「小面」、18世紀の「敦盛」、そして天下一大和の、美しくも珍しい「泣増」の三面が恐い位に美しい。また、「二十余(はたちあまり)」や「神躰」等の珍しい面も見所である。

驚いたのは、展覧会の最後に寄託品として出展されていた「北野演能図屏風」で、この四曲屏風は、筆者が数年前にアメリカ国内で見つけ、オークションに掛けた作品である…出世したものだ。

ミッドタウンを出て、行き付けのカフェ「L」で休憩した後、最後は大汗をかきながら、出光美術館で始まった「屏風の世界―その変遷と展開」展へ…出光所蔵の、所謂屏風絵名作展だが、此方も見応え充分だった。
大好きな「天神縁起尊意参内図」や「江戸名所図屏風」、金銀箔砂子の室町屏風群、相阿弥や阿国歌舞伎図、南蛮屏風迄、大名品の目白押しで、観るのにも気合が必要…余計に汗ばむので、ご用心を(笑)。

三館を駈け足、いや「駈け眼」で廻った1日…足は疲れても、眼は爛々とした侭だった。

日本滞在も、残り数日…ラスト・スパート、である。